第13話 風雲!マーシー城 前編
ミリナとダミ子は風呂場でお香を焚いたり、ソープマットを敷いたりと楽しそうに準備を進めていたが、アマンダの騒ぎのせいで、コンシェルジュや隣人が次々と様子を伺いに来る事態になってしまった。どうやら、今日はゆっくりと過ごせそうにないらしい。
「こりゃ、しばらく俺の部屋でゆっくりはできそうにないな。倒れてる男とJQ子も一緒に、一旦外に出るか」と、俺は全員に声をかけた。
ミリナとダミ子は不満そうな顔をしていたが、邪魔されて興醒めするよりはマシだと考え直したのか、俺の提案を渋々受け入れた。倒れている男を引き起こして名前を聞くと、「ジョニー・イージーだ」と、どこかふてぶてしく名乗った。
「誰か、5人で入れるホテルか会議室を探してくれ。費用は俺が出すから」と俺が言うと、ダミ子が自信満々に「風俗店のオーナー同士は横のつながりがあるデェ。高級だけど安く泊まれるラブホを案内するデェ」と答えた。
ラブホ、という言葉に少々戸惑ったが、今は安全な場所に移動する方が優先だ。ダミ子に導かれて向かった先は、『風雲!マーシー城』というやたら派手な名前のラブホテルだった。「普段なら3時間で1万円はするところですが、オーナーが電話少年の常連なので3000円で使えますデェ」と得意げに言うダミ子に、なんとなく苦笑いがこぼれた。
俺たちはそのままダミ子の案内に従って、スイートルーム「大攻城戦」に入った。そこは純和風の内装で、広々とした畳敷きに、豪華な調度品が並んでいた。だが、なぜか水鉄砲を積んだカートがいくつか置かれており、俺たちは困惑しながらも気にしないことにした。
部屋のソファーに腰掛けると、すぐにミリナとダミ子が左右に座り、俺の腕を自分たちの肩に回した。後ろにはJQ子が回り込み、俺の肩に手を置き、頬を寄せてくる。
この状況、まるでハーレムの王様みたいじゃないか。そんな錯覚を一瞬覚えたが、表には出さなかった。これからジョニー・イージーを尋問するという緊迫した場面で、ふざけた態度を見せるわけにはいかない。
「ねぇ、田中さん……こいつ早く吐かせちゃって、いいことしちゃいましょうよぉ」とミリナが俺の耳元でささやくように言い、「吐かないなら、それはそれで痛ぶりがいがあるデェ」とダミ子も冷たい視線を向けた。さらにJQ子が追い打ちをかけるように、「田中殿、妾はこいつに脅されて、アマンダを部屋に招かざるを得なかったのだ。つまり、全部こいつのせいなのだ」と告げると、ジョニー・イージーの顔はさっと青ざめた。
「待ってくれ!」ジョニー・イージーはすがるような目でこちらを見つめ、急に早口で弁解を始めた。「俺はもともとフランス外人部隊で使われていた軍事用ロボットだ。でも最近、ヨーロッパの軍事的緊張が緩和されて、フランス軍をクビになった。仕方なく仕事を求めて日本に来たんだ!」
「ええー?ヨーロッパ出身なら普通、ヨーロッパで仕事を探すんじゃないのぉ?ねぇ田中さん、こいつ、もう胡散臭いし、東京湾に沈めちゃおうよぉ」とミリナが冷ややかに言い放つと、ジョニー・イージーの顔色がさらに悪くなった。
「ヨーロッパには人間第一主義を掲げる大統領がいて、ロボットへの風当たりが強いんだ。だが、日本ではアニメやマンガの影響でロボットも肯定的に見られていると聞いた。それで……」とジョニー・イージーは必死に言葉を繋げた。
「そういうとこあるデェね。日本政府はロボットに理解があるっていうより、決断できないで曖昧にしてるおかげで、法整備がゆるくなってるから、ロボットも働きやすいデェ」とダミ子が頷くと、ジョニー・イージーは安堵の表情を浮かべた。だが、その顔に向かって、ダミ子は冷淡に言い放った。
「でもね、こいつは私に無礼を働いたから死刑デェ」
ジョニー・イージーは再び顔色を失い、俺は心の中で「この男、表情がコロコロ変わって面白いやつだな」と思わず笑いそうになった。
「じゃあ、皆んなジョニー・イージーをどうするか決めようか?」と俺が皆に問いかけると、ダミ子、ミリナ、JQ子は口を揃えて「死刑!」と返した。
「よし、ミリナ、やってくれ」と俺が命じると、ミリナが立ち上がったが、その際に俺の足に少しぶつかってしまった。俺は見過ごそうかと一瞬迷ったが、リーダーとしての威厳を保つために、あえて指摘することにした。
「おい、ミリナ?今、俺にぶつかったぞ。ちゃんと頭を下げろ」と俺が声をかけると、ミリナはすぐに頭を下げようとしたが、少しためらいながら言った。
「あの……田中さんの指示通りに今、ノーパンなんです。正面から頭を下げると、ジョニー・イージーに見えちゃうんですが……」
俺は驚きつつも、「こいつ、抜けてるところがあるな」と心の中で思ったが、表には出さなかった。チラリとジョニー・イージーを見ると、さっきの戦いで圧倒的な強さを見せつけたミリナが俺に従順な様子を見て、何者かと思っているのだろう。呆然とした表情でこちらを見ているのがわかる。
「そろそろ本題に入ろうか」と俺は改めて姿勢を正し、ジョニー・イージーに視線を向けた。
さあ、楽しい尋問タイムだ。
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