第2話「出会い」
――――気が付けば、地獄にいた。
体はうつ伏せになっていて直前の記憶は父さんの『逃げろ!』の一言。顔を上げればあれほど見慣れた村はボロボロになっていて廃村のようになっていた。その様子にまるで自分だけがこの世界に取り残されたような感覚を覚える。
「グルルァ……」
ふと、唸る声のようなものが聞こえた。それは魔物の唸り声だ。こちらを食すべきごちそうであると認識している死神がそこにあった。僕はそれに気づきどうにか逃げようとする……だけど、逃げられなかった。足が家だったものの残骸の下敷きになっていて動けなかった。幸い足の感覚は残っているので潰れてはいないみたいだった。それでも、この状況をどうにかするほどの希望ではなかった。
―――嗚呼、死ぬ。
怖いという感情はなかった。ただ自分はここで終わるんだと機械的にそう思った。死にたいとも思うだけの理由はないけれど、さりとて生きる理由もない。そんな駄々をこねる子供のような理屈で今僕は抗うことをやめてしまっている。たぶん、疲れたんだと思う色々と言い訳して死に抗うのに……。
もういいや、そう思って目を瞑ったその時――――
「クギャ!」
魔物が短い悲鳴が鳴り響く。
「?」
その声がしてから一切魔物が襲い掛かってこないことに疑問を覚えた僕は目を開ける。
そこには男の人が立っていた。手には片刃の剣を握っていてフードで顔は見えなかった。その人の足元には先ほどの魔物だったものが転がっていた。考えるまでも無くこの人が倒したんだとわかった。
「平気か?」
僕はうなずくことで肯定する。
「そうかよかった……すぐに助け出してやる」
そういうや否や、その人は僕の足が下敷きになっているガレキをどかして僕を抱え上げた。無理をして助けなくてもいいのにここで死んだ方が苦しまなくて済むのに……
「……子供がそんな顔をするもんじゃない」
僕の顔を見た後何か悟ったように語り掛けてくる。
「いいかい少年、君は生き残った。――――なら、戦うんだ喪失を要求する世界に『幸せだった』そう言える大人になりなさい」
言葉の意味を完全には理解できなかった。でも、僕の中で何かが変わるのがわかった。死にたい理由ならいくらでもある。でも、それを覆す一つがここにあるんだ。だったら生きたい僕はそう願いながら疲労からくる睡魔に身を委ねた。
―――☆―――☆―――
チュンチュンといった春の鳥のさえずりを目覚ましに僕は重い体を起こし鉛のように思い頭を動かして先ほどの懐かしい夢について思い出す。あれは10年前の出来事だ。僕の故郷が魔物に襲撃によってなくなってパパとママが死んだ日、そしてあの人に出会った日でもある。あのあと僕はあの人に教会が運営する孤児院に連れて行かれそこで暮らしているでもその生活も今日で終わりだろう。
「ルカ!いつまで寝てるんだいさっさと起きな今日は大事な日なんだろ!?」
外で怒鳴るような声が聞こえてくる。教会のシスターの声である。
「いけない、早くしなきゃ」
感傷に浸るのをやめて慌ててルカは寝間着からワイシャツにスラックスを着てそこからネクタイそして青のブレザーを着る。着替えを済ませるとルカは二階から転がるように降りてくる。
「よし、大丈夫そうだね」
シスターはルカの頭の天辺から足の爪先までジロジロと観察したあと納得したように頷く。
「今日のために身だしなみをちゃんと整えてきたからね!」
「全く女っ気がないくせに用意言うよ」
シスターは呆れたようにため息をついたあと、顔を上げて庭の方を指さす。
「あれが学園まで運んでくれる馬車だよそれとあんたの朝飯だよ馬車の中でお食べ」
ルカが朝食の入った籠を受け取りながらシスターが指し示す先を見ると馬が待ちくたびれたようにいなないていた。そうルカは今日学校に行くのだ。ただの学校ではないブランク王国を守る騎士を養成する学校、騎士学校なのだ。国中から魔法が使える子どもを集め、選別し、育成する。その学校に通えること、卒業できることが平民にとっては最大の名誉と言われている。
「うん、わかった。行ってくるねシスター」
「あぁ、言っておいでルカ」
多くは語らない。今生の別れでもないのだから多く別れの言葉を交わせばそれだけ名残惜しくなってしまうだけだ。
馬車がゴロゴロと揺れながら車輪を転がしていると急に停止した。先ほどもらった朝食を食べ終えたルカはなんだろうかと思っていると
「あんちゃん、目的地についたよ」
御者が運転席から顔を出してそう言った。どうやらついたから降りてほしいらしい。
「えっ、ありがとうございます」
思ったよりも早い時間でついたのでルカは慌てて馬車から降りようとするが―――
「ギャン!!」
慌てすぎて転んでしまう。学園生活がこれから3年間待っているというのにさい先がこんなで大丈夫なのだろうか。自問自答をしていると……
「大丈夫?これ落としたよ」
差し伸べる男の手が一つ。学園の制服を着ていることから自分と同じ受験者なのだろう。彼の反対の手には自分の受験票が握られていた。
「えっ……あ、ありだとうごさいます」
その手をつかんで立ち上がり受験票を受け取る。
「……どうしたの?どこか悪いの?」
「えっ、あっ、いえ、ダイジョブデス」
大丈夫とは言うもののルカは困惑を隠しきれていなかった。
(あれ、彼何処かで……)
第六感、直感、勘、それら論理ではなく感覚による判断の多くは自身の経験、記憶からもたらされる結果であるとされる。つまりはルカの本能は彼を知っていると訴えているのだ。
―――そして、その感覚は間違いなかった。
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