心をぐちゃぐちゃにされたい人におすすめの純愛小説
- ★★★ Excellent!!!
初読み時は衝撃が大きすぎてうまく感想を言語化できなかったのですが、今、読み返しながら少しずつ言葉に置き換えています。
読んでいる間、緩やかな眩暈がずっと続いているようでした。下りたくもない階段をずっと下りさせられている、そんな感じにもよく似ていました。
それは『彼くん』のモラハラ気質の言動であったり、ごま塩にしか見えない桜の花びらであったり、知らない女子高生たちの笑い声であったり、汚いおじさん(すみませんこれ以外に彼をうまく表現する言葉が見つからなかった)の振る舞いや最期であったり……物語の中に、常にうっすらと不快感を誘うエピソードが埋め込まれていて、それも丁寧に確実に配置されているので、どんどん逃げ場が狭められていく感覚がありました。
作者様の他の作品も読ませていただいているので、読み進めるにつれ「もっと何かあるはずだ」とずっと思っていました。
そして『彼が計画通り食べた唐揚げ、愛しくて可哀想(※作中より引用)』『私はこれを毎回、世界一美しいと思う(※作中より引用)』の二文で綺麗に落とされてしまいました。私に想像できる範囲の「何か」ではとてもなく、こんな"""強い"""純愛小説、そう簡単には出会えないのではないかなと思います。
彼くんは正しく『理解ある彼くん』であり、同時に彼こそが智子から逃げられない、あるいは逃げたくないのかもしれない殉教者でもある。そういう、彼への印象が鮮烈に反転する瞬間があります。
ふたりの間に通っているものが、間違いなく純愛にカテゴライズされる何かであるという体感を、どうかすべての布石を乗り越えて味わってみてください。
もっともっと評価されてほしいです。
次回作も楽しみにお待ちしています。