Épisode 4 ◆ WARLOCK 《黒魔術師》

ep.1 ◇ Jumeaux《双子》

1. Frédéric 《フレデリック》

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" Ave Maria "



……いや、俺が貴方に祈りを捧げる資格なんてない。


だけどもし……もし、俺にも願うことが許されるならば

魔術師も非魔術師も、みんな分け隔てなく過ごせる平和な世界であってほしい

お互い尊重し合えるような、そんな仲であれたらいい



……だから俺は冥界に来た。

魔術師も、非魔術師も、大好きだったんだ。



だけど非魔術師から《黒魔術師》と呼ばれ畏れられている存在……《warlock》

それは、一般的に認知されている魔術師とは一線を画している、明確な理由がある



―フレデリック


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※この話には災害描写があります。

 苦手な方は読み飛ばして次の話へお進みください。



- 8年前 -



◇◆ Frédéric ◆◇


前代未聞の大災害

あの時の俺はまだ13……生まれて3ヶ月も経たないエリックを抱えた父さんと一緒に、郊外の教会へ避難した。ひどい揺れで歩くのですらままならず、俺たち3人は命からがらやっとの思いでたどり着いた。

物凄い地震と落雷で次々と建物は崩壊し、大地は裂け、木々倒れ、まさに地獄絵図……世界はこのまま終わってしまうんじゃないかと思った。



だけど



自分たちの安全確保もそうだけど、母さんが心配だった。

その時母さんはちょうど街へ買い物に出かけていた為にいなくて、有事の際はここで落ち合おうと約束した教会にも、いなかった。



不安だった。

母さんがどこにいるのか、俺たちはこのままどうなってしまうのか……



そんな俺の特殊魔法は『prédiction fut未来予知ure』。見ようと思えば、見られたのかもしれない……俺たちの、この未来を。

だけどこの時俺は未熟でうまく使いこなせていなかった上に、なにより俺はこの状況が怖かった。

今未来を見てしまえば恐ろしい未来や、凄惨な状況、ひいては世界の終わりしか見えない気がして


一つわかっていることは、俺の特殊魔法で見た未来は、変えることができないということ。

だから変えられない未来を見る勇気は、俺にはなかった。




だけど大災害発生から1日が経って、突然今までの激しい揺れも落雷も、すべてがぴたりと止んだ。

一瞬、何が起きたのかわからなかった。


どうやら天災は収まったらしいという話だったが、二次災害も凄まじかった。

俺たちは停電した真っ暗な教会で夜を過ごした。寒く、長い夜だった。




そしてその次の日、街の中心部の教会に人々が取り残されているらしいという情報が入った。だけど特別救助隊すら人員不足で救助に向かえず、やむを得ず魔術師の大人が招集された。

魔術師は飛行魔法も持っている上に水魔法での火災の鎮火や、生物を含む物体を操る魔法などによる救助が期待できるために、できるならば人命救助に協力して欲しい、との申し出だった。



強制ではない……だけど、皆からの期待は大きかった。

もしかしたら、皆自分の家族が、見つかるかもしれないと



父さんは、「母さんもいるかもしれない」と言って救助に参加しようとした。他の大人に、まだお子さんは赤ちゃんだから無理に行かなくてもいいよ、とも言われていたけど、正義感の強い父だから、役に立てることがあれば……と結局参加することになった。



行かないで、ほしかった。だって、もう二度と会えなくなってしまうような気がして……怖いけど俺はこの時『prédiction fut未来予知ure』を使おうとした。

もしも変えられない未来だとしても、止めるなら、今しかないと思ったから。



……だけどその瞬間、俺は魔法を使うのを阻止されてしまった。

詳しくはわからないけど多分……父さんの特殊魔法で



父さんは、まだ子供の俺に凄惨な最期や恐ろしい未来なんて見てほしくなかったのかもしれない。

だけどそれなら……どうして、行ってしまうなんて



どうして、俺たちを置いて行くの



「父さん」



行かないで、行かないで……父さん、お願い行かないで



「行かないで」



引き留めたかった……けど



「フレデリック。エリックを見ていてくれ。……大丈夫、すぐに戻るから。この混乱で母さんの魔力が全然探知できない…………今頃助けを待っているかもしれない、行ってあげなくては」

……と、そう言って俺たちを抱きしめて……

行ってしまった。






……父さんは帰ってくることはなかった。






魔術師は、死んでしまったら肉体も残さずに消失してしまうから、本当に死んでしまったのかどうかはわからない。


……だけどあの時、あの街から見つかった生存者5人の中には、父さんも、母さんも、いなかった。



……



……なぜ……いってしまったの、お願い、帰って来てよ





目を閉じれば平和な思い出がよみがえる。

大災害が起こる少し前、父さんと母さんと一緒にエリックを見ながら


「ほら笑ったよ」

「今のは父さんを見て笑ったんだぞ」

「えぇ、父さんばっかずるいじゃん」

「あはは、じゃあ母さんかしら」


……なんて話をしていた、そんな、平和が、続くと思っていたのに。



帰ってくるって、言ったのに……



俺はなぜ……なぜもっと、必死に父さんを引き留めなかった……

母さん……なんで、俺はこの未来を知らなかった……?

「行かないで」って、駄々をこねればよかった。わがままを、言ってしまえばよかった。

だけど、俺は、兄だから。



……



魔法も、もっとうまく使えていたらな……

誰か、もっときちんと使いこなせる人が使っていたら、未来は変えられるのかなぁ……



悔しさと悲しさで、涙が止まらなかった。


……


……だけど、エリックはそんな俺と一緒に、俺よりもでっかい声で泣いていた。

一生懸命、泣いてたんだ


…………


……


……俺がエリックを守らなきゃと、思った


……


……



そうして俺たちは4年ほどこの教会で過ごした。

世話をしてくれたのは主にここのシスターさんたちだった。みんな、優しかった。


ここにいた多くの人は非魔術師だったけど、みんな俺たちが魔術師だと知っても同じように接してくれたんだ。沢山、沢山お世話になった。エリックの世話の仕方も、ここの人達に教えてもらった。

……だから俺は、非魔術師の人達が好きになった。



魔術師は俺たちのほかに何人かいたけど、俺と同い年だったのはリラとリスという双子の女の子だけだった。彼女たちはすごく優しくて、妖精みたいに可憐だった。リラもリスも花の名前なんだって。リラがライラック、リスはユリという意味。

……彼女たちも両親を亡くしたらしかったから、お互い支え合って生きた。こんな状況じゃなければ、もしかしたら俺は彼女たちを好きになっていたかもしれない。でも、みんな、生きるのに必死だった。俺たちは、きょうだいのように一緒に育った。



エリックも大きくなった。少し人見知りなところがあったから、ずっと俺にくっついていた。



だけど教会で過ごした4年目のある日、俺とエリックを養子にしたいという夫婦が現れたんだ。年の離れた兄弟、青みがかった黒い髪……それらが、彼女が亡くしたという息子たちにそっくりだと言って。



そうして俺たちは教会を出ることになった。

今の両親は優しくて、俺は2人にも感謝している。そんな2人は、非魔術師だ。



俺はここでの暮らしや、非魔術師と魔術師が分け隔てなく生活している環境が、好きだった。

だから俺は、非魔術師の人達にも沢山、沢山、恩返しをしたいと思ったんだ。

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