3ー4

PM 9:00 小樽運河


 静まり返る小樽運河に、魔術師が互いの雌雄を結する為に集う。状況としては、私とラスティアの2人に対し、向こうは結集して潰しにかかろうとしている。

 状況としては、孤立無援。私とラスティア以外に、増援は来ないようだ。


「こ、こいつを殺せば、運河に潜むものを山分けできるんだよな!?」


「あぁ、間違いない。奴が言っているんだ! さっさとやっちまおう!!」


「そ、そうよ! 私達で、こいつを殺せばいいんだから!!」


 話を聞くに、どうやらこいつらは誰かにたぶらかされているらしい。

 その証拠に、殺意が完全にこっちに向かっている。だが、魔術師同士の殺し合いとなると、死を持って結果を認めなければならないのが常だが、状況が違う。

 これはただの、利害の一致のよる団結だ。要するに、敵の敵は味方理論だろう。

 彼らは、私達さへ殺せれば、あとは敵同士だ。それを言い広めた者により踊らされていることにも気づかずに、ただ、この噂話に釣られた愚かな連中なのだから。


「どうも、自分たちの利益の事しか頭にないらしい。だが、後悔するなよ? 殺し合いを吹っ掛けたのは、あお前達だ」


「……では、始めましょうか」


 私とラスティアは、魔具を構える。そして、対峙している魔術師達もまた、それぞれの魔具を展開し、私達との戦闘を開始する。


「――――ふぅ……」


 氷花に魔力を込めると同時に、彼女の周囲に冷気が放出される。すると、ラスティアの冷気の影響で、魔術師達の動きが鈍くなる。


「『氷花 抜刀式 『壱の方 吹雪』』!」


 濃縮された冷気が、薙ぎ払うように放出される。すると、岩で出来た壁ごと凍りつく。


「冷気だと!? こんな魔術は見た事ない!! しかも、体から冷気を出せれる魔術師なんて、聞いたことがないぞ!?」


「さ、寒い! これじゃ、どんなに火を灯しても、追いつかない!!」


「どうやら、彼らはラスティアの魔術に動揺しているみたいだ。だが、私も忘れては困るな」


 魔術師達は、3人がかりでラスティアに向かって火球を放つ。だが、そこに私が入り込み、グラムの白い炎でそれを吸収する。


「返すぞ」っと私は先ほどの火球を魔術師達に向かって放つ。


「ば、バカな!! 我らの渾身の魔術を、返されただと!?」


「返したんじゃない。放ったんだ。私の『白の魔術』は特殊でね。この炎が纏ってる時に触れた魔術は吸収され、書き換えたのちにとして放たれるんだ。

 要は、防御に徹した魔術と言っていいだろうよ」


「ろ、『無色ロストカラー』だと!? まさか、実在したのか!?」


「実在も何も、元からあった物を知ろうとしなかっただけだろ? まぁ、それを知ったところで、お前たちにはわかるまいよ」


 私は、グラムを構えながら、魔術師たちを威嚇する。


「安心しろ。殺し合いとは言ったが、命までは取らないでおいてやる。まぁ、それはお前達の態度次第だがな」


「舐めた口を!! やっちまおうぜ!!」


 魔術師達は、私とラスティアに向かって攻撃を行う。だが、魔術のレベルが段違いで差がある私達の前では、彼らの日々の鍛錬で培った魔術は無意味だった。

 ラスティアの冷気と、私の白と黒の炎が入り乱れる。ラスティアから放たれる冷気を、私の黒の炎が魔力として感じ取り、私の魔力を増幅していく。


「だ、だめだ!! こんなの勝ってこない!!」


「このままじゃ、殺されてしまう!! に、逃げろ!!」


 魔術師達は、次々と逃げ始まる。相手が悪すぎたにもあって、次々と運河から逃げ始めていた。


「さて、残るはお前達だが、ここまで居るとなると、中々に欲深い奴らだ」


「あぁ、そうだ。我らは、この運河に潜む物を取りに、ケルンから来たのだ! ここまで来て食い下がるものか!!」


