第6話「私情と計画」
僕とノットは襲われそうになっていた少女を後ろにかばいながら剣を構えて舌の長い男と向き合う。
「くそぉ、私のお楽しみを邪魔しやがってぐちゃぐちゃにしてやるよ!ガキども!」
「こいつ!!」
舌の長い男は怒りをあらわにするように最低な言葉を口にする。僕は自然と顔をしかめる。そして悪に対する怒りがふつふつとわいてくるのがわかった。
「ルカ」
ノットの一言に僕は振り返る。きっと大人びている彼のことだから落ち着けとかそんな言葉を投げかけてくれる……
「……」
僕は彼の顔を見た瞬間にその考えを改めた。表情は笑ってこそいたけど目は冬の川みたいに冷く明らかに笑っていなかった。僕は驚いて何も言えなかった。
「外道に情けはいらないな?」
それは確認のようであった。この悪党を一緒に倒してくれるか?そんなことを口外に言われているように感じた。
「ノット……」
男である彼は同じ女性である僕以上に怒ってくれている。そこに彼の優しさを感じてどこか嬉しい気持ちになっていた。
「うんそうだねこいつだけは許しちゃダメだ」
同じ女性として襲われた彼女の分まで一緒にこの舌男を懲らしめなくちゃいけないと僕は誓った。
「何を偉そうに!」
舌男はその舌を鞭のようにしなわせ槍を突くように真っ直ぐ飛ばしてきた。
「……俺が敵を引き付けるからルカは攻撃しろ」
普段より一段低いトーンで彼はそう言う。そして宣言通りノットは飛んできた舌をショートソードで弾いて前線に立つ。
「なっ!?馬鹿な私の舌を!」
「この程度で動揺してんじゃねぇよ」
【
ノットはすかさず剣を振り斬撃を飛ばす。それを男は自慢の舌で同じように弾く。
「この程度の攻撃が通じませんよ」
「あっそう」
ノットは興味がなさそうに答える。先ほどから舌男とノットの戦いは舌男の方が手数が多く優性に見える。しかし、実際は全ての攻撃をノットに防がれジリ貧になっているのが現状であった。
「先ほどから防戦一方ですね体力がいつまで続くかな?」
「……」
舌男の言葉に返答するのが面倒になったのかノットは無言で攻撃を防いでいる。対して僕は剣に魔力を込めて全力の一撃にすべてを賭けようとしていた。僕の魔法はシスター曰く珍しいらしく、使えば強力な武器になるという。だけどその珍しさが関係しているのか制御が難しい。だから魔法を使うのに時間がかかる。だからこうしてノットが時間を稼いでくれるのだ……あれ?そういえば僕はノットに魔法のこと話してないけどどうして知ってるんだろう?……いや、それは今考えることじゃない。今は勝つことだけ考えよう。
「……そろそろか?」
ノットは光る剣を眺めながらそう呟く。僕は無言で頷く。僕が頷くと同時にノットは僕の後ろに飛んでいった。
「何を……」
舌男が何か言う前に僕は全力一撃をぶちかます。
【
光る魔力の塊を剣の突きによって方向性を持たせ舌男に対して飛ばす。その威力は直接ぶつかればひとたまりもないだろう。流石に死なない程度に手加減しているから大丈夫だと信じたい。
黄色い閃光の嵐があさまるとそこには巨大な破壊痕が残されていた。森の木々たちは途中で穴が開いていて、地面は扇型を逆さまにしたような形でえぐれていた。我ながら恐ろしい威力である……本当に死んでないよね?さすがに殺すつまりはなかったよ?
「安心しろルカ。あのクズはここにいる」
ノットは片手に舌男の胸倉を掴みながらそう伝える。どうやらあの攻撃で死ぬ前に助け出してくれたらしい。
「さすがに殺すわけにはいかんしな」
その言葉に僕も同意する。いくら悪いことしたって死ぬほどじゃない。
―――☆―――☆―――☆―――
俺は主人公ルカの最初の難敵を用意する為に組織のボスに頼んだことはただ一つ『実験のために使い捨ての駒が欲しい』である。そうして舌の長い男ミルメコだったかが派遣されてきたのだ。
―――『ミルメコはクズで雑魚だが命令には忠実』
組織のボスからそう聞いていたから俺もその言葉を鵜呑みにしてこいつに『受験生に紛れてルカという名前の受験生を襲撃しろ殺しても構わない』と一つ命令を下した。ところがどうだ?こいつがしたことと言えば、救助隊を買収して二次試験に脱落した人たちが安全に森を抜けることが出来なくなったことと、ヒロイン凌辱しようとしてただけである。これのどこが『命令に忠実』なんだ?なぁ?ミルメコ?
「くそぉ、俺のお楽しみを邪魔しやがってぐちゃぐちゃにしてやるよ!ガキども!」
「こいつ!!」
「…………」
わかった。理解できた。もういい。こいつにはさっさと退場願おう。もともとクズだとは理解できていたがここまで腹が立つとは思わなかったよ。
「ルカ」
俺の言葉にルカは振り返り、驚いたように目を見開く。おいおいどうしたんだよ?俺は笑顔だぜ?
「外道に情けはいらないな?」
「ノット……うんそうだね。こいつだけは許しちゃダメだ」
あぁ、そうだな。ヒロインを襲おうとしたこいつだけは許しちゃならねぇ……例え唯一神やこの国の支配者たる天使が許しても俺が許さねぇ……腹の底から出た俺の本音……
―――ぶっ殺してやる
そう思いはしても流石にルカという無垢な少年の前で殺人現場を見せるわけにはいかないし、そこそもこの戦いはルカの成長を目的とした戦いだ。だから俺はサポートに徹する。『私情を捨てて計画遂行を優先』それが俺が決めた生き方なのだから……
そしてミルメコはルカの必殺技を喰らって瀕死となる。死ぬ前に俺は魔力で編んだ糸で引っ張りしぶしぶ救出する。さすがにルカの手で直接殺させるわけにはいかない。彼には極力手を汚さないでいて欲しい。
だが、流石にルカの必殺技を当てる程度ではこいつに与える報いとしては役不足甚だしい。ので俺が裁く。俺はルカと助けたヒロインちゃんに森の外のテントまで運んでくると言ってミルメコを背負ってその場から離れる。そして一目がない所でこいつの息の根を止めるべく拳で背中側から殴りつけて肝臓を破裂させるこれで大量出血によって死ぬだろう。この世界の治療技術では治療困難つまり確定で死ぬわけだ。
俺の手でミルメコは死に、ルカは戦いに勝利する経験を積む。
―――全部、当初の計画通りである。
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