第11話「敵襲」

 イトハラが去ったと同時にルカとメアリーの二人が服屋から帰ってくた。

「おぉ、お帰り長かったな」

俺は何とか、表情を作りながら平静を装う。そもそも名前、身分、能力「ノウノット」を構成する要素全てからして偽りなのだ。今更一つくらい嘘が増えたってどうってことはないだろう。

「うん、色々買ってたら長くなっちゃったんだ」

「あんなにお安いお洋服は初めてでしたわ!」

二人の態度や声色から楽しそうなのが伝わってきた。どうやら、俺の嘘に騙されてくれたらしい。

「楽しそうでなにより……じゃあ買い物続けようか」

そう言って俺は二人の前を先行する。

「次はどこに行くんですの?」

「優先順位的に本じゃないかな?」

するとメアリーはきょとんとした顔をする。この脳肉お転婆姫さぁ……

「……学園の指定教材買うために決まってんだろ」

「あぁ、なるほどですの!確かに必要ですわね!」

メアリーの名誉のために言っておくとメアリーは馬鹿正直な所があるのでバカっぽいが別に勉学が出来ないわけじゃない。むしろそこらへんは勤勉な方である。結果が振るわないだけで……

「ほら、さっさと本買って昼飯にしようお腹減ってきた」

日の高さを見るとちょうど真上に立っていた。お昼である証拠である。

「そうですわね用事を済ませてから心置きなく食事をするべきですものね」

「う、うん。まぁ、わかるようなわからないような……」

そう言いながら俺は襲撃の話を頭に入れながらオケラ横丁にある王国最大の書店と称えられる『マーリン書林堂』へ向かうのだった。



―――☆―――☆―――



「いらっしゃい……」

書店の中に入ると立派な髭を蓄えた男が一人店番をしていた。ダボダボなローブに身を包み、見事な三角形を形作っているとんがり帽子を被っていた。

「ご用件は?」

「騎士学校の指定教材を買いにきました」

あらかじめこの書店のルールを知っていた俺は指定された教科書が書かれている一覧表の紙を渡す。すると、店主は小じわだらけの細い指でつまむようにその紙を受け取るとコクコクと頷く。

「話の分かるもんは好きじゃ。それが若者であればなおさらの……」

そう言って店主は座っていたカウンターのテーブルを右手でコンコンとリズムよく叩く。すると、ガタガタと奥の本棚に収められていた本たちが餌を知らせる呼び鈴を聞いた犬のように店主の下へと飛んでくる。飛んできた本たちは整列するよう自らカウンターに並べられ積み上がる。

「さて、代金は本来ならば銀貨三枚と言ったところじゃが、学生割引で半額の銀貨二枚と銅貨と白銅貨それぞれ三枚どうじゃ?」

そろばんを叩きながら店主は代金を告げる。実のところ悪くない代金だ。こうゆう学問書的な本はそれなりの値が張ることもある。一年生だから教科書がそこまで希少でもないのもあるだろうが、二万弱で買えるほど安くはない。

「みんなそれで文句ない?あるなら値段交渉になるけど?」

「いいよ、そこまでしなくても何とか出せるくらいだから」

「そうですわ。ただでさえお安いというのにこれ以上はこっちが申し訳なくなってしまいますわ」

どうやら、二人とも不満は無いようである。元から金持ってるメアリーの意見は気にしない。ただ孤児院出身のルカがそれだけのお金があるかというのは不安だったが杞憂で終わりそうである。

「じゃあ、その値段でおねがいします」

「あいよ、毎度あり」



―――☆―――☆―――



「無事買えてよかったね」

「あぁ、予想より安く済んだ」

書店を出た俺たちは通りをブラブラと進んでいく。もう目的は果たした。後は帰宅するだけなのだが先ほどの刺客の話が頭から離れない……確か話通りなら相手はレオだったか、『レオ』デスモデスファミリーの大幹部にして戦闘狂。大剣クレイモア使いでかなりの腕を持つ。そして能力的にも性格的にも真っ直ぐなので絡め手は心配しなくてもいいはずだ。

「ノット、あの集団はなんなのですの?とてもお顔が暗いですわよ?」

メアリーの視線の先はとぼとぼと歩く集団だった。その集団はこの世の終わりのような顔をして群がって歩いていた。おそらく競馬か闇カジノで全額すった連中が買った連中を見たくからわざわざここを通っているのだろう。ここオケラ横丁の裏名物であり、名前の由来である

「ん?あぁ、あれは……」

そこで俺はある可能性に思い至る。レオだけではないという可能性に……

「まさか!」

そう思いオケラになった連中の一人がこちらを向いたことに気づいた時には遅かった。俺の周りは紫色の霧に覆われまさしく五里霧中となってしまった。

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