3ー3

PM 4:50 小樽市内


 それからラスティア達と合流し、水族館を後にした。合流する頃には、イルカショーの終わりだったらしい。だけども、ラスティア達は上の席で見ていたらしく、そんなに濡れていなかったようだ。

 そんなこんなで、帰りのバスに乗り、私達は小樽の街で食事をとる。ラスティアのリクエストで、にしんそばを食べることにする。味が濃いめのつゆに、甘く煮たニシンがいい塩梅をしているそうだ。

 ニシンそばを食い終え、私達はホテルに戻る。すると、明日香が電話に出る。


「ごめん。ちょっと寄るところできちゃったから、先に戻っててよ」


「大丈夫? 1人で行って」


「野暮用だしね。日が過ぎるまでには帰るよ」


 そう言い、明日香はどこかへと行った。私とラスティアは、ホテルに戻る。


「……」


「どうしたの? 具合悪そうにして」


「おかしいな。どうも、敏感に魔力を感じる。昨日まではこんなことはなかったんだけど」


「魔術師が多いの?」


「いや、そう言う訳じゃないけど、少し休ませてほしい」


 私はラスティアにそう言うと、すぐにベッドに横になる。屋内だからか、魔力感知が薄く感じられる。

 この感覚は、魔術師ではなく、別の何かだ。やはり、『仮面の魔女ジャンヌ』から貰ったあれがないと、過敏に魔力を感じてしまうみたいだ。

 しかし、それを確かめるには、あの運河に行かないといけない。その為にも、変に接触しないか切に祈るだけだ。

 しばらく休んでいる内に、時刻を夜になっていた。ラスティアは、椅子に座りながら、私の容体を見ていたらしい。


「大丈夫?」


「あぁ、さっきよりはマシになったけど、まだ魔力を強く感じられる。どうも、あそこに魔術師達が集まり始めているみたいだ」


「あんまり無茶しないでね。辛いなら、今日はもう休んだほうが」


「いや、ダメだ。今日の内に手を打っておかないと、状況が厄介の方向に行く。そうならない為にも、今日の内にはやらないといけないんだ」


「姉さん……」っとラスティアは私を心配そうな目で見る。それもそうだ。彼女には、あの運河から感じられる魔力を私ほど感じられていない。彼女から見れば、感じ過ぎるあまりに、私が体調を崩したようなものなのだから。


「わかったよ。姉さんがそう言うなら、私も手伝う」


「ラスティア……」


「だって姉さん、ほっとくと無茶するんでしょ? そうさせない為にも、私が姉さんの背中を預かるよ」


「そっか……。君にはお見通しだったか。わかった。なら、手を貸して欲しい。君の力が必要なんだ」


 私がそういうと、ラスティアは笑顔で頷く。すると、ラスティアはペンの先で自分の指を刺すと、その傷口から出る血を私に差し出す。

 私は、それを見て彼女の血を舐める。すると、先程まで感じていた魔力による眩暈が落ち着いてきたようだ。


「ありがとう。これで、多少はマシになったよ」


「よかった。でも、一時的だから、また起きた時は、撤退も考えて」


「そうだね。満身創痍の状態じゃ、魔術師同士の殺し合いじゃ命取りになる」


 私達は、着替えてから、運河に向かう。時刻は夜の9時になっている。この時間にホテルを出るとなると、コンビニに買い物に行くくらいだろう。

 ともあれ、私とラスティアは運河に張り込む。ラスティアの血を吸ったからか、過敏に魔力を感じるが、体に異常は見られていないようだ。


「夜の運河もいいね。こんな状況じゃなければ、ゆっくり眺めてたのに」


「全くだ。それより、そっちに魔術師はいるの?」


「いや、魔力は感じられないけど、どこかにいるね。隙を見て、私達を狙っているかも」


 ラスティアは、魔具を構えながら周囲を警戒する。私もグラムとティルフィングを展開しながら、周囲を見渡す。


「危ない!!」


 ラスティアは、氷花を鞘から抜くと、投擲物を跳ね返す。すると、後ろから魔術師がラスティアに目掛けて斬りかかる。

 だが、ラスティアはそれを冷静に対処し、鞘で魔術師の腹部を殴打する。


「がはッ!!」


「魔術師!? 一体どこから!?」


「どうやら、囲まれたみたいだ。こいつら、今は結託しているらしい」


「それじゃ、私達が邪魔だから消しにかかっているってこと?」


「そうらしい。だが、ここで食い下がるほど私はバカじゃない」


 私とラスティアは、お互い背後に立ちながら、魔術師達と対峙する。


「無茶しないでね。君が死んだら、私が困る」


「もう、心配しすぎだって、姉さんに鍛え上げられた以上、こんな奴らに負けないよ」


「頼もしいね。それじゃ、お手並みを拝見しよう!」


 私は、グラムとティルフィングを同化させ、両腕に白と黒の炎を纏った状態になる。ラスティアも氷花を再び鞘から抜いて構える。


「いいかいラスティア、殺し合いになるかもしれない。でも、なるべくは命を取らないで」


「うん! でも、姉さんもね。姉さん、加減ができないから」


「はいはい。まぁ、善処するさ」


 私達は、魔術師達と対峙する。魔術師達も、私たちに向かって攻撃を開始する。

 こうして、運河の地で、私達魔術師による熾烈な殺し合いが幕を開けるのだった。



 ――――――――――――――


同時刻 小樽駅 【七森明日香視点】


「やっぱり始めたか。あいつ、容赦がないから心配だよ」


 その頃私は、リリムに呼び出されてから、あいつとラスティアと別行動をとっていた。

 どうも、あの運河について調べたことを伝えたいらしい。でも、まずは停滞する魔術師を一掃して欲しいらしく。その為に私はこの街に来た魔術師を暗殺するように頼まれたのだ。

 だが、意外なことにあいつが運河に来たことで、私の出番はないらしい。まぁ、露払いくらいはしといてもいいだろう。


『状況は?』


「状況? あいつが運河に来たくらいかな? それに、もうおっ始めてみたいだし」


『そうか。例の魔術師は来ているのか?』


 私は、リリムから貰った『モシン・ナガン』をスコープを覗きながら、目当ての魔術師を探す。


「路地の方にいるよ。遠くからあいつと魔術師達の殺し合いを眺めているみたい」


『なるほどな。では、そいつが『魔女』と接触した際に撃て。それまでは奴を逃すな』


「はいはい。それじゃ、やるとしますか」


 私は、遠くで眺めている魔術師に狙いを定める。あの魔術師があいつに攻撃を仕掛けるのをただ待つだけだ。

 かくして、私はあいつの戦いを見ずに、リリムが記した標的の動向を観察しながら、引き金を引くを待つのだった。      

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