第4話

 数え切れない夜と朝が訪れた。魔女と取引をした私は、日に日に老いて弱り、物覚えも悪くなっていった。周りはやがて私を見限り、私は女王ではなくなった。青いドレスも青い宝石も奪われたわ。そうそう、別の女と結婚したあの王子は、子を作る前に死んで、王室は消滅したんですって。ちょっといい気味よね。でも私が女王じゃなくなった後、あの美しい島国も他の国に奪われて、街は青く塗られることもなくなったみたい。……あら、これ、さっきも話したかしら。いやね。これだからこの部屋に押し込められたのよ。いまじゃ使用人とあなた以外、誰もここに来てないわ。ここからぼうっと見える空と海を見るだけ。それも、だんだん見づらくなって、海鳥の鳴き声も遠くなっている。指だってほら、握ってくれるあなたと比べたらしわくちゃで曲がっているわ。爪は、あなたと比べるまもなくボロボロね。


 ……どうして、あなたが泣いているのよ。

 何も後悔なんてしてないのよ。だって私は、自分の心のままに動いた。好きに選んで、好きにした。それはかつて、『青の女王』として歩んだ、私自身の矜恃。それに比べたら、青のドレスも、宝石も、女王の地位も、取り巻きも、若さや強さも賢さも、大したことじゃなかったのよ。


 だから泣かないで。あなたが元気で幸せなら、会えないほど遠くにいるんだと思っていた。けれど、たくさんのものを選んで生きてきたあなたに、会える日を待ってもいたのよ。

 ほら。そろそろ夜になって、海鳥が飛んでいるじゃない。

 今日も、海と空がきれいね。

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【カクヨムコン10短編】そして青の女王は微笑んだ 肥前ロンズ @misora2222

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