3ー5

PM 10:15 小樽運河


 魔術師の集団を一掃し、例の噂話の大元の魔術師との決戦に挑む。奴は運河に潜みし魔力を巧みに操り、私とラスティアに向かって攻撃を行う。

 その水流は、ベンチごと運河の通りを粉砕する。だが、事前に張っていた『虚数空間』により、犠牲者は出ずに済む。

 しかし、水となると私には少々不利になる。どんなに強い炎でも、威力が強い水流では刃が立たない。

 講じられる手段は二つ。一つは、ラスティアに凍らせてもらい、それで出来た隙で一気に叩く。

 しかし、それではラスティアに負担がかかる。彼女の体力を激しく消耗することになるのだからだ。

 二つ目は、魔術師自体を倒すこと。そうすれば事が解決するが、奴は運河の魔力を支配下においている以上、それは難しいだろう。

 

「どうした!? 水が怖くて近寄れないか!?」


「あれじゃ、激しくて近寄れない! どうすれば!?」


 私は考える。あの魔力源をどうにかすればいいのだが、やれるとしても半分は博打だ。

 そう思い、私は眼鏡を外す。すると、視界に強力な魔力を感じる。どうやら、あれが『魔素マナ』の塊らしい。奴が操る魔力源は竜の形をしており、腹部がコアとなっているようだ。


「ダーインスレイヴを使う。あれから放たれる水流が魔力なら、これが有効だ」


「でも、威力が強いんじゃ、近寄れないんじゃ?」


「そうだね。私が持つ魔術と『赤の色素エレメント』じゃ、難しいだろう。

 でも、ダーインスレイヴならそれが有効だ。なんせ、これは魔力を吸い尽くす呪われた魔具だからね」


「わかったけど、そこまで行くには、あれをどうにかしないと」


「水流を防げるには、ラスティアの冷気が有効だ。強い冷気なら、あの水流も氷漬けに出来る。

 だけど、それをするには、君の体力をかなり消耗することになる。行けるかい?」


 私は心配そうにラスティアを見る。だが、彼女は腹に決まっているらしく、私の心配をよそに行動する。


「大丈夫! 姉さんの為なら、このくらいは平気!」


「なんだ。心配した私が馬鹿らしいじゃないか。でも、無茶はしないでね」


 ラスティアは、氷花を地面に刺し、同時に術式を唱える。


「『汝 我が領域にて 凍てつく空気に包まれよ 我が領域は 星に刃を向けし者を 永久の牢獄に誘う結界

  我が熱を冷気に変え 星よ 汝が敵を悠久の封印につかせよ』」


 周囲が強力な冷気に包み込めれる。そして、ラスティアの体に氷が付いていく。


「『三重魔術 領域支配術式 冰界領域【アイシクルゾーン】』」


 運河の辺りが、ラスティアの冷気によって凍りつく。それによって、運河の水面に氷が張られた。


「なんだ!? 運河が凍っただと!? これじゃ、何の出来ないじゃねぇか!?」


「これで、なんとか時間が稼げれそう。姉さん、早く!!」


「上出来だ! 行くぞ!!」


 私は、ダーインスレイヴを携えては、水流の塊に向かって走る。魔術師は、水流を放出するが、ラスティアの冷気によって凍りつく。

 私はそのまま、水流の中にあるコアに向かい斬撃を繰り出す。だが、水流が放たれたことで、私は運河の橋に戻された。


「さすがは『龍脈』だ。まるで、自立しているようだ」


「でも、さっきよりは鈍っているみたい!」


 ラスティアの言う通り、水流の動きが鈍っている。ラスティアの冷気によって、次第に動きが制御されているみたいだ。

 だが、ラスティアの体力はあまり長くはない。たとえ完全に動きが封じられても、持って5秒だ。

 ならば、即急に終わらせなければならない。そう思い、私は水流に攻撃を仕掛ける。


「馬鹿なことを!! 死にに来たか!?」


 魔術師は、水流に魔力を込める。ラスティアの冷気によって封じられている水流を無理矢理動かした。


「――――――――はぁ!!」


 水流が凍った箇所に向かい、ダーインスレイヴで切り裂く。そして、吸収した魔力を解放し、コアごと切断した。


「これで、終わりだ」


 コアが粉砕されたことで、水流が一気に滴り落ちる。それと同時に、ラスティアの体力が尽きたことで、冷気の領域が解消された。


「はぁ……はぁ……。ど、どうにかなったね……」


「お疲れ様。どっか怪我はないかい?」


「大丈夫。でも、ちょっと疲れたかな?」


「そっか。では、休んででくれ、あとは私が」


 私は、ダーインスレイヴを持ちながら、魔術師のいる方に向かう。それを見た彼は、怯えたように尻餅をつきながら引き下がる。


「う、嘘だろ!? 『龍脈』を使った、術式だぞ!? こ、こんなのあり得ないぞ!!」


「どうした? 先程までの異性はどうした? それとも、怖気ついたか?」


「く、クソが!!」


 魔術師は、逃げながら私と距離を置く。すると、疲労によって動けられないラスティアを人質にとる。


「姉さん!」


「い、一歩でも動いてみろ!? でなけりゃ、この女の命はないぜ!?」


「その子を人質に取るか? いいだろう。今楽にしてやるよ」


 どうやら、こいつは私の逆鱗に触れたらしい。私は、身内以外の人物に『魔女』と言われるのと同等に、ラスティアに手を出そうとする奴には容赦はしない。

 そのようなことをする輩を、私は徹底的に殺すことにしているのだ。


「動きやがったな!! そいつもろとも、死ねぇ!!」


 魔術師は、ラスティアの胸に向かった魔術を放つ。すると、魔術師が術を唱える前に、どこからか銃声が聞こえた。


「ああああああああああ!!」


「ラスティア!!」


「姉さん!!」


 私は咄嗟に、ラスティアを抱き抱える。どうやら、無傷みたいだ。


「くそ!! クソが!! テメェら2人まとめて、殺してやる!!」


 魔術師は、再び魔術を唱える。すると、旅団の魔術師達が、奴を拘束した。


「な、なんだ!? なぜ、旅団の連中が!?」


「もはやここまでですね。あなたの蛮行を、これ以上は看過出来ませんので、拘束させてもらいました」


「君は、確か、昨日の?」


 そこには、昨日遭遇した旅団の女魔術師がいた。彼女がフードを下ろすと、以前どこかで会った人物だった。


「まさか、君はマリア!?」


「改めて、お久しぶりでございます、アルトナさん。あなたの動向は、逐一観察させていただきましたが、まさかここまで辿り着くとは、想定外でした」


「なぜここに?」


「聖教会にいましたが、そちらに任務から外されまして、一時的ではございますが、リリアンヌ議長の命により小樽に派遣されたのです」


「なるほどな。で? こいつはどうする?」


「この魔術師は、こちらで引き取らせていただきます。では」


 マリアは、魔術師を連行し運河を去る。そして、私はラスティアにポーションを飲ませて回復させる。

 こうして、激しい戦いを終え、ようやく運河について調べるのだった。

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