1ー2

PM 7:00 『仮面の魔女』の工房


 邸での食事を終え、私はすすきのに向かう。その場所はと言うと、『仮面の魔女ジャンヌ』のいる工房だ。

 私はドアを開け、『仮面の魔女ジャンヌ』の工房に入る。工房に入ると、『仮面の魔女ジャンヌ』がバーテンダーの格好で出向いてくれた。


「あら、まだこの街にいたのね。てっきり行ったものかと思ったわ」


「まだ一週間もある。その間に、君と話をしたくてね」


「意外ね。貴女からそう言うなんてね」


仮面の魔女ジャンヌ』は、ロックグラスと灰皿を用意する。私は、『仮面の魔女ジャンヌ』の用意した席に座り、ロックグラスに注がれている酒を飲む。


「ウィスキーか。今日は随分と張ってるね」


「『竹鶴』って銘柄よ。小樽の隣の余市の名産らしいわ」


「ジャパニーズウィスキーは近頃高いだろう。また『優越の魔女』からの贈り物か?」


「そうね。『優越の魔女マリー』が貴女によろしくですって」


「彼女もまた胡散臭いな。あって言えばいいものを」


 私は、ウィスキーを飲み始める。癖のなく上品なウィスキーだ。


「例の噂話、知ってるかしら?」


「さっき聞いたよ。何でも、小樽に魔術師達が集結しているらしい。全く、そんなデタラメによくヤッケになるもんだ」


「人というのは、いつまで経っても美味しい話のは目がないわよ。それが自分の身を滅ぼすと知らずにね」


仮面の魔女ジャンヌ』は、皮肉いっぱいに話す。すると、『仮面の魔女ジャンヌ』は私にタブレットを渡す。


「これは?」


「例の噂話をまとめたものよ。みんなこぞって小樽に来ているわ。何でも、『小樽運河』には、膨大な『魔素マナ』が眠っているそうよ。それを求めて、魔術師達は遠くから来ているわ。

 でも、共通するのはいつもそう。その街からは誰も帰って来てないのよ。

 見つかったとしても、ただの屍。あの街では、ひっそりと殺し合いが始まってるのよ」


「バカなことだ。まるで死にに行ってるようなもんだ」


「そうね。でも、誰もそれを罠だと疑わないのよ。それはね、あまりにも信憑性が高いのよ」


仮面の魔女ジャンヌ』の言葉に、私はタブレットを置く。昨今のネットを利用したデマでもなさそうだ。


「どういうことだ?」


「言葉通りの意味よ。誰かかいい、それが次第に膨れ上がって、いつしかそれは、ただの噂話じゃなくなったってことね。

 その結果、死人が増えては、また小樽の来訪するの繰り返し。誰かが止めないと、一大事になるわ」


仮面の魔女ジャンヌ』は、手品をしながら、私に話す。事態は私が思っているほど、深刻のようだ。

 まるで、負の螺旋だ。人がその話を間に受け、その話を別の解釈になり、また別の人へと伝わる。

 厄介なことだ。噂話が人を惹きつけ、また人を惹きつける。それが、血塗られた殺し合いとも知らずに、今日もまた噂話に釣られるのだから。


「その運河に潜む『魔素マナ』とは?」


「わからないわ。でも、ただの『魔素マナ』じゃないのは確かね」


「君にしては、随分と確証がないな。自身がないの?」


「そうね。噂話が膨れ上がりすぎて、実態が読めないのよ。調べるにはあまりにも情報量が多いわ」


仮面の魔女ジャンヌ』は、事の事態を把握できていないみたいだ。それほどまでに、この噂話とやらは、情報が入り組んでいるらしい。


「なら、自分で見た方が良さそうだ。ただのほら話か、あるいはマジな事実か。結局は自分で見る方がいい」


「相変わらず、自分の知ることしか興味ないのね。では、これを渡しておくわ」


仮面の魔女ジャンヌ』は、私に何かを渡す。どうやら、ただのカードリッチではないようだ。


「これは?」


「魔力を探知することができる魔具よ。無いよりかはマシね」


「別に、こんなのはいらないけど? この眼で魔力を可視化すればいいだけだし」


「甘いわね。あなたの眼は、魔力を可視化は出来るけど、それが眼に悪影響を及ばしえない場合があるのよ?

 それを予防するものと思って頂戴?」


「ご親切にどうも。では、私は帰るよ」


 私は『仮面の魔女ジャンヌ』の工房を後にする。『仮面の魔女ジャンヌ』もまた、私を見送る。


「えぇ、無事に行きなさい、アル。さっきも言ったけど、今回は相当混沌としてるわ」          

           

「あぁ、また頼むよ。『仮面の魔女ジャンヌ』」


仮面の魔女ジャンヌ』の声と共に、私は彼女の工房を後にする。すすきのの街を歩くと、例のウィルスが流行る前までに、人並みが戻って来ている。それほどまでに、人というのは圧政を嫌う生き物なのだと痛感する。繁華街の方に歩いていると、身に覚えのなる人物がいる。


「奇遇だね。ここでバッタリ会うなんて。またあれのところに行ってたの?」


「明日香か。君も歩いていたのかい?」


「リリムのところから帰って来たところだよ。君に用心しろだとさ」


「はいはい。『仮面の魔女ジャンヌ』にも言われたけど、肝に免じておくよ」 


 私と明日香は、帰路に着く。繁華街を通りながら、屋敷に向かうと、不審な人影がちらほらを歩いている。

 魔力を感じるに、魔術師のようだ。どうやら、あの噂話に釣られた奴らだ。


「例の噂話かな? バカだね、あんなのに釣られるなんて」


「明日香も聞いたのか?」


「リリムからね。やけに死人が増えて来ているから、魔具の手入れに時間がかかるみたい」


「彼女も大変だな。まぁ来週には行くさ」


「君かい?」


「いや、私はただ、任されたものをやるだけさ」


 私と明日香は、魔術師を追わず邸に向かう。こうして、明日香の食べ歩きに付き合いながら、私は邸に帰るのだった。

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2024年11月8日 22:00
2024年11月9日 22:00
2024年11月10日 22:00

魔女と運河に潜む龍脈 nashlica @nawoc_56

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