最終話 踏み出す勇気
風が鈴宮さんのポニーテールと制服のスカートを揺らしている。
風を纏う美少女って絵になるな。この場から逃げ出していいですか?
「昼間はごめん。びっくりしちゃって。十文字君て勇者なのね」
なんてことだ。鈴宮さんに勇者認定されてしまった。
「だから、あたしも十文字君の勇気に応えようと思う」
「へ?」
オレは思わず間抜けな声を出した。
鈴宮さんは、ほんのり頬を紅く染めて、はにかんだような表情でオレを見ている。
うん、かわいい。
青い瞳を潤ませながら、彼女は衝撃の台詞を口にした。
「あたしは、普通の男には興味が無いの。そうね、あなたが宇宙のオトコ、異世界のオトコ、未来のオトコとかなら、つき合いたいな。どうなの?」
イヤイヤイヤ。そんなクレイジーなヤツいるかっ!
と心の中でツッコんだその瞬間。
きゅーん!
オレの心臓が締め付けられる。
世界の時間が止まった。
オレの目の前にChoiceが出現する。
おおおおおぉぉい、すでにオレのLIFEはゼロだって!
①「ワレワレハ宇宙人ダ」と宣言する。
②「オレは異世界のオトコだ!」と叫んで走り去る。
③「未来のオトコです」と告白する。
もうメチャクチャじゃねーか!
オレは頭を抱えた。
もし身体が動くなら、オレは膝から崩れ落ちたことだろう。どの選択肢が正解なのかわからない。正解があるのかすら疑わしい。
けれども、ムダに長考しても強制的に最悪の選択肢。もうこれ以上、地獄を見たくない。
くっ、……まず、②は論外だな。走り去ってどーすんだよ。
①も流石にねーだろ。それに②とそう変わらん。「オレ」がワレワレに変化しただけだ。ウケ狙いか?
すると、③の「未来のオトコ」?
よくわからんが、他の二つよりはアリか。しかし、コレどうなるんだ?
てか、考える意味あるか? じつは『考えるな、感じるんだ』ってヤツなのか?
オレは「③『未来のオトコです』と告白する。」を選択した。
止まっていた時間が動き出す。
返事を待つ鈴宮さんに近づき、そっと「未来のオトコです」と告げた。
オレの告白に鈴宮さんが瞬きする。
やっぱダメかと、肩を落として彼女から離れようとした。
すると彼女はオレの二の腕をつかんで顔を近づけてきた。
「鈴宮さん?」
鈴宮さんの澄んだ青い双眸がオレに向けられている。その真っ直ぐな視線にオレは気圧された。
顔近い、近いっ!
オレの胸が震えている。
Choiceも出ていなのに、周りの時間が止まったみたいだった。
「やっと出会えた」
「へっ!?」
「あたしの占いによると、未来のオトコだと告白した人が、将来、あたしの彼氏になる人。だから十文字君は、将来、あたしの彼氏になる」
「は?」
彼女は何を言っている!?
将来っていつの話? オレ、結局、フラれた?
誰かわかる人、説明してくれ。
反応に困っていると、鈴宮さんは首を傾げながら難しい顔してオレを見た。
う、やっぱ、かわいい。
「ふむぅ。それにしても、あたしはどうして十文字君を好きになるのかしら?」
知らねーよ! 何気にひどい言われようだな。
――それから三年後。
オレは、そこそこレベルの地元の大学に現役合格し大学生になった。
もうすぐ夏が終わる。
黄金の信長像が立つG駅前広場へ向かっている。
あれからオレは、数えきれないほど多くのChoiceに遭遇した。いいカンジの選択ができたこともあったけれど、失敗したと悔やんだ選択もした。
そんな選択を重ねてわかったことがある。
人生の岐路に選択肢があるんじゃない。選択肢があることと人生の岐路は同義だ。
だから、より多くの選択肢が現れるように、より良い選択肢が現れるように、より満足できる選択ができるように、「努力」が必要なんだ。
たくさんのことを学び、経験しなければならないんだ。
このことに気が付いてからしばらくして、オレの前にChoiceは現れなくなった。
理由はわからない。オカシな神様だったけれど、人生の岐路ってヤツを教えてくれたのかな。
駅を出たオレの視線の先に、黒髪ポニーテールの白いワンピースを着た女性が立っていた。
スマホで時間を確認すると9時30分。待ち合わせの時間まで、まだ30分ほどあるはずだ。駅前広場の中央付近で、オレは立ち止まった。
噴水の向こうで、彼女は手の中のスマホに視線を落としている。
オレの姿に気が付くと、顔を上げて微笑んで小さく手を振った。
うわ、かわいい。
オレは足早に彼女の方へと向かう。
もう、ためらうことはない。待つ必要もない。
Choiceから学んだことが、もうひとつある。
選択の結果を恐れず、一歩踏み出す勇気。
彼女の前で立ち止まり、呼吸を整えてから想いを伝える。
ふたりで会うようになってから、これが101回目の告白。
もう、あいさつ代わりになっている。
「鈴宮さん。好きです。オレとつき合って下さい」
「ふふっ、まだ早いよ。さ、行こ」
(完)
クロスロード~未来のオレ、学年一美少女の彼氏 わら けんたろう @waraken
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