第8話「敵組織」

 一人の男が屋敷の中を進む。男の髪は炭のように真っ黒でその目は鋭く肉食獣を連想させる風貌だった。しかし、その様子はどこか気だるげだった。とある扉の前に立つと男はだるそうにその扉を開ける。

「遅いぞレオ。組織の幹部としての自覚はあるのか?」

扉を開けると開口一番で燕尾服の男にそう言われる。部屋には円形のテーブルが置かれており、その周りを囲うようにイスが並べられていた。

「悪かったよ。迷ってたんだ良いだろ別に……」

レオと呼ばれた男は頭をかいて少し申し訳なさそうにする。

「いいわけがないだろう。我々の組織の行き先を決める大事な話し合いなのだぞ」

しかし、なおも食って掛かる燕尾服の男は肩のマントを翻らせて席を立ち、レオの方へと回り込み指を突き立てて声を荒げる。

「だいたい吾輩は貴様のことを幹部とは一切認めていない!」

「あぁ、そうかい。だったらわかりやすい形で決めようぜエジピウスさんよ?」

レオは少し上機嫌になりながら背中に背負っていた一メートルほどの大剣を抜く。

「貴公はいつもそうだ何の誇りもないまるで獣。ならば狩りと行こうではないか」

そう言いながらエジピウスは腰のレイピアを抜いて腰を落として戦いの構えを取る。睨み合う様子は一色触発の修羅場となり、戦いの火ぶたは――

「自分らそこまでにせえ」

切られることは無かった。二人の間に割って入ったのは糸目の和服の男だった。

「何の真似だイトハラ」

「ここで喧嘩する為に集まったわけちゃうやろワイらは……喧嘩するにしてもそら会議が終わってからにしてくれや」

レオは不承不承ながらに剣を納刀して戦う意思はないことを示す。それを見てエジピウスもレイピアを腰にしまう、そして二人とも席に着く。

「ちゅうわけで、静かになったから話始めてええでボス」

二人が驚きながらイトハラが話しかけた方向を見るとそこには一人の男が立っていた。

「あぁ、ご苦労であったなトウイチ」

ボスと呼ばれた男デスモデスは櫛で髪をオールバックに整えながら不遜な態度で応える。

「今回我がデスモデスファミリー幹部に集まってもらったのはほかでもない……蛇についてだ」

『蛇』……それは裏社会を牛耳る組織デスモデスファミリーと取引をしている売人のことである。彼、デスモデスは十年ほど前まではただのチンピラに過ぎなかった。それ以前はとある秘密結社の幹部をしていたがある英雄一人の手によって滅ぼされ、それ以降無職だったところを蛇と出会い、こうして巨大組織を立ち上げるまでに至っているのである。そんな、組織と懇意にしている商人についての話。それも幹部三人を集めての話し合い……明らかに大事なのは間違いなかった。

「蛇殿の身に何かあったのか?」

エジピウスは最初に蛇が大怪我か病気に伏したのかを疑った。何せ蛇は組織の金庫番にしてボスのご意見番。彼がいなくなるだけで組織は少からず影響が出るのだ。

「いや、そうではない」

しかし、今回は違ったようである。その事実にエジピウスはほっと胸を撫でおろした。

「じゃあ何だわざわざ会議が嫌いな俺すら呼びつけて……蛇の野郎をぶっ殺す計画でも立てるのか?」

レオが冗談交じりにそういうとボスは肩を大きく震わせて沈黙する。その様子にその場にいた全員が察する。

「……マジで言ってんのかよ」

ボスは無言で頷く。

「なぜです?彼は組織に多大な貢献をしています下手に殺せば組織の不利益につながりかねない」

「だからこそだ」

ボスはそう言って話始めた。

「蛇……あいつは組織にとって有益だ。有益すぎるのだ都合が良い程に…‥」

「都合がえぇ?」

「そうだ。あいつはファミリーの旗揚げからずっといた。今の今まで奴はずっと私欲らしい私欲を見せてこなかった。金さえ払えば金だろうと薬だろうと武器だろうと売ってくれた闇の商人として最低限と言ってもいい……」

「……だが、最近になって奴は『欲』を見せ始めた。あいつはいきなり騎士学校に侵入すると言い出し適当な奴を一人貸して欲しいと言われた。結果として貸したそいつは死に……俺が強くなる結果となった」

デスモドスは思い出す。『実験のために使い捨ての駒が欲しい』と言われ一人適当な雑魚を貸したことにした。そしてそいつは死んだ。それだけならば自分はここまで警戒することなど何もなかった。その後、蛇はガラス瓶の中に黒い霧のようなもの片手にこう言ってきた


―――死んだミルメコから力を抜き取った。こいつを取りこめば君はもっと強くなる。


最初は半身半疑だった。しかし、言われるがままその霧のような物質を取り込むと自分の魔力が少しだけ上がっているのがすぐにわかった。


―――成功だな。次はもっと別の奴を殺そうそうすればもっと強くなれる。


「確かに俺は奴の言う通り強くなるのかもしれない。だが、そうなったら俺の部下たちは死んでいく。人員が減るということだ。それだけならばまだ何とかなる。俺が危惧するのはその後だ。俺を強くした後あいつは何を求めている?それがわからないのだ」

デスモドスは部下たちそそう語る。そして本題に入る。

「だから今のうちに蛇を殺害する。多少の損害など気にする必要はない」

そうして、蛇ことノウノットの殺害計画が裏で進んでいるのであった。

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