第14話 風雲!マーシー城 後編

「ダミ子、ミリナにパンツを履かせてくれ」


田中が冷静に指示を出すと、ダミ子は何かを考え込むように静止した。


「はっ?!いつのまにか私の総重量から27g減ってるデェ!これはミリナちゃんが履いてたパンツの重さと一致するデェ!」


「なるほど、落としたのか」


田中は頷いたものの、この展開にどうリアクションすべきか迷っていた。ジョニーが「クックック......」と不気味に笑い出すのが聞こえるが、今は一旦スルーすることにした。


ミリナは無表情で自分のスカートを手で押さえ、静かに佇んでいる。その姿に一瞬の間を置いた田中は、部屋の隅に設置されているジョークグッズ専用の自販機に向かった。


「.....紐パンツか」


淡々と操作し、小さな箱を受け取ると、それを無言でミリナに手渡す。


「これを履け」


「これ、ジョークグッズですね?田中さん、真面目に買ったんですか?」


「黙って履け」


田中の一言でミリナは納得したらしく、素直に箱を手に取る。だが、その瞬間、背後からジョニーの笑い声が再び響いた。


「クックック......ついに、時間稼ぎは終わりだ」


ジョニーの声はこれまでとは明らかに違い、不気味さを増している。


ジョニーは突然立ち上がると、その体が機械音を伴いながら変形を始めた。頭部の人工皮膚が剥がれ落ち、無骨な金属フレームが露出する。


その下には、何かが隠されていた。


「お前たち、随分と俺を笑い者にしてくれたな」


彼は静かに言葉を紡ぎながら、両側のこめかみ付近から銃口をせり出させた。


「俺の真の目的は、お前らを外に誘導し、マンションにある『田中一号システム』を奪うための陽動作戦だ」


田中はその言葉に眉をひそめる。


「田中一号システム.....お前たち、本気で狙っているのか?」


「然りだ!」


ジョニーは冷笑を浮かべながら続けた。


「もう今頃、別動隊がお前の部屋を強襲しているだろう。田中一号システムとタニシシステムー一両方を同時に手に入れることができれば、我々の計画は成功する」


その声には確信が込められていた。


ジョニーが人工皮膚を剥ぎ取り、露わにした頭部の機関銃。その銃口が静かに動き始め、緊張が部屋を支配した。


「さあ、終わりの始まりだ。もう別動隊が田中の部屋を襲っている。田中一号システムは我々の手中にあるも同然」


ジョニーが冷ややかに告げる中、JQ子が一歩前に進み出た。


「ヒャッハー!妾をなめるなよ!」


その声には自信が満ちている。田中もミリナも息を飲んだ。


「死ねや!」


ジョニーが銃口をJQ子に向けた瞬間、JQ子の身体が閃光のように動く。彼女の俊敏な動きにジョニーの銃弾は一発も命中しない。


「お前、ただの風俗ロボットじゃないな.......」


田中の呟きに応えるように、JQ子は微笑を浮かべる。


「田中殿、妾の性能を侮るでないぞ。妾はただの風俗ロボットではない!妾の素体は、かの有名な『ラビット太郎シリーズ』の流れを汲むものじゃ!」


「ラビット太郎シリーズ......スポーツ競技用ロボットか!?」


田中の声には驚きが混じる。


「そうじゃ。妾の肩関節は人間の構造を完全再現しておる。精密な可動域と、モーター制御による繊細な動きが可能なのじゃよ」


JQ子はジョニーの懐に滑り込み、拳を振り上げた。


「これが妾の自慢のフリッカージャブじゃ!」


その瞬間、ジョニーの側頭部に軽快な打撃音が響く。ジョニーはバランスを崩し、一歩後退した。


「フリッカージャブ.....そんな動きができるロボットが、こんな場末にいるなんて」


田中は驚きながらも、その動きに見惚れていた。JQ子の肩関節は、単なる機械のジョイントではない。滑らかで、まるで人間そのものだ。


「妾の肩関節は、精密なベアリングと動力伝達システムを搭載しておる。これで、どんな角度からでも正確な打撃を繰り出せるのじゃ」


「おいおい、肩関節で自慢か?そんなもので俺を倒せると思うな!」


ジョニーが怒声を上げ、頭部の銃口を再びJQ子に向けた。しかし、彼の動きは鈍い。


銃口をこちらに向けたいのか?ならばこうしてやろう!」


JQ子が間合いを詰め、鋭いアッパーを放つ。ジョニーの頭部が大きく揺れ、銃口が安定を失う。


「ふむ、やはり肩関節が粗悪じゃな。お前のような量産型では、妾の足元にも及ばぬわ!」


JQ子はさらにネリチャギでジョニーの頭部を叩きつけ、銃撃の狙いを完全に封じた。


「これが妾の精密な肩関節の力じゃ!スポーツ用ロボットの真髄を思い知るがよい!」


ジョニーはもはや防戦一方。


「これで終わりじゃ!」


JQ子がジョニーの背後に回り込み、その首をがっちりと掴んだ。


「くっ.....離せ、このクソロボット!」


ジョニーが必死に抵抗するが、JQ子の精密な肩関節が繰り出す力は圧倒的だった。


「妾の肩関節はただの飾りではない!精密さも、強靭さも、人間以上なのじゃ!」


JQ子はそのまま力を込め、ジョニーの首を引きちぎった。金属のきしむ音と共に、ジョニーの身体が力なく崩れ落ちる。


「ヒャッハー!妾の勝利じゃ!」


JQ子はジョニーの首を手に取り、高らかに掲げた。その動きには、堂々とした風格さえ漂っている。


「JQ子、お前......その肩関節、なんなんだよ......」


田中は呆然としながらJQ子を見つめた。


「田中殿、妾の肩関節はただの可動部ではない。


安の誇りであり、戦いの要じゃよ。まあ、ラビット太郎シリーズの遺産にしては、風俗ロボットに使うには勿体ないがな!」


JQ子はそのまま首を電子レンジに入れて回す。そして3分経過するとレンジのマイクロ波で沈黙したジョニーが出来上がった。


「ヒャッハー!元フランス外人部隊のレンジでチン焼きが出来上がったゾ!」とJQ子。その手にはサムライが戦果を誇示するように首が掲げられてた。


「.....お前、ただ者じゃなかったんだな」


JQ子は満面の笑みを浮かべ、肩を回して見せた。

「妾の肩関節をもっと褒めるがよい!」


その言葉に、田中も思わず笑みをこぼすのだった。


「よし、ミリナ。俺のマンションに一緒に戻るぞ。田中一号システムの安否を確認する」


「田中一号システムってなに?」とミリナ。


「妙子たんの若かりし頃を再現したロボットさ。ただ再現したのは外観だけで、主観的な意味で自我そのものは創発してないがな……」


田中は悲しそうに目を伏せて言葉を続ける。


「ただ今からマンションに向かうのは危険が伴う。だからダミ子とJQ子はここに残って貰っても構わない。それでもポロリと電話少年には通い続けるから安心して欲しい」


「ふへへ、水臭いデェすよ!乗りかかった船だデェ。一緒にいくデェす」

「妾もダッチワイフマフィアの強引な手口には納得がいかん。抗議の意味合いで妾もついてく」


「ありがとう、皆んな」と田中。


やがて4人は風雲!マーシー城から退出。

田中のマンションへと駆ける。

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