第9話「ショッピング」

 ふかふかのベットとは抗いがたい欲求である。なぜ、こんなにもベットでゴロゴロするのは心地よいものなのか……。作った奴は反省して欲しい逆に、こんな質のいい睡眠したのはいつ以来であろうか?きっと、両手で数えても足りないくらいである。だからこそ、俺は惰眠を貪るというこの世で三番目には有意義なことをしている。マジ最高最近のストレスが全部消し飛びそう。

「ノット?いる?入るよ?」

そんな俺の睡眠を邪魔しようとする愚者が一人。だが、残念ながらそうは問屋が卸さない。

「あれ、開かない?おかしいなマスターキー寮長に借りたんだけど……」

ははは!多分声と魔力の波長からルカなのだろうが残念だったな!つっかえ棒してるから開けられないようになってるんだよ!普段ならイベントに喜んで参加するところだが生憎今日の俺はだらける日と決めた日なのだ!さあ、帰った帰った!

「どうしよう困ったな……」

「お退きなさい。私がやりますわ」

ん?待て、今……怪力おてんば姫メアリーの声が……

「どっせいー!ですわー!」

「ちょ、おまっ!」

気合の入った掛け声と共に俺の寮の扉はメアリーの一撃で粉々にされてしまった。どんな力で蹴破ったんだよ……あーあおれ知らねぇ

「起きなさいノット!それでも騎士の卵ですの!?」

「えーまだ日が高いだろ」

「もうお昼前だけど……」

そう言われ、部屋の窓から町の中心にある大聖堂の時計を見ると午前十時となっていた。なるほど、つまり俺は半日くらいは寝てたわけか。

「まぁ、いいですわ。速く私たちと一緒に来てもらいますわ」

「オーケー、わかったあとでゆっくり聞いてやるから」

そう言いながら俺はベットの毛布を掛け直す。

「……今日は寝かせてくれ」

そう言って瞼を重くつむってまた夢の国のネズミに合わんと意識を手放――

「いい加減にしなさいですわー!!」

今度は毛布ごと引っ張られ地面に投げられた。俺は毛布を手放して三点着地をして受け身を取る。これかっこいいけど膝に悪いんだよね……

「そう言われて何回目ですの!??」

「そうだよ。いつになったら買い物に付き合ってくれるのさ?」

記憶を頼りに俺は指を折って数える。

「大体、七回くらいかな?」

「あってるのが腹立ちますわ」

入学式の後、プチ春休みとなり来月から本格的に学校が始まるらしく。それまでの間学生たちは町に繰り出し、寮の自室で足りない物を買いたしたり、はたまた遊びにいったり、各々、青春染みたイベントをこなしているのだろう。正直羨ましく思う。だが入学試験でわかった……他人と関わるって結構気を使うということだ!久方過ぎて忘れていた。他人と親しくするということはそれだけ関り会うということつまりそれだけエネルギーを使うということだ。俺どうやって友人と付き合ってたんだろう。前世の記憶陰キャ根性がノイズ過ぎるって……

「……確かに悪いことしたよ。ちょっと待ってろ今着替えてくる」

何を弱気になっているんだ俺。誓っただろ?青春するって。だったら行こう!友達とショッピング!

「ようやくやる気を出しましたわね」

「じゃあ外で待ってるから」

二人はため息をつきながら部屋の外の廊下へと戻っていった。我ながらいい友人を持ったものである……友人でいていいのだろうか?いや、今はただの友人でいさせてもらおう。

「そういや、扉どうすんのこれ?」

「「あっ」」

その後、メアリーは寮長に足がつるまで正座で説教されたのは別の話。



―――☆―――☆―――



「やっとついた!」

ルカは馬車から降りてはしゃぎながら広い市場を見渡す。その様は我々の生きる世界でいうショッピングモールのような賑わいようであった。

「お、おまちくださいな……」

メアリーは連れてきたメイドに肩を借りながらなんとか歩いている。実際足の筋肉がまだ痛むようである。

「もう、早くしてよ」

「ルカこそはしゃぎすぎだ。そんなに楽しみだったのか?」

「うん、だって自由に市場を散策できなかったんだもん!」

ルカの眩しい笑顔を見ながら俺はなるほどと心の中で一人ごちる。ルカは孤児院育ちだ。それゆえに個人の時間があまりなかったのだろう。それに仮にあったとしてもここに来てほしくはないだろう。ここはオケラ横丁。名前の由来は有り金を全部溶かした野郎どもがとぼとぼとここを通るからである。この横丁の南側には競馬場があり、その近くには組織が運営する裏カジノが存在するのだ。無論違法であるが、相手は国家権力に歯向かえる組織だ。そうそうに潰れはしない。


そしてその裏カジノがある場所はオケラ横丁の横、ケンゼン横丁に立っている。名前は完全にふざけているがこれは健全な場所でありますようにと願われてつけられたらしいが完全に皮肉である。そもそも違法な闇市と化してるし、元々風俗店が並ぶ地区なのだ。完全に冗談としか思えない。

「ノット!何考えごとしてますの?早く行きましょ!」

足を引きずりながらメアリーはルカと一緒にずんずん進んでいく。まぁ、そんなことは今日は忘れて買い物に行こう。別に原作ではここでなんて何もなかったはずだしな……


――この時、ノットは知らなかった。原作にはない戦いが待っていることを……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る