第7章:深夜の共闘

# マニュアル外の恋愛事情


## 第7章:深夜の共闘


龍野十四郎は、いつになく焦りを感じていた。


大型プロジェクトの締め切りが迫る中、重大なトラブルが発生したのだ。


「くそっ、こんな時に…」


十四郎は額の汗を拭いながら、必死でキーボードを叩いていた。


時計は既に午後10時を回っている。


ふと顔を上げると、ここみの姿が目に入った。


「東羅さん、まだ帰らないのか?」


ここみは驚いたように顔を上げた。


「あ、部長。はい、もう少しで終わります」


彼女の目には、疲れの色が見えた。


十四郎は一瞬躊躇したが、意を決して声をかけた。


「悪いが、少し手伝ってくれないか。緊急事態なんだ」


ここみは即座に立ち上がった。


「はい、もちろんです!何をすればいいですか?」


十四郎は状況を手短に説明した。


クライアントのウェブサイトがダウンし、データの一部が消失したのだ。


「復旧作業と、失われたデータの再構築が必要だ」


ここみは真剣な表情で頷いた。


「分かりました。私がデータの再構築を担当します」


二人は黙々と作業を続けた。


時間が過ぎていく。


深夜0時を回った頃、十四郎はふとここみの様子を確認した。


彼女は集中して画面を見つめ、時折メモを取っている。


(本当に有能だな…)


十四郎は、ここみの仕事ぶりに感心していた。


「東羅さん、少し休憩しないか?」


ここみは顔を上げ、疲れた目で微笑んだ。


「大丈夫です。あと少しで…」


その時、ここみの胃が大きな音を立てた。


十四郎は思わず笑みを浮かべた。


「そうだな、少し食事でも取ろう」


コンビニで買ってきたおにぎりを、二人で黙々と食べる。


「ところで、東羅さん」


十四郎が話を切り出した。


「どうして広告の仕事を選んだんだ?」


ここみは少し驚いたような顔をした。


「実は…医大を目指していたんです」


「医大?」


十四郎は、思わず聞き返した。


「ええ。でも、学費が続かなくて…」


ここみの表情が、少し曇った。


「家庭の事情で、途中で諦めざるを得なかったんです」


十四郎は、黙って聞いていた。


「それで、広告の世界に入ったんですが…」


ここみは、少し照れたように笑った。


「意外と楽しくて。今では、この仕事が大好きです」


その言葉に、十四郎は胸が熱くなるのを感じた。


「そうか…」


十四郎は、ここみの横顔を見つめていた。


(こんな過去があったとは…)


「部長は?どうしてこの仕事を?」


ここみの質問に、十四郎は少し考え込んだ。


「俺は…」


そこで、十四郎のパソコンから警告音が鳴った。


「すまない、また作業だ」


二人は再び仕事に没頭した。


夜明け前、ようやく全ての作業が終わった。


「ふう…なんとか間に合ったな」


十四郎は深いため息をついた。


「本当にありがとう。君がいなければ乗り越えられなかった」


ここみは疲れた顔で、でも誇らしげに笑った。


「いえいえ、私にとっても良い経験になりました」


その笑顔に、十四郎は胸が締め付けられるのを感じた。


(俺は…本当に…)


帰り際、十四郎はここみに言った。


「君の話、もっと聞かせてくれないか?機会があれば」


ここみは少し驚いたが、すぐに笑顔になった。


「はい、喜んで」


二人は、夜明けの街を歩きながら、


オフィスを後にした。


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