昨今流行りの転生もの。本作も、主人公である高校教師の大島さんが車に轢かれたことが原因で転生してしまうのですが、行き先は異世界でなく元いた現実世界です。
そして行き先と同じく言っておかなければならないのは、彼が結婚していて、三葉さんという愛する奥さんがいるということ。
転生ものといえば、転生先で新しい人生を面白おかしく生きるというのが多いですが、愛する人を残して死んでしまっては、それどころではありません。異世界どころかあの世にだって行きたくない。大島さんは、三葉さんのそばにいたいのです。
そんな願いが通じたのでしょうか。大島さんが転生した先は、車に轢かれた時にそばにいた猫ちゃん。さらに、スケキヨと名付けられ、三葉さんに飼われることになります。
死んだ後も三葉さんのそばにいることができてよかった。と言いたいところですが、それで全て満足というわけではありません。
なにしろ、自分が亡くなった後の奥さんの様子を見ることになるのです。悲しむ姿を見て、やるせない気持ちになることもある。新しい恋になりそうなのを見て、複雑な思いを抱くこともある。
しかし猫の身では、できることに限界もあります。
生きていたら。言葉が通じたら。時々そんな気持ちになりながらも、見守る大島さんINスケキヨ。
自分の亡くなった後の世界は、彼の目にどう映るのでしょうか。
事故に遭い、命を落としてしまった高校の先生の大島さん。
しかし、妻の三葉さんに悲しい思いをさせたくないたいう気持ちが奇跡を起こしたのか、猫に転生して三葉さんに飼われることに。
昨今流行りの異世界転生とは違って、現世で転生するのがかえって斬新。
未亡人となった三葉さんは当然悲しみにくれますが、美人で気立てのいい三葉さんに好意を寄せる男性たちが、彼女を支えます。
それは大変ありがたいのですが、三葉さんの飼い猫になった大島さんは、妻に気のある男がよってきてるのだから、なんとも複雑。
三葉さんには元気を出してもらいたいし、男たちもいい人なんだけど……目の前で奥さんが口説かれたら、そりゃあモヤモヤしますよね。
けど猫ゆえに、なにも言うことができない。
けど猫にだって、なにかできることはあるはず。
猫になっても、愛しの妻を支えるために奮闘する男の、転生物語です。
最近、亡くなった後に転生する物語は定番となりました。その中には動物に転生するという作品も多くあります。異世界ではなく現実世界で転生して元の家族と再会する作品も多くあります。
しかし現実世界の動物に転生して元の家族と再会する作品は意外と少ないです。
読めば理由が分かります。
人間社会に手出しができず、心中に苦悩のみが積み重なりますから。
題名に嘘偽りありません。主人公は一応は一家の大黒柱であったところを事故で世を去り、不可抗力により妻を放り出してしまいました。妻は世間の荒波に晒されます。猫としてよみがえり元妻に引き取られても、会話も手助けもできません。本当に人生という将棋は詰んでいて抗う術がありません。猫(元夫)ちゃんは悶えるばかり。
こんなはずじゃなかった! その思いを何度胸中で叫べば終わるのか。
苦しい? こんなの転生物じゃない? そう、それが本作の主眼です。
作者様はワナビ繋がりの仲間から、人間関係の泥沼を描かせたら右に出る人はいないと目されるお人です。本作でも本領発揮。いや、まだ軽いかも、作者への入門編としてちょうどいいかな、くらいでして……
ただし苦しむだけで終わらせないのが作者様の真骨頂。結末まできちりと描くため読者の期待を裏切ることがありません。当レビューを書いている2024年12月29日は第二六話まで公開されているところですが、ここからキチンと結末まで導いていくはずです。
まあ、見ていてご覧なさい。
作中人物に手出しできない、猫に転生した気分になって。