第22話 ソラの告白

 ソラと仲直りした翌朝。

 いつも通り一人で家を出ると、なんとソラが後ろから抱きついてきた。


「ソ、ソラ? 急にどうしたの?」


「一緒に行こ! あと、お兄ちゃんのためにお弁当も作ったよ!」


「……変なもんでも食べたのか?」


 そんなキラキラした笑みを向けられるようになるとは思いもしなかった。仲直りしたのは嬉しいけど、まさかここまで好感度が爆上がりするなんて……


「お兄ちゃんとまた仲良くなれたのが嬉しいだけだよ!」


 と言って、ソラは俺の腕を引いた。


 外へ出ると、俺はソラに左腕をホールドされていた。


「お兄ちゃん! お兄ちゃん! お兄ちゃん!」


「ん?」


「えへへ、呼んでみただけ!」


「……そう」


 どことは言わないが柔らかいし、なんだか甘い香りが漂ってくる。心臓に悪い。義理とはいえ妹にそんな気持ちを抱くのはナンセンスだと思う。


「お兄ちゃん、今日はお昼一緒に食べてもいい?」


「ん、ああ……悪いけど、昼休みはスミくんに勉強を教えないといけないんだよ。ソラも知ってると思うけど、スミくんはね……」


「あ、確かにスミお兄ちゃんは勉強ダメダメだもんね。なんでうちの高校は入れたのかもわかんないくらいだし」


 ソラから見たスミくんの評価は辛辣だった。

 まあ、おおむね事実なんだけどね。


「それより、ソラは勉強しなくていいのか?」


「お兄ちゃんは知らないと思うけど、私って結構頭良いんだよ?」


「そうなのか」


 そんなイメージはなかった。ソラはギャルに近いような、勉強が苦手なタイプだと勝手に思っていた。


「たくさん勉強頑張ったんだから」


「ふーん。勉強が好きなのか?」


「……違うよ、お兄ちゃんと同じ高校入るためだよ。大学も同じところに行きたいから、これからもっと勉強頑張らないとだし」


「っ……」


 心臓が跳ねた。でも、顔には出さないでそっぽを向いた。


「私、昔からお兄ちゃんのこと、好きだよ」


「へ?」


 耳を疑ったけど、横目で見たソラの表情は真剣そのものだった。

 なんで返せばいいんだろう……義理とはいえ兄妹だし。


「お兄ちゃんは、私のこと、どう思ってる?」


 俺が何かを言う前に、ソラが問いかけてきた。

 左腕を握る力が強くなる。


 たった数秒足らずの思考だったはずなのに、この時だけは何十分にも感じられた。

 しかし、そんな俺の困惑は背後からの衝撃で遮られる。


「——おっすーーーー! 井下と……え! ソラちゃん!? な、なななな、二人が一緒なんて明日は雪でも降るのか!?」


 背後からウキウキで現れたのは、善と陽を足して、そこに10を掛けたような明るい人物だった。何を隠そう、幼馴染のスミくんだ。

 彼は目をギョッとさせて、俺とソラを交互に見やっていた。


「おはよう、スミくん。急なんだけど、ソラとは仲直りしたんだ。ね?」


「チッ……」


「舌打ち!? ソ、ソラちゃん、俺のこと忘れちゃったのかな!?」


 ホストのウザ絡みみたいな感じで、スミくんはソラにまとわりついた。


「……良いところで邪魔しないでよ。スミお兄ちゃん」


 スミくんに対しては声色が冷たい気がする。


「わぁ! 覚えててくれたのか! ソラちゃん、久しぶり! 俺はわかってたぜ! 学校や家ではこいつをことを無視したり睨んでいても、実は内心では思いやりあふれる優しい子だって——へぶぅっ!?」


 スミくんがソラにお腹を殴られた。

 理由はわからない。ただ、ソラは顔を赤く染めている。


「私はもう先に行くから! 今日の夜は私にも勉強教えること! いい!?」


「う、うん……」


 それだけ言ってソラは駆け足で立ち去った。

 残された俺とスミくんは、顔を見合わせて首を傾げた。


「スミくん、十年ぶりの一撃は効いた? どうだった?」


「……懐かしい痛みだよ。嬉しいような悲しいような……子供の頃よりもパワーアップしてるのは確実だ」


 スミくんは痛むお腹をさすりながらも、喜ばしそうに口角を上げていた。


 ソラはスミくんのことを気の許せるおもちゃだと思っている節がある。スミくんもまたソラのことを可愛らしい妹のように思っており、互いに信頼関係が成り立っている。お腹への打撃は昔からのコミュニケーションだった。


「ちなみに、学校でのソラはどんな感じかわかる?」


「んー、人気者って感じだな。告白されることも多いみたいだぞ」


「告白……」


 やっぱりソラはモテるんだな。可愛らしい見た目だし、性格も明るくて話しやすいし、当たり前か。


「なんだー、不安か? でもまあ、安心しろ。ソラちゃんの好きな人は昔っから変わってねーからよ」


「……そっか。誰なんだろうね」


「鈍感系主人公は流行らないぞ?」


 スミくんは肘で小突いて睨みつけてきた。


「わかってるよ。それより、遅刻するから早く行こうか。お昼は覚悟しておいてね。ビシバシ行くからさ」


「うげぇっ……お手柔らかに頼むぜ?」


 ソラとの関係を変えるのは少し怖い部分があった。だから、今は誤魔化すわけではないけど、真正面から向き合うこともできないでいた。決して、鈍感系主人公なわけじゃない。


 俺がただ臆病なだけだった。



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幼馴染に振られたショックで前髪を切ってメガネを外したらモテモテになった。また仲良くなりたいって言われても嫌なんだけど…… チドリ正明 @cheweapon

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