2ー2

PM 7:00 小樽運河


 ホテルで少し休んでから、予約していたレストランに向かう。その道中、小樽名所である『小樽運河』には、私達も含めた観光客で賑わっていた。

 このご時世ともいうのに、人が多いものだ。それほどまでに、北海道という場所は観光地としては人気が滝のだ。

 だが、やはりというべきか、魔術師が多く潜んでいる。広範囲に魔力を探知しているせいか、その数はざっと言って30人くらいだろう。

 おそらくは、例の噂話が原因だろう。そのせいか、皆こぞっと運河に来ているのだ。


「姉さん?」


「やっぱりな。落ち着いて観光なんてできそうにないな」


「魔術師かい?」


「あぁ。だが、向こうはさっきと違って、こっちの探知のは気がついていないようだ」


「みんな、運河ここに夢中なのかな?」


「かもね。だけど、不穏な気配がする」


 私は、微かな胸騒ぎを感じる。彼らも、観光客を装って、好機を狙っているだろう。

 

「そんなことよりもさ、まずは飯にしよう?」


「そうだね。まずは、食事にしようか」


 私達は、魔術師達をよそに、食事にする。

 着いたところは、小樽でも有名なレストランだ。どうやら、運河に近いところらしい。年紀を感じさせる程の外観に、どこか懐かしさを覚える。

 私達は予約していた席に着き、メニュー表を見る。どれもいい値段のする値段だ。


「ワインもあるのか?」


「ここはワインが有名なんだって。ほら、あそこの売店にワインが売ってるよ」


「イタリアンが多めだね。通りでワインが多いわけだ」


 私達は、メニュー表を見ながら料理を選ぶ。ラスティアと明日香はそれぞれ料理を選び、私はワインのみを注文する。


「姉さん、食事も食べないと。せっかくの旅行なんだから」


「ごめんって。どうも、食力が湧かないんだ」


「もったいないね。まぁ、食べるほうが驚くけど」


 私は、基本食事を必要としない。なぜなら、髪を媒体に大気中の『魔素マナ』を吸収しているのだからだ。

 だが、ラスティアの手の込んだ料理は食べるようにしている。そうしないと、作った人に申し訳ないのだから。しかし、味覚を感じられないのが余計にダメだ。

 人の血くらいでしか、味覚を感じない体には、ずいぶんど嫌気がさしてくる。だが、この体質である以上、ラスティアが色々と工夫してくれているのが嬉しい限りだ。

 ワインを飲みながら、外を眺める。ローブを纏っている魔術師が数名、彷徨いている。何かを伺っているようだ。

 彼らの様子を眺めていると、横から匂いを感じる。どうやら、2人が頼んだ料理が次々と並べられて来たのだ。

 ん? 次々と?


「誰だ? こんなに頼んだのは?」


「明日香さんだよ? すごくお腹が空いていたみたい」


「まぁ、せっかくの旅行だしね。食べるとには食べないと!」


「そういう問題じゃないだろ?」


 私は、呆れながら明日香が頼んだ料理が次々と並べられるのを見る。すると、頼んだ覚えのないワインの瓶が私の前に置かれる。


「姉さんも食べよう? 食べらないだろうけど、お酒くらいは飲めるでしょ?」


「そうだね。なら、お言葉に甘えて呑むとしようか」


 私達は、食事を嗜む。なくなったと思ったが、明日香が別で頼んで料理が並べられる。私も、ワインを追加で頼み、それを眺める。ラスティアは、自分が頼んだ料理とワインで満足したようだ。

 しばらく明日香が食べる姿をマジマジと見つめ、彼女が食べ終えるのを見る。伝票をもらうと、とんでもな額になっていた。

 仕方がなく、私はクレジットカードを出し、会計を済ませる。


「いや〜。美味しかったね」


「そうですね。でも明日香さんは頼みですよ? 姉さんのお金のことを考えないと」


「まぁ、向こうから報酬金はたんまりともらえるからいいよ」


 私達は、ホテルへと向かう。すると、ローブを纏った集団とすれ違う。私は立ち止まり、彼らの方向を見る。


「あの連中、何か不穏な気配がする」


「姉さん? ホテルには戻らなくていいの?」


「それは後だ。まずは、奴らを追う」


 私は、すれ違った魔術師の集団を追う。すると、彼らは運河のあたりで彷徨っていた。

 彼らは、何かを話している。どうやら、この運河で何かを待っているらしい。私は気が付かれないように、通りにあったベンチに座る。

 何かを察した2人は、それぞれ私のそばでスマホをいじったり、外を眺めている。そして私は、彼らの『念話テレパシー』を傍受する。


『ここが例の運河だ』


『そう見たいね。今日は私達しか来ていないみたいだわ』


『じゃ、今日こそは俺らがあれを独占できるな!』


『だが、そうとは限らんらしい』


「独占? 何のことだ?」


 私は、『念話テレパシー』を傍受を続ける。すると、事態は厄介な方向に傾く。


『まずい! 別の連中が来たわ!』


『あぁ!! これは俺らのもんだ!! 簡単には渡しはしねぇ――――――』


念話テレパシー』を傍受が途切れた。どうやら、騒ぎが起きたらしい。


「姉さん!?」


「まずいな。これは思っていたほど、この噂話とやらは、厄ネタらしい」


「『虚数空間』も張らずに、殺し合いが始まったみたいだ」


 私達は、急いで小樽湾の方に向かう。嫌な予感がする。その胸騒ぎと共に、私は湾の倉庫へと向かう。

 倉庫に向かうと、血だらけの魔術師を見つける。彼を捕まえようとするが、気配に釣られ逃してしまう。

 それに釣られと、衝撃的な風景が広がる。


「――――――!!」


 私達は、驚愕する。先の集団が、惨めな姿で倒れていたのだ。どうやら、さっきの魔術師に滅多刺しにされたらしい。

 綺麗な斬撃跡を見るに、魔術によるものだろう。だが、それだけじゃない。他にも数名の死体が転がっているのだ。


「冗談じゃない。こんな場所で、こんなことが起きているのか? それも、あの運河に潜む何かをかけた殺し合いが」


 私は、この状況に驚きを隠せない。しかし、この場にいても埒が開かない。

 かくして、私達はそそくさとホテルに戻るのだった。

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