 3人の魔術師は、私に向かって幻獣を使役して攻撃する。すると、呼び出された幻獣達は、次第に凍りつき、やがて無数の切り傷が出来てしまう。


「『氷花 居合式 『弐の方 雪霰』』」


「馬鹿な!! 刀身のない刀に、我が幻獣が切り刻まれただと!?」


「これも魔具の性質を引き出したもの。それを生かした攻撃に過ぎません」


「さすがだね。ここまでやれるようになったのなら、上出来だよ」


 私は白い炎を纏っている左手でラスティアの頭を撫でる。すると、幻獣を倒されたことで疲弊してきた魔術師達が、再び幻獣を呼び出す。


「こ、これで終わると思うなよ!? 貴様まとめて、道連れに――――――」


 だが、私は幻獣が呼び出される前に、その魔術師を自らの血で作った剣で切り裂く。


「逝くのは、貴様らだけだ」


 私がそういうと、彼らの首から血が吹き出る。それによって、彼らは多量の血を吹き出しながら、息絶える。


「もう、殺しはしないって言ったのに」


「すまない。こういうのは嫌いだから、つい殺してしまったよ」


「まぁ、姉さんがああいうタイプの人種を嫌ってるのは知ってるからいいけど。それより、もういないみたいだね」


「あぁ、大方は逃げたらしい。深追いをいいだろう。彼らは怖くなって今頃、この街を出てるだろうさ」


「そうだね。それで? どうするの?」


 ラスティアは、私に質問する。そういえば、この運河を調査することを伝え忘れていたみたいだ。


「この運河の実態を調べる。そのために、『グリモワル真書』を持ってきてたんだ」


「もう、そんなこと聞いてないけど?」


「ごめん、伝えるのを忘れていたよ。でも、そうもいかないらしい」


 私とラスティアは、人の気配がした方向に振り向く。すると、1人の魔術師が、私達の前に現れた。


「これはこれは。さすが、『特級魔術師イレギュラー』とそれを観察する『監視者コネクター』。

 まさか、2人ともかなりの強者だとは想像もつかなかった」


「あなたは?」


「自分は、この運河に潜む物を手にした者っというべきかな? まさか、馬鹿な魔術師どもを一掃してくれるなんて、思いもしなかったよ」


「運河に潜む物を手にした者? どういうことだ?」


 魔術師は、運河の前に立つ。すると、運河の中から、強大な魔力を感じ取る。


「これは!?」


「この運河に潜む物の正体さ! この運河には、『龍脈』という膨大な『魔素マナ』が潜んでいたのさ! それを手にした魔術師は、未来永劫絶対的な魔力を得れるんだよ!」


「それを餌に、魔術師達に『噂話』を吹き込んだんですか!?」


「そうだとも!! あいつらは馬鹿でさ!! こんなチンケな噂話に釣られて来ては死んでるんだぜ!?

 すげえ笑えてくるよな!!」


 魔術師は、運河から現れた魔力を支配下に置きながら、私たちに攻撃を行う。私とラスティアは、それを避けるが、魔術師は、再び魔術を放つ。


「馬鹿げた話だ。確かに、お前の話に釣られた奴らが到底悪いのは一理ある」


「そうだろ!! なら、貴様もあいつらのように――――――」


「だが、それを餌に自身の手も染めずに殺し合わせた貴様には、反吐が出る! そういうのは私は嫌いでね。貴様のような凡愚の話を聞いていると、虫唾が走る」


「貴様ッ!!」


「その『龍脈』とやらとともに来るなら来るといい。お前だけは、楽には死なせはしない」


「上等だ!! なら、その減らず口と共に殺してやる!!」


 運河から来る膨大な魔力と共に、魔術師は私達に向かって攻撃をする。

 こうして、元凶となる魔術師との熾烈な殺し合いが、幕を開けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る