第13話「猫はしぶとい」
「黒札か……」
レオは訝しむように呟く。まるで怪しい宗教勧誘を受けた時のような顔である。
「おいおい、そんなにこれが気になるかい?」
ポンチョを着た男は首にぶら下げている黒札を手にとりレオに見せつけるように掲げる。
「元冒険者として興味はあるが……今は仕事優先だ」
レオはクレイモアと呼ばれる大剣を振り上げ体を弓なりにしながら斬りかかって来る。その一撃の威力と迫力は体を真っ二つにする思わせるほどだった。
「残念だ……無駄に傷つくことになる」
だが、この男は全く怯む様子もなく冷静だった。剣を頭の上に持ち上げ剣を垂らすように斜めに構える。
剣同士がぶつかり合う。だが、そこに剣と剣の力比べはなかった。レオの大剣は男の刀身に添って流水の如く地面に落ちていく。皮肉なことに大剣に込めた力がその勢いを後押ししていた。攻撃を受け流されたレオは恐らく一秒、二秒ほど無防備になったことだろう。たったそれだけの時間と思うかもしれない。だが、戦いと言うのは何日も、何時間も続くものではなく、一分一秒の刹那で決まるものなのだ。
「っ!」
男は攻撃を受け流し、無防備になった一瞬を突いて手刀を喰らわせた。剣による斬撃が来ると思っていたレオはさらに虚を突かれる。当てられた部位は鎖骨しかも剣を握っているの右手側。鎖骨は人体で折れやすい骨の一つで常人が殴れば簡単に折れてしまい、鎖骨の骨が折れると肩が変形し、激痛が走る。腕や肩を動せばそれは余計に強まりる。つまり、剣を振るうことはおろか握ることすらできなくなる。
「剣が……」
レオは痛みのあまり大剣を手放してしまう。カランカランと金属音を奏でて地面に落ちた剣を男は足で踏みつけて自身の背中の方へと蹴ってしまう。
「これでご自慢の剣術は機能しなくなったな」
男はレオの目と鼻の先に剣を突きつけいつでも殺せることをアピールする。
「クソがっ……」
レオは歯ぎしりする。この男は魔法一つ使わず剣術だけで制圧して見せた。その事実にレオはどうしようもないくらいに憤慨した。自身の弱さでこの強者との戦いを一瞬も楽しめなかった。全力の一端も見せてもらえなかった。自分の弱さが恨めしい。
「……まだ続けるつもりか?」
「当たり前だ。お前ほどの強者を相手にして諦めてたまるか!」
怒りと共にレオは左手で反対側の型を抑えて左右上下に捻る。すると、何と言うことか折れていた鎖骨がくっつき、肩が元に戻る。そして、大剣を失くしたレオは拳を構える。
「お前の全力、見させてもらうぞ!」
「はぁ……できるもんならやってみな」
男は剣を構える。レオは真っ直ぐ拳に回転をかけて殴りかかる。構えも攻撃も冒険者によくみられる喧嘩殺法そのままである。
「元冒険者だけあって殴り合いになれてるみたいだな」
残念なことにレオの一撃が届くことはなかった。男はそのパンチに合わせて手の平で拳を殴りかかってきた側の反対に押すことで勢いに乗せられ攻撃がそれてしまう。そして、一歩踏み出し拳を制した方の手でレオの顔面に裏拳を決め、同時に前に出していた右足を払い地面に転ばせる。
「グッ……」
「おら、寝てる暇はねぇぞ?」
更に追い打ちをかけるように男は地面に伏したレオに馬乗りとなりマウントを取る股でレオの肩を抑えて抵抗できないようにした状態で男は持っていた剣を首元に振り下ろしてとどめを刺す。
「……」
首をかき切られ声も上げずレオは絶命する。
「悪いな、敵には容赦しないことにしてるんだ」
そのまま立ち上がろうとした瞬間、
―――死んだレオの心臓に魔力が集まっているのを察知した。
「この魔力の流れ……まさか!」
これから起こるであろうことを理解した男はレオから急いで離れ距離を取る。
―――ドォォガァァン!!!!!
それと同時にレオの体は爆発四散した。爆風で男は吹き飛ばせそうになるのを耐える。最後の最期にレオと言う奴は自爆を選んだのだ。俺は才能や生まれ持った適正魔法属性関係なく誰もできる芸当だ。だが真似しようとはとても思わない。何せ自分が死ぬことを前提とした魔法なのだ。何かしら役に立つ場面は想像もしたくはないがあるにはあるだろう。だとしても、やりたくはない……そう思っていると爆炎の中から一つの人影が浮かび上がる。
「おいおい、マジかよ……」
男はそのもしかしたらを想像する。そして嫌なことに的中してしまう。
―――【
「さぁ、第二ラウンドと行こうか?」
レオは鋭くとがった歯をむき出しにして笑う。男はまだまだ戦いは始まったばかりなのだと理解した。
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