第7話「入学そして……」
ミルメコを殺害した後、俺は試験会場の森の外にある救護班が待機しているテントの前に瀕死の状態のミルメコを放置して試験の事故死を装う。実際たまにではあるが試験による事故死事態はないわけではない。それでも事件ではあるので調べられはするだろうが結局は戦闘による過失致死扱いで終わる。それくらいならばルカや俺が咎められることはないだろう俺たちは未成年、そして間違いなく組織によって事件はもみ消されるし最悪学園長に頼むという手もある。
考えをまとめながら俺は森の中を進んでルカ達の下に戻る。すると、二人は切株に腰かけて仲良く休憩していた。
「それでさ、その時チビ達がね――」
「うふふ、そうなんですの」
どうやら俺がいない短い時間で打ち解けあったらしい。原作主人公とヒロインのいちゃちゃに俺が混ざっていいのか……そんなん許されないだろ。
「あっ、ノットお帰り」
「……あぁ、ただいまどうやら仲良くなったみたいだな」
声をかけられてしまっては仕方がないので俺はこの輪の中に混ざることにした。
「うん。メアリーとは友達になれたよ」
おい、ルカてめぇ俺と同じ陰の者側だろうがなに女子と仲良くなってんだよ……
「すでに話を聞いてると思いますけどルカの友達のノウノットです。よろしく」
「はい、よろしくお願いしますわノットさん」
初対面だというのに笑顔で握手を求めるメアリー。さすが王女、人徳にあふれてやがる……
そんな時である。空からポンポンと炸裂音のようなものが響き渡る。俺たち三人が同時に空を見上げると空には魔法で作られた照明弾のようなものが打ち上げられていたのがわかる。そして同時に理解する。
「やっと二次試験が終わったな」
「みたいですね」
そう、二次試験の終了の合図だ。
「あー疲れた」
ルカの言う通り疲労のたまる時間でなんだか長いような短いような時間だったが確かにやり切ったのだ。俺とルカの最終ポイントは三百点。とりあえず及第点だろう。メアリーに話を聞くとすでに脱落しているが、貴族なのでそもそもが裏口入学に近い形になっていて試験結果はある程度無視できるそうだ。天使が君臨する封建社会らしい事情である。
「さて、ぼちぼち戻ろうか」
そう言って俺たちは森を抜けて学園の建物へ向かっていった。
―――☆―――☆―――
「受験生の皆さまご苦労様でした」
森を抜けて再び学園の中央広場で集まると試験の監督官らしき人が前に出てきてねぎらいの言葉をかけてくる。
「皆さんの頑張りはきちんと結果につながると信じて明日の合格発表に備えてよく休んでおいてください……では、解散とします」
そういって教員たちは校舎内へと去っていった。その様子にその場にいた全員が試験はひとまずの区切りを終えたのだと理解する。
「あールカが疲れた疲れた言ってるからこっちまで疲れてきた」
「えーなにそれ僕が悪いみたいじゃん!」
あくびをしながら冗談交じりに軽口を言うとルカはぷんすかと言い返す。頬を膨らませて怒る様子は可愛い女子みたいでおかしく笑ってしまった。
「ははっ、冗談冗談」
「もー」
ルカは納得いかないようにポカポカと俺の胸を痛くない程度に叩いてくる。
「でも疲れたのは本当だ。だから今日はもう帰って寝ることにする」
「うん、わかったまた明日ねノット合格してるといいね」
「俺たちなら大丈夫さ」
そう言って分かれた。さて……組織に顔出すか。
――☆―――☆―――
あの後、俺は組織のボスにミルメコの中から取り除いた魔神因子を渡してそのまま帰路につき。その翌日にルカと校門の前で集合して試験結果の掲示板を確認すると見事合格していたのである。そうして今日に至る。今日は入学式。花の入学式である。現在俺とルカ、そしてメアリーの三人は仲良く並んで正門を通り、入学式会場である体育館へと進む。
「晴れて三人仲良く入学出来ましたわね」
メアリーが感慨深そうにそう呟く。
「おいおい、まだ入学式だぜ思いをはせるには早すぎないか?」
「そうだよメアリーこれから思い出が増えるんだよ?」
俺たちが気が早いと返すとメアリーはだってだってと反論する。
「わたくしこうしてお友達と一緒に楽しく談笑するの初めてなのよ!」
「あー僕はそうかも友達と一緒に騒ぐの初めてかも」
「お前らマジか……」
今までどんな交友関係してきたんだよ……いや、俺も人のこと言えないか。でも同年代の友人の一人や二人俺にだって……もういねぇや。なんか思い出してくると泣けてくる。
「…………これから楽しむってことでいいだろ」
咄嗟にパンっと手を叩き話題を変える。辛気臭い話は明るい入学式には似つかわしくないだろう。だから、この話はここでお終い。
「……そうだね。そろそろ行こうか?」
ルカもその様子に気づいたのか笑顔を取り繕う。
「えぇ、楽しい学園生活が待っていますわ!」
対するメアリーは目を輝かせながら体育館へと一足先に向かっていく。
「待ってよメアリー早いって!」
ルカは迷子を心配してかその後を必死に追いかける。
「騒がしい入学式になりそうだ」
心の中で退屈に別れを告げながら俺もやれやれとその後ろを追いかける。
「え~、であるからして……」
「すぴーですわ……すぴーですわ……」
「ちょ、メアリー起きてってば寝たらまずいよ」
小さく寝息を漏らしながらメアリーはうつむきながら夢の世界へ旅立っていた。
「どんな寝息だよ、まったく……」
先ほど別れを告げたはずの退屈は速くも帰還を果たしてしまったようだ。
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