エピローグ:新しい流儀
# マニュアル外の恋愛事情
エピローグ:新しい流儀
「パパ、起きて!起きてよ〜!」
龍野十四郎の耳元で、甲高い声が響く。
「んん...」
目を開けると、4歳になる息子の笑顔が目の前にあった。
「翔太...まだ6時だぞ」
十四郎は、眠たげな声で言う。
「でも、今日はピクニックの日だよ!」
息子の興奮した声に、十四郎は思わず笑みを浮かべる。
「そうだったな。分かった、起きるよ」
ベッドから起き上がると、隣で寝ていたここみも目を覚ます。
「おはよう、十四郎」
「おはよう、ここみ」
二人は優しく見つめ合う。
「ママ!早く支度して!」
翔太の声に、ここみが笑う。
「はいはい、分かったわ」
...
リビングでは、いつもなら整然としているはずの空間が、今日は少し乱れていた。
ピクニックの準備で、あちこちにものが散らばっている。
かつての十四郎なら、この状況に眉をひそめていたはずだ。
しかし今は――
「翔太、サンドイッチ作るの手伝ってくれるか?」
「うん!」
息子と一緒にキッチンに立つ十四郎。
手際よくサンドイッチを作りながら、ふと思い出す。
(昔の俺なら、こんな生活は想像もできなかっただろうな)
結婚して5年。
十四郎の生活は、大きく変わった。
几帳面で融通の利かなかった性格も、少しずつ柔らかくなっていった。
「十四郎、お弁当箱どこだっけ?」
ここみの声に振り返る。
「たしか、右の棚の...あれ?」
いつもの場所にない。
「あ!ここにあった!」
翔太が、違う棚から弁当箱を取り出す。
「ごめんね、私が片付けたときに間違えちゃったみたい」
ここみが申し訳なさそうに言う。
昔なら、こんなことで苛立っていたかもしれない。
しかし今は――
「大丈夫だよ。見つかって良かった」
十四郎は、優しく微笑む。
...
公園に着いた家族。
翔太は、すぐに遊具に駆け出していく。
「気をつけるんだぞ!」
十四郎が声をかける。
ここみと二人、芝生にシートを敷く。
周りには、他の家族連れの姿も見える。
「幸せ?」
ここみが、ふいに尋ねる。
十四郎は、少し考え込むような仕草をする。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「ああ、とても」
その言葉に、ここみの目が潤む。
「私もよ。こんな日が来るなんて、思ってもみなかった」
十四郎は、ここみの手を取る。
「俺も同じだ。でも、君のおかげで...」
言葉を探す十四郎。
「新しい流儀を見つけられた」
ここみは、その言葉に優しく頷く。
「パパ!ママ!見てて!」
遊具から翔太が手を振る。
二人は笑顔で手を振り返す。
(こんな生活も、悪くない)
十四郎は心の中でつぶやいた。
かつての几帳面な生活は、確かに崩れてしまった。
でも、その代わりに手に入れたものは、
はるかに大切で、かけがえのないものだった。
十四郎は、家族を見つめながら思う。
(これが、俺の新しい流儀だ)
陽光に照らされた公園で、
龍野家の新しい1ページが、静かに紡がれていく。
*********************************
この作品が少しでも良いと思っていただけましたら、☆♡いいねやお気に入り登録など、どうぞよろしくお願いいたします。
マニュアル外の恋愛事情 影燈 @kuraakashi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます