第12話「全力解放」

 ―――しくじった


最初に思ったのはそんな反省と後悔の念だった。イトハラの告発を半信半疑の曖昧な状態で煮え切らない判断を下し、仮に敵が来てもすぐに対処できるだろうと高を括っていた。そしてレオが来るというのだから正面から来るという思い込みもいけなかった。レオ以外の独断専行もあり得る話だ。そもそも売人として接触していた俺を殺そうとするのだそれなりの戦力で迎え撃とうとするだろう。

「鈍りすぎだ」

俺はその一言で駆け回る思考をストップする。いくら青春を楽しからって浮かれ過ぎていた。ただそれだけ、それ以上でも以下でもない。冷静に……まずは、仲間の安全を知ることからだ。

「ルカ、メアリー大丈夫か?」

そう声をかけるが答えは返ってこない。

「……霧にやられたな」

先ほどから辺りに充満している紫色の霧。恐らくただの煙幕ではない。何らかの効果を持った魔法によって生成されたものだ。気絶か、五感を狂わせるか、はたまた衰弱か、いずれにしろ碌な効果じゃないことは確かだった。俺自身は全身を魔力の鎧で覆うことでガスマスク代わりにして霧の魔法による効果を防止している状態だ。

「……」

少し考えて進むことにした。魔力感知もジャミングされている状況では五感だけが頼りだ。うかつに進めば敵の攻撃にやられるかもしれないが何もせず待機するよりはいいだろう。

「ここどこですのー!お母さま~!」

「どこにいるのシスター……」

すると、七時方向から少し声がした。その方向へ音だけを頼りに進む。すると、二人の姿がはっきりと視認すると同時に先ほどの声に感じた違和感の正体を見た。

「お兄ちゃん誰……?」

「誰ですの!かかってこいですわ!」

そこにいたのは六歳くらいの少女二人だった。よれよれのサイズが明らか合わないであろう服を着ていて片方は金色の髪、片方は紫色の髪……間違いなくルカとメアリーの二人だった。二人の様子で一瞬で理解したこの魔法の正体に……


―――殺気!


「っ!」

背後からの攻撃を腰に帯刀していた剣を抜くことで防御する。騎士学校生徒の特権があって助かった。

「防ぐか……ただの売人と子供だと思っていたんだがな」

攻撃の後一歩下がりV字型の鍔の先端にクローバーが付いた両手用の大剣を肩に担ぐ黒髪に金色の目……間違いなくデスモデスファミリー幹部レオ本人だった。

「レオ君、君がこんなことするとはね……正直以外だよ」

「蛇、俺だってこんなことしたかぁねぇよでも確実性のために仕方なく従ってんだよ……こいつの性格の悪さを信じてな」

レオの背後、霧の中をかき分けて別の人物が入ってきた。その男はブチメガネと白衣が特徴的な男だった。見た目からして三十代、髪はぼさぼさで如何にもな根暗な空気を纏った奴だ。

「いーひっひっひ!見事に引っかかってくれましたぁね?」

耳に不快な笑い声をあげながら男は眼鏡をクイッと上げながら意地の悪い笑みを浮かべる。

「この若返りの霧はお前の魔法か?」

「そうですそうです。よくわかりましたね?猿よりは賢いですね?」

正直うざいから嫌いだが情報は筋力以上に戦いに役立つものだ。だから、調子に乗らせて軽そうな口でしゃべらせる。

「そう、僕の『霧魔法』は魔法で作られた霧の匂いを嗅いだ人物を若返らせるのさ、魔力が多い程若返りは遅くなるけど……記憶も若返った時になくなるから無駄な抵抗さ」

つまり、こいつの魔法は視界と魔力探知を使えないようにして敵を幼い状態まで若返らせて楽に勝つ。そう言う魔法だ……シンプルに初見殺しすぎる。だが、知りたいことは知れた。

「そうかい……」

相槌を打ちながら俺は二人を見つめる。突然の状況に何が何やらと言った様子で怯えている。無理もない身も心も六歳児なのだ怯えるのが正常な反応だ。だからこそ、余計に自覚する。俺の浅はかさでこいつらを危険に追いやってしまった。だからケジメを取るために……


―――俺は変身魔法を解除した。


『ノウノット』と言う架空の人物はただ名前変えただけで俺を幼くしただけである。中身は五十代のオッサンだ。だが、変身魔法で変身した姿かたちだけでなく、能力、匂い、血液型まで再現できるのだ。思考もある程度引っ張られることもある。つまりは今の俺は弱体化している状態なのだ。本来の実力はまるで発揮できていない。だから全力のためにあえて解除した。ついてで変身魔法で来ている服を船長用に変えておこう素材さえあれば多少は変化できる。ただ、一緒に霧の匂いも吸ってしまったので少し若返えるだろうが問題ない。ルカやメアリーが十歳ほど若返っているところから少なくとも子供になることはないだろう。



―――☆―――☆―――



「奴はどこに消えた…‥!?」

「どこに消えたって無駄だよ、僕の魔法は無敵なんだ……」

霧の奥へ消えていった蛇ことノウノットをレオと白衣の男は探していた。奴は突然若返った連れ二人を抱えてどこかへ飛んでいったかと思うと消えていった。この霧は結界の役目も果たしている。だから、逃げようとしても霧を発生させた白衣の男が死なない限りここから脱出するのは不可能だ。だから、ゆっくりさがせばいい。幸いこちらが若返ることはによう霧の設定をいじっている。

「フッフッフ!僕に恐怖すればい――」


【二閃】


白衣の男が最期まで言い切ることは無かった。前方から飛んできた白い斬撃に首を掻っ切られて絶命させられたのだ。

「なっ!?」

またもや驚きを隠せなかったレオだが自分の方にも斬撃が飛んできたがそれを防いで見せた。

「蛇の攻撃か?」

「ヘビ?誰だそいつ?」

レオが横を向くとフードの付いたポンチョを着た男がいて、剣を振りかぶっていた。


―――ガンッ!


重たい金属音通しがぶつかり合う。


【零閃】


すると男は鍔迫り合いとなった瞬間にゼロ距離で斬撃をこちらに放ってきた。その衝撃でレオは後退してしまう。

「お前何者だ!」

「俺?俺はただの通りすがりの冒険者さ」

そう言って男は首に下げている黒い札を見せる。

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