2ー3

PM 10:00 小樽市内のホテル


 小樽湾の倉庫からホテルに戻り、先の惨殺された魔術師の写真を眺める。たったの数分で、人があんな惨めなものになることに、驚愕が隠せない。

 せっかくの旅行というものの、まさか魔術師同士の殺し合いデスゲームに首を突っ込みそうになるとは思いもしない。

 しかし、起きたことは事実であり、ことを急ぐにしても、証拠が足りなすぎる。私は、ラスティアが淹れたインスタントコーヒーを飲みながら、持って来たファイルと『仮面の魔女ジャンヌ』からもらったタブレットを眺める。だが、何処にも噂話の正体に近しいものはなかった。

 そもそも、噂話という時点で、客観的観点が通用しない。噂話というものはあくまで噂なので、実態がどうなっているかはわからないのは当然だ。たとえそれが、醜い殺し合いだったとしても、それを現地で見ないとわからない。


「ますますわからんな。あんな死に方をしている時点で、魔術による殺害なのはわかるが、一体どうなっている? 誰がこんなチンケな噂話を流したのか?」


「確かに、逃げる時の彼らの顔は必死だった。でも、それが何か意味でもあるのかな?」


「そこなんだよ。彼らは、何かに目をつけられたように逃げて行った。でも、その数分後に死んだ。惨殺されてな。

 あの数分間で、熾烈な殺し合いが繰り広げられていたんだろう。すれ違った魔術師が返り血まみれなのも頷けれるだろう」


「しっかし、せっかくの旅行なのに、面倒事に巻き込まれたね。その内、私達も目をつけられるのかな?」


 明日香が不穏なことを言う。それもそうだ。私達は小樽駅から周りの魔術師達の目をつけられている。

 この問題に首を突っ込んでいるのなら、そのうち狙われるのは必然だ。その為には、早くに手を打つ必要がある。だが、今は詳細な情報が足りないので、打つ手がないのだ。今はただ、旅行と並行して、それを調べることが上策なのだ。


「確かに、もう目を付けられても仕方ないだろう。彼らにとって、私達もあれを狙っていると言う認識だろう」


「となると、仮に襲われたとしたら?」


「迎え撃ちしかないよ。まぁ、昼間で無いこと願うしかないね」


「あの時間帯じゃ、観光客も多いし、バカでなきゃ迂闊には狙わないさ。でも、人気ひとけがないところなら、ワンチャンあり得るな」


 私は、煙草を吸いたい気持ちを抑えながらこの件の実態を考察する。禁煙の部屋は、喫煙者にとっては窮屈に思えてしまうのだ。

 私が考えていると、電話がかかってくる、電話の相手は、セシリアだった。


「もしもし」


『あら、もう着いてたの? 電話がなかったからかけちゃったわ』


「セシリアか。ちょうど私も電話したかったところだったよ」


 私はスピーカーをオンにし、セシリアにことの顛末を話す。彼女は頷きながら私の話を聞く。


『なるほど。実態は私達が思っていたより酷いものだったって訳ね。通りで惨殺死体がよく搬送されていた訳か』


「あぁ、今日も3人の魔術師が死んだよ。惨めにね」


『そうね。でも、今は打つ手がないんでしょ? 誰が張本人なのもわからない訳だし、迂闊に首を突っ込めれないのも事実でしょうね』


「そうだね。今は旅行しつつ傍観を貫くことが正攻法と言えるだろう。現に今、私達は目を付けられているしね」


『意外と早いわね。それほどまでに、小樽そっちはピリついているのかしら?』


 セシリアは、小樽の現状は聞きながら頷く。どうやら、魔術院でも潜伏している者がいるらしい。セシリアはその人物から、色々と聞いているようだ。

 だが、あくまで噂でしかないので、確証が得れていないのが事実だ。


「いや、正確には列車の中からだ。どうも、札幌を出る前から目を付けられていたのだろう。

 魔力がバレバレだったから、逆探知させてもらったがな」


『そうなってくると、相当ヤバいわね。噂話の実態が、醜い殺し合いデスゲームだったなんて、笑えないわ』


「そうだね。だが、ことを大きくするわけにも行かない。放っておくと、一般人まで被害者が出る。

 そうならない為にはまずは――――」


『情報収集ね。こっちで派遣されている旅団の魔術師に接触しなさい。堺町通りってところの観光地にいるはずよ。

 そいつなら、何か情報を持っているはずよ』


「わかった。堺町通りだな。暗号は?」


『あなたが「暗号は?」っと言いなさい。そしたら向こうが「あいうえお」と言うはずよ。それが暗号になるわ』


「随分と日本的な暗号だな。傍受されるんじゃないの?」


『問題ないわ。彼らも躍起になってるんじゃ、そんなのを知る暇はないわ』


「わかった。では信じよう。では、またね」


 そういい、私は通話を切る。そして、私は立ち上がる。


「何処行くの?」


「煙草吸いに行くだけだよ。大丈夫、吸い終わったらすぐに戻るさ」


「わかった。私と明日香さんは、大浴場に行くね。姉さんもすぐに行くでしょ?」


「そうだね。煙草吸ったら行くとするよ」


 私は、喫煙所に向かう。喫煙所に着くと、すぐに煙草を咥え、火をつける。一服しながら、小樽の夜景を眺める。その風景の中で、惨めな殺し合いデスゲームを繰り広げていると思うと、なんだか怒りが湧いてくる。

 そう思っていると、一本じゃ足りなくて、もう一本吸う。


『事をただ静観をするな。さもなくば、取り返しがつかなくなるぞ?』


 脳裏で誰かが話しかける。『魔女やつ』だ。どうやら、私に話しかけて来たようだ


「何が言いたい?」


『言葉その意味のことよ。人の子の愚かな殺し合いだけではないぞ? この地には、それを上回る厄介なのが潜んでいよう。だが、それを知る頃がいつか、見ものよな』


「厄介なのが潜んでいる? どう言うことだ?」


『まずはその殺し合いとやらをどうにかしろ。それは、その後から知れよう』


 そういい、『魔女やつ』姿を消す。いや、私の中に戻ったのだ。私は気を取り直し煙草を吸う。

 しばらくして、私は一服を終え、ラスティア達がいる大浴場に向かったのだった。

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