プロローグ

――――――それは奇妙な噂話だった。

 なんとも、その運河には龍の力と評させる上質な『魔素マナ』が宿っているそうだ。

 そんな美味い話があるかっと、魔術師達は皆こぞっとその力が眠る地へと足を運んでいく。だが、美味い話には、不審な事が付き纏うのが世の摂理だ。

 例えば、1日で数万の金が稼げれる。なんていい話だろう。でも、それは全くの嘘。金を毟り取りたいだけの法螺話フェイクだ。

 例えば、いい薬があるとしよう。その薬は、歳をとることも、老いを感じることもない。なんて素晴らしい薬だろうか。だが、その正体は列記とした毒薬。死に際に、それを知ってからでは時すでに遅いのだから。

 そう、先ほど言ったように、美味い話には不審なことも多いのだ。この話を聞いた者達は、皆こぞっと失踪しているのだ。


「美味い話なんて、そう簡単にあるわけないわ。所詮は誰かの戯言。それ気づく頃には、もう遅いわ」


 夜分に光るネオン。レトロの雰囲気が漂う小樽の街に、今日もまた魔術師の死体が転がる。彼もまた、噂話に駆られた愚かな被害者だ。


「あらら、あなたも来ていたの? 『仮面の魔女ジャンヌ』」


「あなたもいたのね。『優越の魔女マリー』。あなたのような人が、例の噂話に釣られたのかと思ったわ」


「いいえ。そんなことで釣られる私ではないわ。例の噂話の実態を知りたくてね」


 彼女も、例の噂話について、実態を掴むために現れたのだ。私も同様に、それを確かめるべく来たが、人間の醜さを表しているのだ。


「まぁ、実態も知れたわけだし、私は帰るわ。人間の醜さを、昔から見てきているわけだし」


「そう。では、ごきげんよう、『優越の魔女マリー』」


優越の魔女マリー』は、亜空間を開き、この場を去っていく。しかし、この件を先延ばしにしておくわけには行かない。

 こんなくだらない噂話を放置すると、不要な犠牲が出るだけだ。私は一刻も早く彼女の助力を得るために動く。

 かくして、私も亜空間を開き、小樽の街を後にするのだった。

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