五章 蘇る

第46話 デュオルギスと合流

 不運というものはこれほど重なるものなのか。それとも、黒の国には神がいないので、神に見放されたのか。


 既に敵部隊に包囲されていたデュオルギス戦闘団の上空には黄の国の旅団の空中駆逐艦艇の姿があった。空から容赦なくミサイルが降り注ぎ、地上からは戦車の砲弾が矢のように飛んでくる。


 防御に使えるのは死人だけが展開できる魔力防壁のみ。


 デュオルギスの大隊から引き抜いて来た二十名の死人が生き残りの二百名余りを必死に守る状況の中、デュオルギスは致命的な大怪我を負った。


 仲間のいる地点に落下してきたミサイルから守ろうと魔力防壁を張ったが、全ては防ぎきれず、瓦礫に潰され両足を膝の下から失ったのだ。


 止血の処理を施したが、最早自分には残された時間も少ない。


 いよいよ自分もこれまでか。そう諦めかけたとき、砲撃が一斉に止んだ。


 いや、正確には上空の旅団の動きが止まった。建物の隙間から空を見上げると、旅団の船は黒煙を噴き上げて地上に落下していく。


 キラキラと蝶のように輝く何かが旅団の船の周りを舞っていた。


「どうなっているんだ……?」


 これは天の助けなのか。そう思ったとき、真実自分を救ってくれた少女の声が聞こえた。


「大隊長! デュオルギス大隊長! どこなの! 返事をして!」


 ノエだ。あの日自分を戦場から連れ出そうとしてくれた。


 いや、自分が躊躇しなければ戦場から今頃脱出できていた。


 リターンチャンスに関わる行動は何を差し置いても最優先させられる。

 その行動は軍にも止められない。だから、預言書を受け取った時点で、デュオルギスは橋頭堡確保の任務を断ってもよかったのだ。


 チャンスをふいにしたのは自分だった。

 ニアと共に暮らす前にアイシャとの約束を果たしたい気持ちが戦場に留まらせていた。


 やがて、グーニーの足音が近付いて来た。


「デュオルギス大隊長! 足が!?」


 自分の姿を見て、グーニーから飛び降りたノエは体を寄せて痛ましそうな表情で叫ぶ。


「ノエ、ありがとう。また君は、自分を助けに来てくれたのだな」


「違うわ! あたしなんてなんの役にも立てない! リディエンハルト総団長がみんなを助けに来てくれたんです!」


 デュオルギスはノエに支えられ、グーニーの背に乗せられながら微笑んだ。


「総団長殿と仲直りできたのだな。よかった」


「ごめんなさい! あたしがもっと早くいい子でいれば、大隊長を危険な任務に就かせることもなかったのに!」


 どこまでもお人好しな少女だった。


「十分、いい子だっただろう?」


 頭を撫でてやれば、ノエは涙ぐんだ。


「安全な場所に連れて行きます。でもごめんなさい、仲間がまだ間に合っていないの。あたしたちはちょっとズルをして場所を移動したから、旅団が到着するのは早くても二十分後みたい」


 それを責めるつもりはない。二人が駆けつけてくれただけでもありがたかった。


「頼む。私の仲間も負傷しているんだ。彼らも連れてきてくれないか」


 ノエは勢いよく頷いた。


「はい! あたしは負傷者を探して連れてきます! グーニー、大隊長をお願いね」


「ガオン!」


 ダッと駆け出したグーニーは速かった。そして、大きな教会にまで運んでもらえた。


「大隊長殿!!」


 既に教会の中へ避難していたズコッド大尉が駆け寄ってきてくれ、デュオルギスの体をグーニーから降ろしてくれた。


 役目を果たしたグーニーはまた外へ駆けていく。ノエを探しに行ったのだろう。


「申し訳ございません! 自分が至らないばかりに!」


「ズコッド、謝るな。兵士に良いも悪いもあるものか。我々に是も否も許さないのは戦争だ」


 誰が悪いという話ではない。上の人間も祖国のために、ひいては国民のために戦っているのだ。


 やがて、ノエの指示で二、三人を一度に乗せたグーニーが教会に運び入れては負傷者を探しに行く。


 鼻の利くノエとグーニーの活躍により、デュオルギス戦闘団の生き残りは全員教会まで避難できた。


 ノエと合流して五分が過ぎたころ、懐かしい総団長の姿がデュオルギスの前に現れた。


「馬鹿野郎!! なぜさっさと戦場から出て行かなかった!!」


 お叱りを受けるのは二度目だ。野営地でレジスタンスたちを焼き払ったリディエンハルト総団長を責め立てた自分を総団長は逃がそうとしてくれていたのに。


「申し訳ござ、」

「もう軍にも国にも縛られるな!! 俺たちの生きる権利を! 誰かに奪われたままで良いわけねぇだろ!!」


 生きる権利。法は『権利の上に眠る者は保護しない』ただし『権利の上に起き上がった者にだけ全ての権利を認める』総団長は正しく死人として生きてきただけだった。


 デュオルギスの目じりには涙が浮かんできていた。


「ノエ、もう教会から一歩も出るな。俺はあと十分間能力が使えねぇ。全方位を守るのは不可能だ」


 リディエンハルト総団長もやはり人間なのだ。鬼神のように強かろうと、無敵ではない。


 弱点もある。不可能もある。人の優しさがある。


 しかし、誤解していたことを謝ろうとしたとき、爆発にも似た破壊音と共に教会の天井が崩れ落ちた。


「きゃああああああ!!」


「ノエ! グーニー! ノエを守れ!」


 何事かと目を見張れば、教会の中に入り込んできたのは真っ黒な体躯に蝙蝠のような漆黒の翼を広げる化け物だった。


「ガアアアアアアアア!!」


「リリエル、てめぇはしぶといにもほどがある!!」


 総団長が剣を構えて飛び出した。だが、いつもの目で追えないほどのスピードではない。


「あれが、リリエルだと?」


 グーニーの背に乗って態勢を立て直したノエがデュオルギスの横にやって来て説明した。


「悪魔に乗っ取られているんです。でもあの悪魔、蘇るほどに強くなるの!」


 三度目。噂では聞いたことがあったが、三度目を見たのは初めてだった。


「お前らここから出るんじゃねぇぞ!!」


 総団長はそう言って振り払った斬撃で吹き飛ばした悪魔を追って外に飛び出した。


 今ならわかる。総団長はここにいる全員を守ろうとしてくれている。


 彼の言う守るという言葉は子供の戯言とは違う。真実、己の背負った責任の下で最大限救える人間たちを救い出し、部下たちの未来まで守ることなんだと。






☆☆☆


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