この作品は確実に恋愛作品に属する。しかし、一般的な認識で語られるものではない。
冒頭の文で察しはつくだろうが、強迫性障害というのだろうか、主人公の思考は癖があるものとなっている。そのため、描写には癖があるものの、それはキャラクター性を如実に表して作品を彩っている。また、描写の細かさはダラダラと綴られて陳腐化する事なく、主人公の視点から描かれる描写は目新しくあり、その鮮度を保っている。
二人の恋愛関係については、ミクロで見れば噛み合っていないがマクロで見れば噛み合って回る歪な歯車の様な関係性であり、ある種現実的で生き生きとした印象を受ける。
内容に対してどう感じるかは千差万別であろうが、この作品を読む事で確実に何かを感じるだろう。
まず最初に、ドライブ感があってリズミカルな小気味いい文体に引き込まれました。
変わった感性、あるいはそういった傾向をもつ人々による、コメディタッチの物語……にしては違和感を覚えつつ読み進めました。
そして、その違和感の正体がわかる、中盤からの展開で完全にやられました。
少なからず登場人物は、それぞれ歪んだところがあるのかもしれません。
しかし程度の差こそあれど、誰しもがそういった歪みを抱えて生きているのではないでしょうか。
彼女らは歪だと思いつつも、どこかで「わからなくもないなあ」と共感を覚え、できることならば幸せになってほしいと、祈るような気持ちになりました。
読んだ人の心を動かす、人間らしい暖かさに溢れた、素晴らしい小説だと思います。
初めまして。
私は本作がとても好きです。
軽々しく好きといえるテーマ・内容ではないですが、強く心に残りました。
一晩経っても忘れられず、居ても立っても居られないため、個人的な感想をお伝えさせてください。
不快な思いをさせてしまったら申し訳ございません。
まず、智子について
彼女は生まれながらの狂人ではなく、どこかの地点で他人によって自分のかたちを変えられてしまった女性なのかなと思いました。
トイレで聞いた女子高生の言葉がループしているのを見ると、学生時代にトラウマがあるのでしょうか。
(実況も聴きました)女子高生の会話に『』を使用されている意図としては、学生時代に自分が言われた言葉と重なっているから(フラッシュバックしているから)だろうか、と勝手ながら予想しておりました。
彼女の過度な強迫性や被害妄想を見る限り、障害(境界性パーソナリティ障害、愛着障害あたりでしょうか)を持っているのは確かだと思うのですが、それでも最初はここまで酷くなかったのではないかと思います。家庭環境や、学校での対人関係で、彼女のかたちは決定的に変えられてしまい、もう元には戻らなくなったように思えました。
智子がただの自己肯定感の低い女の子に見える瞬間もあり、だからこそ共感してしまい、「普通に生きられないこと」に絶望を感じます。
年齢が明かされるシーンも、驚きでした。学生時代に智子を傷つけた同級生は、彼女を戻れない人間にしておいて、結婚して子供もいるのだろうかと思うと、やりきれないです。
(勝手な妄想ですみません……)
人に嫌われたくない、呆れられたくない、傷つけて不快な思いをさせたくない、怒られたくない。
その一心でその場しのぎの行動をして、悪化の一途をたどっていく智子。物事は好転の兆しを見せず、彼くんと転がり落ちていく。
彼くんの度を逸したこだわりの強さ(発達障害?)も相まって、呆然とこの二人を見つめることしかできませんでした。
智子に救いようがないのは、自己愛が強いところだと思います。
相手を傷つけたくないのは、相手が苦しんだり悲しんだりするのが申し訳ないからではなく、自分がそれで罵倒されたり、暴力を振るわれたり、孤独になったりしたくないだけなのではないかと……。だからピンチの場面ではパニック状態に陥りながらも、容赦なくお爺さんを殴り殺せるのではないかと感じました。
(しかも「助けて!」と。お爺さんも悪いのはもちろん、このシーンにおいて助けてほしいのはお爺さんのほうなのに)
智子の視野の狭さ、他者によって歪められた認知は、阿部共実作品にも似たものを感じます。
また、「他人に嫌われたくない」一心で行動がエスカレートしていく様は、沖さやか『マイナス』の主人公を彷彿とさせました。
好きな文章は数えきれないほどあったのですが
【これが好きなんだろうか? ほぼ無意識のまま胸の形が目立つように、少し上体を反らした】
【自分を可哀想に思った】
が特に、胸に刺さったまま抜けません。
見るからにヤバい爺にまで媚びてしまう、彼女をそんなふうにさせた、これまでの人生や、経験を想像すると苦しいです。
長くなってしまい、申し訳ありません。
不快な思いをさせてしまったらお詫び申し上げます。
でも、勝手ながらお伝えできてよかったです。
この作品は今のままがベストだと、個人的に思います。
誰かの意見を反映したり、誰かに遠慮することで、少しでもこの作品の濃度が薄れてしまったり、あるいはわざとらしくなってしまったら、こんなに勿体ないことはないです。
これからも応援しております。このまま突き進んでほしいです。
「面白い」
一言で片付けられてしまう感想に色々な色づきがあるのですが、この作品は何色の「面白い」なのかなと考えました。
桜色か、白と黒か、薄い黄色か、赤黒か。しかし、どんな色で例えたとしても間違いなくこの作品は「面白い」です。リアルに近いと錯覚する程の文章力。すごいです。
人の数だけ色があって、人の数だけヒエラルキーがあって、人の数だけ被害があって、人の数だけ加害がある。この作品を読むとそんなことを考えてしまい、同時に自分は何色で、今どの立ち位置にいて、どんな被害を受けていて、どんな危害を加えているのだろうかと考えてしまいます。