その日、羅刹鬼の護法を失った気配を察知したのか、様々な魑魅魍魎が一斉に集まった。不知火は鬼を喰う、邪気を喰う、化生とて喰らってきた。霊媒でもある不知火の血は、さぞや上等な肉だったろう。鬼の毒気にやられ、まともに戦える者もおらず、当主を含む多くが生きたまま魑魅魍魎の餌食となっていた。



 そのような光景など二人にとっては宴響楽にも等しかった。牡丹と可畏は黴臭い地下牢の暗闇の中で睦み合う。互いに齧り付き、今にも肉を食いちぎらんと牙を立て、血が流れたのなら丹念に舌でねぶった。情欲のようで欲望を入り交えたような。しかし、一つ一つに熱情をしっかりと絡めて、それが愛なのだと語っているようだった。


「可畏、お腹空いてるんでしょ? 何も食べなくて良いの?」

「今は、の方が良い。それに、いつでも喰って良いんだろ?」

「ふふ、こっそりね。普段は良い子でいないとダメよ」

「仰せのままに、ご主人様」


 狂気を孕んだ睦言は二人を駆り立てる。甘い口付けを交わした二人は、時折地上で起こる地獄絵図に耳をそばだてながらも、熱情を交わし続けた。



 空が白み始めた朝焼けの頃、地獄も終焉を迎えた。惨劇だけが残されたそこで、牡丹と可畏は振り返る事もなく、その地を去って行った。

 


 鬼を飼う。了

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