第5話「ヒロピン」
森の中を駆ける。少し昔を思い出して懐かしい気分になりながら冒険者として鍛えた勘で魔物を探していく。
「ルカ、こっちだ」
俺はルカに手を振ってこっちに来るよう伝える。俺たちは現在草むらに隠れて息をひそめていた。ルカはこちらを信用しているのかすぐに隣に来る。そして、すぐに草むらから俺の方を向く。そこには魔物が釣り餌をむしゃむしゃと食べていた。
「よし、仕掛けるぞ!」
「うん、わかった」
ルカは学園から支給されたロングソードを、俺はショートソードを抜いて草むらから背中を向けている魔物に斬りかかる。
「このっ!すばしっこい!?」
ルカは剣を振るうが攻撃は一向に当たらない。
「キキキッ!」
犬のような体毛に覆われ顔は猿のようで子供ほどの大きさの魔物『コボルト』が敵を嘲笑うようにケラケラ笑っている。今回の試験に使われている魔物はコボルトは魔物の中でも最弱の部類に位置するゴブリン種の魔物で冒険者になった奴は大抵こいつを一回は倒したことがあると言われるくらいに弱いのだが、いかんせんすばしっこい。格上と判断されるとすぐに逃げるしそもそも草食なので外敵と戦わない。せいぜいが畑泥棒するくらいである。それでも毎年農家は被害を受けているので討伐のニーズは常にあるという特殊な魔物である。
「キッキ……キッ!?」
だが、最弱の魔物と呼ばれるだけあって対策も容易である。この魔物食いしん坊が過ぎるのだ。野生の木の実や麦などが好物のコボルトは目の前にそれらを並べられうとたまらず敵がいることも忘れて食べ物を優先してしまう……よって
「はい、いっちょ上がり」
木の実に食いつきにいったコボルトを俺は背中から切りつける。
「ギャ!」
コボルトは短い悲鳴を上げて絶命した。首に下げていたチョーカー型の魔道具を見ると二百五十点となっていた。先ほどのコボルト含めて五体倒したので魔物一体五十点のところをチーム申請によって俺とルカで点を山分けとなり魔物一体二十五点となっているから……計算はあっているようだ。
「ふぅ……やっと五体だね」
ルカは一休みを取ろうと少し開けたこの場所に座り込む。俺もそれに同意し地面に腰かける。
「そうだな。点数はかなり稼いだがまだ不安だな」
別に一位を取ろうと思っているわけではないのだが合格できないのはそれはそれで困るのだ。学園に入学できなければ計画を変更するだけで済む。だが【ナイトクエスト】というゲームはルカが学園に入ることでストーリーが進んでいいたのだから原作が粉々になったこの世界ではせめてルカには青春生活を送って欲しいし……できれば俺もその青春イベントに混ざりたい。よってこの受験で手抜きは許されない。だから現状、俺が変身魔法を解除して全力を出さない範囲で出来ることをしなければならない。
「……今誰かの声がしたような?」
「ん?俺には聞こえなかったけど」
ルカがそんなことを言ってきたので思考を中断して辺りの音に耳を傾けるが何も聞こえなかった。いや、待てまさか……
「……もしかしたらがあるかもしれない。ルカその音がした方向ってどっちだ?」
「えっと確か……」
―――キャァァ!誰かぁ!
「!?」
「……今度はこの役立たずの耳にも届いたぞ」
女性の高い声の悲鳴が聞こえ、俺とルカは一瞬顔を合わせ急いでその声の主の元まで走っていった。
この場に『聞かなかったことにしよう。どうせ他の受験生が落ちただけだ』と判断する者はいなかった。例え敵でもライバルを増やすだけの行為だとしても誰かが困っているのなら助ける。それがこいつらという
―――☆―――☆―――
「ぐへへ、姉ちゃん良い胸をお持ちですね?」
「い、いや……」
森の奥……舌の長い男が一人女性に迫っていた。女性は首に下げている魔道具が割れており体のあちこちが傷だらけで見るからに疲弊していることが見て取れる。そして男性の方は長い舌をうねらせながらギラギラとした欲望の眼差しを向けながらベルトに手を当てていた。
「だ、誰か!助けてー!」
女性は必死に助けを呼ぶがその声は虚しく森に響くだけだった。
「無駄だよ!救助用の奴らは俺が買収してるから誰も助けに来ねぇよ!」
そう言って男が女性に覆いかぶさろうとした時……
「何やってんだこの馬鹿!」
横から飛んできた人影が蹴りを飛ばした。それも男の陰茎にである。
「ぐっぁ……いぁぁぁ……」
たまらず吹っ飛び股を抑えて悶絶する舌の長い男。それを冷ややかな目で見ている金的の元凶ノット。
「君、大丈夫?」
「えぇ、ありがとうございます……」
ルカはボロボロの女性に駆け寄り上着をかけてやると女性は現状の理解が追いついたのかほっとした表情を浮かべる。
あっっぶね!危うくヒロインがヤられそうになってたわ。まずいですよ!原作ファンと処女厨が騒ぎ立てかねない!……防げたから良しとしよう。何を隠そうこの女性こそが【ナイトクエスト】のヒロイン『メアリー=ブランク』である。ブランクの姓を持つ人物は総じて高位の貴族【侯爵】以上のロイヤル・ファミリーにしか持つことが許されない名字である。つまりはこの蟻以下野郎は歩く国際問題を働こうとしていたのである。まじでこいつさぁ!ルカを消せって命じたけど!けど!誰が国を敵に回せって言ったよ!
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