2ー5

AM 10:00 小樽市内


 ホテルを後にし、私達は小樽の街を観光する。駅とは目と鼻の先ではあるが、私達は坂を降りる。

 坂を降りていると、古い時代を思い出させる街並みが広がっている。レンガで建てられた建物は、今は何かしらの施設へと再利用されている。その為、この街にはどこか懐かしさを感じていた。


「…………」


「どうしたの?」


「やはりつけられているな。どうやら、マークされているらしい」


「のんびり旅行なんてさせてもらえないんだろうね。まぁ、そのまま黙ってくれていた方が好都合だけど」


 面倒な連中だ。どうやら、昨日の一件でマークされるようになったらしい。ローブを纏った奴らが、私の後ろをつけているようだ。

 しかし、私も黙っている訳のは行かない。魔力を逆探知し、彼らの動向を監視させてもらっているからだ。

 私が振り向くと、魔術師達はすぐさま私との距離を置こうとする。しかし、私は彼らを追わずに、あえて見逃した。


「逃げていったな。深追いはしないでいいだろう」


「大丈夫? またつけられるんじゃ」


「別に、問題はないだろう。それに、罠だとしても、返り討ちにするだけだよ」


 私は、歩きながら周囲を見渡す。まだ朝早い時間だというのに、もう人で溢れかえっている。あんなことが起きたとしても、観光地という物はお構いがないのだと痛感する。

 そこには血塗られたものがあったとしてもだ。


「まぁ、今は観光を楽しもうよ。ね?」


「明日香さん……。ホテルであんなに食べたのに、まだ食べるんですか?」


 明日香は、その辺の売店で買い食いをしていた。どうやら、あんなに食べていながら、まだ食べるらしい。

 溜息をしながら、私は明日香を見る。だが、食べることは別に悪いことではないので、私はそれを見届ける。

 しばらく歩き、私達は堺町通りにつく。レトロな雰囲気な街並みが広がり、私達はその雰囲気に酔いしれる。


「姉さん! オルゴールだって!」


「すごいな。こんなに並んでいるのか」


「ガラスで作られているみたい。すごいね」


 ラスティアは、オルゴールを見て感動する。仕方がないので、私はラスティアにオルゴールを買ってあげることにした。


「好きなの選んでいいよ。金は余分に持ってるから」


「ありがとう! じゃ、これにするね」


 ラスティアは、私に選んだオルゴールを渡す。私は会計に進み、オルゴールをラスティアに渡した。

 オルゴールの店を出て、私達は堺町通りを進む。すると、明日香が立ち止まり、何かを悩んでいた。


「こっちのコロッケも美味しそうだな……。いや待て、こっちもいいな〜。ううん、どうしよう、悩む」


「何悩んでるんだい? どっちも選べばいいだろう?」


「そう言う訳に行かないんだよ〜。だってさ、ここだけの限定品だし? それに、いい肉使ってるんだよ、これ」


 私は、呆れながら明日香の悩んでる姿を見る。


「悩むくらいなら、全部選べばいい。それに、金は全然あるから構わないさ」


 私は明日香の横に立ち、彼女が選んだ食べ物を買う。両手いっぱいの食べ物を持ちながら、明日香は喜ぶ。

 まぁ、彼女の食べる姿を見れて私は満足しているが。


「ちょっと歩き疲れたし、休憩にしない?」


 ラスティアは、私達に休憩を提案する。私も少々疲れたので、近くのカフェで休みことにした。

 コーヒーを飲みつつ、休憩していると、白いローブを来た魔術師が、私たちの前に現れた。


「合言葉は?」「あいうえお」


 ローブを来た魔術師は、私の真後ろで合言葉を言う。どうやら、こいつは魔術院から派遣された旅団の魔術師らしい。


「お久しぶりですね。アルトアさん。相変わらずで安心しました」


「君は確か、あの時の?」


「そこまでは結構。ここでお会いできて何ですが、リリアンヌ議長より、あなた方への情報提供を依頼されたまでです」


「リリィから? どう言うことだ?」


 彼女は、私の手の下に何かを渡す。私がそれを受け取ると、どうやらタブレットのようだ。


「よくもまぁ、こんなものを渡すね。リリィも人使いが荒いな」


「えぇ、私も、ある任務を途中で抜けさせられたものですので。それより、事は次第に深刻になっていってます。

 今日もまた、魔術院に属する魔術師達が、この街に来訪したようです。それも、『B級魔術師』ノービスが多いんだとか」


「何だって?」


 彼女は、私の持つタブレットに、PDFを送信する。私はそれをタップすると、例の噂話にまつわる資料が表示されていた。


「これは?」


「今巷で話題の噂話とやらの資料です。深夜の小樽運河を中心に、魔術師達の凄惨な殺し合いデスゲームが開かれているんだとか。

 昨日、あなたが見たあれも、それによるものです」


「なんだ、見ていたのか?」


「えぇ、あなたに気づかれない範囲でね。『特級魔術師イレギュラー』であるあなたなら、私の魔力なんて簡単に探知できるでしょうからね」


「してやられたね。それもリリィの入れ知恵かい?」


「それ以外ないでしょう? とまぁ、彼らの目的は、あの運河に眠るものは独占すること。独占できれば、議長でさえ倒せれるほどの魔力を得ましょう」


「リリィなら、その辺は把握済みか。だが、それはそれで、厄介なものだな」


 彼女の話を聞きながら、タブレットを操作する。すると、今度は別の魔術師の遺体を確認する。


「この魔術師、確か『A級魔術師エリート』じゃないか? 彼も、この噂話を聞きつけてきたのか?」


「えぇそうです。残念ながら、その日のうちに亡くなりましたけどね。議長の耳に入ったのもその時です。

 おかげで、私の仕事も増えた。全く、面倒な事ですよ」


「そう、それはご苦労な事だ」


 私が適当に言うと、彼女は立ち上がる。どうやら、どこかへと行くみたいだ。


「では、またどこかでお会いしましょう。今度は私用プライベートで」


「はいはい、勝手にしろ。その時は丁重にもてなしてあげるよ」


 そう言い振り返ると、彼女はとっくにさっていた。


「何だったんだろうね。あれがセシリアが言っていた人?」


「多分ね。充分休んだし、行こうか」


 私達は、コーヒーとケーキを食い終え、会計に進む。


「えっと、もう会計をされていますね。さっきのお客様がされたと思われます」


「は、はぁ。それは、ありがたいですね」


 どうやら、彼女は私達の分まで会計をしていたらしい。今度あったら、何かを渡しておこうかな?


「じゃ、じゃあ、次はどこ行こうかな?」


 ラスティアは、スマホを開いてマップで調べる。

 かくして、私達は観光を続けるのだった。

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