第14話 グロテスクな盗み聞き

 つつがなく体育の授業が終わると、俺は早々に帰路についていた。


 特に用事はない。


 クラスの女子たちからは遊びに誘われたけど、理由をつけて断っていた。


「……あ、ソラ」


 のんびり歩いていると、前方に妹のソラがいた。

 ソラは血の繋がってない義理の妹で、一つ下の高校二年生だ。再婚した父さんの連れ子だけど、三歳くらいの頃から一緒だから最早家族同然だった、

 昔の俺なら元気よく声をかけたんだけど、今は嫌われているからそれはできない。


 後ろに振り向かれてバレるのも嫌だから、公園で時間を潰そう。


「ここでいいや」


 俺は通りがかった小さな公園のベンチに腰掛けた。

 リュックから飲み物と小説を取り出して読書に勤しむ。


 30分くらい時間を潰してから帰るつもりだ。


 今日は春の陽気で天気がいいし、風も弱くて過ごしやすい。

 体力測定のせいで少し汗をかいてしまったけど、筋トレのウォームアップだと思えば良い運動になった。



 こうして、俺はしばし読書を続けていた。

 暇な時に読むミステリー小説に頭を悩ませていく。



 そんな折、ふと視線を上げると、公園の中を見覚えのある金髪ギャルとイケメンが横切っていた。

 二人は静かな足取りで歩みを進めている。



「ねーぇ、誠くんはまだあの女のことが好きなの?」


「あの女って……西園寺さんのことかい?」


 金髪ギャルと話しているのは、トップ俳優になれそうなどのルックスを持つイケメンだった。


 何を隠そう、三年C組の芦屋誠くんだ。生まれつきっぽい綺麗な焦茶の髪に、相変わらず人当たりの良い清潔感のある雰囲気だ。背も高くてすらっとしている。

 身長は173cmの俺よりも高くて、多分180cmくらいかな。


「あの女って言ったらそれしかありえないし。ってか、この前ウチに恋愛相談してくれたけど、振られちゃったんだよね?」


「そういう話が回るのは早いよね。その通り、振られたよ。こんな経験初めてだ」


「……ふーん、ウチにチャンスあるかな……?」


 金髪ギャルが頬を染めていた。


 同時に俺の目の前を通りがかったので、俺は咄嗟に顔を垂らして耳を澄ました。


「で、でさ! 誠くんはまだ好きなの? あの女のこと! どうなの?」


 金髪ギャルが尋ねると、誠くんは悩んだ素ぶりを一才見せずに、


「全然」


 淡白に返した。


「そっか……って、え? 好きじゃないの?」


「うん。僕は元々あの人のことは好きじゃないよ。むしろ嫌いかな」


 金髪ギャルは驚いていたけど、それは俺も一緒だった。

 嫌いな相手に告白する理由がわからない。


「そ、そうなんだ。じゃあなんで告白したの?」


「……彩芽あやめならわかってくれると思うけど、僕はああいう高飛車で偉そうな人を屈服させたいタチなんだよ。サッカーと同じで恋愛も勝負の世界だから、相手が強い方が燃えるんだ。そう思わない?」


 横目でチラリと見えた誠くんは、爽やかな笑みを浮かべて凄いことを言っていた。


「……う、うん。ウチも誠くんと一緒の考えだよっ」


「だよね。彩芽ならわかってくれるって信じてた。だから西園寺さんの噂を流したんだもんね?」


「え、知ってたの?」


「彩芽がこっそり色んな人に話して回ってたのを見てたんだ。あれだよね、西園寺さんが淫乱だとかビッチだとか、夜のホテル街を歩いていたとか、そういう噂だったよね?」


「ご、ごめん……誠くんのことを酷い振り方したって聞いたから、ついカッとなってやりすぎたかも……」


 金髪ギャルの落ち込む声に嘘はなさそうだった。


 でもそれは西園寺さんへの申し訳なさではなくて、誠くんに黙って行動してしまった自分自身へのやるせなさだろう。


「あー、安心してよ。僕はそんなことで怒ったりしないし、むしろよくやったって思ってるからさ。逆に噂のおかげで弱ったところに僕が優しい言葉をかけたらゲームセットだろうしね。彩芽はよくやったよ」


 誠くんは最後に「まあ、付き合ったとしてもいい感じのところで振ってやるんだけど。そうしないと面白くないからね」と付け加えた。


 そして、それから徐々に声が遠くなり、彼らは公園を後にした。


 中々グロテスクな会話を聞くことができた。


「……イメージと違ったなぁ」


 俺はベンチに座り直して首を傾げた。


 誠くんのことはあまりちゃんと知らなかったけど、見た目に反して性格はあまり良くなさそうだった。

 金髪ギャルも同様に。

 誠くんを持ち上げるためだけに返事をしていて、他人のことを全然考えていない。


 

 とりあえず、明日以降に噂が鎮火するのを待つことにしよう。

 晴翔とはベクトルが違うけど、誠くんも負けず嫌いな感じがしたし……それに自分以外のことをなんとも思ってなさそうな言動が少し怖かった。

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