第三十八話 猫はおっさん?!

『数日ぶりに三葉以外の人が来た!』


 とスケキヨはホッとした。メールや電話の着信、インターフォンで誰か来ていたのはわかっていたスケキヨだが三葉があの日から体調を崩し一度は仕事にも行ったが早退をし、あとは1人療養していたのだ。その様子をただ見ているだけしかなかった。寄り添い、彼女のぬくもり……申し訳ない気持ちでしかなかった。


「男性陣は一旦玄関で待ってて」

 と美帆子がそう言って男たちは外に。美守は入った。美守を見たスケキヨはぎくっとした。2回目だが初めて会ったときのことを思い出すとひやっとする。


『またこの子きたのか』

 美帆子が部屋のこもった空気を出すため窓を全開にした。一気に空気が抜けていった。

 

 そこにスケキヨの元に美守がやってきた。

「こんにちは、おじさん」

 と前みたいに目をじっと見られたスケキヨ言われた時は目を逸らすが目を合わせてくる美守。

『こんにちは、と言われても……』


 とどう返事をすればいいかわからないようである。


「ママ、おじ……スケキヨもちょっと顔色悪いよ」

 顔色なんてわかるわけないだろ、と思いつつもスケキヨはあまりろくにご飯を食べていない事実はあった。彩子と三葉の間の修羅場、それを思うと気持ち的に喉が通らなかったのもある。

「どれどれーって顔色なんてわかるわけないわよ……」

確かにそうではある。

「少し食が細いみたい。ねこまんま作ってあげれば良くなるかも」

と三葉が立ちあがろうとすると美帆子は座らせた。

「ねこまんまくらい私作れるから三葉は座ってなさい!」


 美帆子はスケキヨの世話もして部屋もある程度片付け三葉の身なりを整えたあと外にいる2人を入れた。30分ほどかかった。


 スケキヨは


『待ってたぞ』

 と言わんばかりに二人を出迎えた。


 おのおの大島の仏壇に手を合わせた。

 だが大島の遺影が伏せられている。あの日からそうである。こんなふうになるのもしょうがない、スケキヨは座ってるだけである。


「三葉さん、大島さんのことは……その……」

 倫典がそういうと三葉は首を横に振る。


「大丈夫、あ……写真戻さないと」

 と、彼女は大島の遺影を戻した。そして手を合わせた。

「和樹さんは本当に……何もしてなかった」

「えっ」

 リビングの机の上にたくさんのノートや本が置いてあった。スケキヨが三葉に見せるために頑張って引っ張り出した甲斐があった。


「……和樹さんが寮に残してた荷物。スケキヨが引っ張り出してきたの」

そう三葉が言うと美守がふふっと笑った。


「その中に彼の大学のときの心理学の本やノート、家庭内暴力にまつわる文献、そして……彩子先生との会話の記録……他の学校のほんと一括りされてたから気づかなかった」

 倫典たちはそれを読んだ。


「字、汚い……」

『そこかーい! 読んで欲しいのはそこじゃない……』

 とスケキヨは心の中で突っ込む。倉田はこれは個人情報に関わるので、とノートはぱらっとしか見なったが大島の熱意はわかったようだ。


「真新しいペンで線引かれてるし、ノートもこと細やかに……」

 すると倫典は何かを思い出した。学生時代の時のことだ。

「僕も家のことで悩んでたとき大島先生、話は聞いてくれたけどもそこからどう僕の家族にアプローチできるのだろうかって……他の先生よりも考えてくれていたんだ。湊音から聞いたけど僕の件も含めてもっと生徒に奥深く向き合いたいって……心理学やカウンセリングとかオンラインで勉強してたらしい」


 スケキヨは自分のことだが頷いた。話は聞くことはできてもその後のことは……専門的な人にと振ることが多く、それで良いのか葛藤していた時期もあったのだ。


「……和樹さん、私もだけど仕事の話はあまりしなかったの。確かにテレビとかでやってた時とかで話題にする時はあったけどここまで勉強してたの知らなかったわ、剣道一直線だと思ってたから」

 三葉はそう笑うと確かになぁと倫典も笑った。


 スケキヨの中で生前にそこら辺はもう少し話題にしておけば誤解にはならなかったのになぁと反省しつつも少しずつ自分の誤解が減っていくのにホッとしている。


 すると美帆子は大島のノート以外に別の封筒を見つけた。それを三葉は隠した。大手出版社の名前が書いてあった。


「実はね、手記を出さないかって言われてたんだけどね。その売り上げでまだ残ってるローンとか払えるんじゃないかって……考えてたんだけどさ」

 そんなことを考えていたのか……?! とスケキヨは驚く。もちろんほかのみんなも。


「昔同人書いてたから文章書くのは苦ではなかったけど、犯人も捕まったわけだし……今更私達の私生活をさらしてまでお金をもぎ取ることなんてだめだなぁって」

『同人書いてた?』ということに色々とどういうことだと困惑するスケキヨだが……。

「まぁ確かに漫画オタクだったしね、隠れて。色々漫画貸してくれてたし」

「美帆子にしか伝えてなかったもんね」

 三葉が漫画オタクというのは知らなかったスケキヨ。漫画本なんて無いぞ……と。


「んなもん、あの濱野から踏んだくれば良いってね。それにナミさんのご主人の大聖さんのお友達もなんか大手出版社とか言ってるけどちょっと胡散臭くって調べたら自費出版の会社でお金取らせるだけ取らせる会社だったらしくって。大聖さんもそれ知らなくてまんまと騙されるところだったわー」

 と笑いながら三葉は言う。

『なんということだ!!! 三葉もだが妹婿も騙そうとした奴もいたのか!!! もちろんだ、あの濱野が全部悪いんだ!!!』

 スケキヨは自分が生きてたら絶対にそう叫んでいたのだが……その叫びはこの場では美守にしか聞こえてないようだ。美守も頷いた。


「セーフだったわね。たく悪い人もいるもんだわ。今回は回避できたけど変な胡散臭い話あったらすぐ渡しに言ってよね!!」

「そうね、相談すべきだったわ。ごめんなさい」

 美帆子は三葉を抱きしめた。倉田、倫典もそうだそうだとこの場の空気が良くなったところだったが……。


「スケキヨ……じゃなくておじさん、三葉さんに話したいことある?」

 美守が聞いたのだ。


 スケキヨはエッと思いながらも三葉を見た。彼女は美守の横に座った。

「……どういうこと? スケキヨが話したいって」

 美守はスケキヨを撫でる。


「みんなには見えないし聞こえないけど僕は見えるし、聞こえるから伝えて、おじさん」

『おじさん、だとぉ……ん? やっぱりみえてたのか? 俺のことを!』

 スケキヨはガクガクと震え出す。なぜ自分をこの子供がみえるのだろうか。

 そうはいうものの周りの大人たちはポカンとしている。


「あそこの遺影のおじさん、この猫に生まれ変わったんだよ」

「えっ……」





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轢き逃げされたら猫に転生。やり残し多すぎて詰んでる件 麻木香豆 @hacchi3dayo

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