第45話 ガルガモファミリー出陣す
「良かったじゃねえか。首が繋がったな」
通信が終わっても直立不動から戻れない赤木の内心を
それでやっと緊張が紛れたのか、赤木は息を一気に吐き出して項垂れた。
「……生きた心地がしないけどな」
「まぁ、次でまたポカやらかしたら、切られた首から上を遠いとこに蹴り飛ばされそうだしな」
「お前なぁっ!」
いつもの質の悪いジョークだと分かっていても、青山の冷やかしに冷静に対応できないで赤木が怒る。実際、首切りした社員の頭をボール代わりにサッカーしそうな
笑っているようで笑っていない社長の目。もう後は無い。逃げ場も無い。
だが、今の仕事を続けるための道筋は閉ざされた訳では無い。
前向きに行こうと前を向くと、コテージのそこかしこに隠れ、心なしか怯えて震えているようにも見える隊員達を赤木が見遣る。
頭を出して窺ってくる隊員達は出てくるタイミングが掴めなかったらしい。
全身義体。
サイボーグという現代では一種のハンデを背負った彼等は、自分以上に社長を恐れているはずだ。
ならば、彼等のために、自分のために、赤木はこれからの事を考えると青白くなってしまいそうな頬を叩き、気合いを入れて無理矢理赤にすると、
「よし! 全員集合‼」
出来るだけ漲った声色で呼びかけると、隠れていた隊員達が飛び出してくる。
巨体に似合わない俊敏な動きで赤木の前に整列すると、彼等は直立不動で待機姿勢をとる。
「……聞いてた通り、これが俺の最期になるかもしれない」
隊長の弱気な発言に隊員達が、どよめく。
「でも、俺はそれを受け入れたくない。ここでお前らと一緒に正義の味方をやってたい! だから俺は全力で踏み止まるつもりだ。それをお前らに手伝ってもらいたい。頼めるか?」
子供に敢えて手伝いを頼んで自信と信頼を深めてもらおうとする親のように、赤木が隊員達に要請すると、彼等の顔が少しずつ明るくなっていく。
弱気になっても前を向いている。
いつもの自分たちの隊長だ。
なら何と応えればいいか。
隊員らは示し合う訳でもないのに、統一された意思と姿勢で声を張り上げる。
「「「イエッサーっ!」」」
部下達がいつもの調子を取り戻したのを見届けて赤木が力一杯笑って見せて、
「よっし! じゃあ円陣組むぞ!」
そう言って肩を広げると、隊員達が慣れた様子で肩を組み合って円を作った。
巨漢の中に平均身長の赤木が埋もれる。
一人だけ両肩をバンザイするように上げないと皆と肩も組めない。
それが可笑しくて、当局に連行される宇宙人みたいだなと、何度見ても青山は笑ってしまう。
そんな同僚のことは放っておいて、赤木は皆に呼びかける。
「俺達は家族だ!」
「「「イエッサー!!!」」」
「そんで仲間だ!」
「「「イエッサー!!!」」」
「みんなの力を合わせれば、超えられない壁は無い!」
「「「サー・イエッサー!!!」」」
「だから、お前等! 俺に力を貸してくれ!」
「「「了解!!!」」」
一糸乱れぬ力強い呼応に赤木の頬が自然と崩れていく。
「……ありがとよ。頼りにしてるぞ」
最大級の信頼を寄せられ、隊員達からも笑いがこぼれた。
そこへ、
「でも正直、女性隊長って良いよな?」
と、青山が囁くと、
「「「イエッス・サージェントッ!!!」」」
と、全隊員が渾身の肯定を面と声に出した。
「水を差すなよ! でも、俺には分かってるぜ? たとえ女隊長が来たとしても、お前らは俺を選んでくれるって……」
「「「……いや、それはちょっと……」」」
「即答でイエッサーって言ってくれよ⁉ マジでへこむから!」
シンクロする否定の素振りに、赤木は嘆いて訴えた。
泣き出しそうな赤木の様子を青山が笑いを堪えて見ていると、赤木の視界に着信音と共にメールが届いたのが映し出される。
スマートコンタクトに表示される文字を急いで上から下に目でなぞって確認した赤木は、
「弥生さんから連絡があった。式條さんとお嬢ちゃん達は遅れるそうだ。俺らは現場に先乗りして防護膜展開やらその他諸々を準備万端にして、みんなを迎え入れるぞ!」
「「「了解っ!!!」」」
「今から送るリスト通りに装備一式を輸送機に搭載! 槍頭のスペアも持てるだけ持ってけ! 重機班は拘束弾を目一杯詰め込んでおいてくれよ! バックパックの噴射剤も忘れるな! それと一番大事なことだけど、ちゃんと秒刻みで義体の最適化やるんだぞ!」
「「「はっ!!!」」」
「いよっし! じゃあ、チーム赤木、出動だっ‼」
「「「応ッ!!!」」」
組まれていた肩を外し、赤木はコテージから飛び出した。先頭を走っていく赤木の後に続いて隊員たちも駆け出す。
一つの目標の下、背中にはもれなく根性の二文字を浮かばせて河原を走り込む運動部員……。赤木と隊員達が輸送機目掛けて駆けていくのを見ていると、そんなビジョンが浮かんできた青山はいつものように、
「死ぬなよ~」
頬杖を付いて腰掛けたまま、軽口混じりに赤木達に呼びかけると、赤木が振り返らずに親指を立てて返す。隊員も皆が見倣った。
「……いや。やっぱりカルガモ親子か」
一番しっくり来るイメージを見つけて、青山は彼等を頬笑んで見送った。
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空色オメメはくもらない‼ ほのかたらう僕らは普通になれない2 牛河かさね @usikawakasane
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