BONUS-TRACK:3 10 years later

【シチュエーション:バイノーラルマイク破損事件から10年。あの頃は窓を隔てていた二人も、今では三人となってひとつ屋根の下で暮らす様になりました】



(SE:玄関のドアを開ける音)

(SE:靴を脱ぐ音)

(SE:リビングに抜けるドアを開ける音)


【ソファの上で赤子をあやすヒロイン/位置は前/距離は中/声量は落とす】


「おかえりなさい、あなた。ごめんね、お出迎えできなくって」


「うん、今ちょうど寝たとこ。だから起こさないようにね――ん」


「何きょとんとしてるのよ。おかえりのチュウ」


「うん、だから起こさないように、して?」


「ん――」(キスの音)


【ソファーの隣に座る】

「だって、それはそれ、これはこれだもん」


「パパとママのちゅっちゅを邪魔するようなことしないもんねー? ほっぺうりうりー」


「あははっ、見て。寝ながらあたしのおっぱいを探して、口をぱくぱくさせてる」


「男の子の本能だよねえ~。にっししし♪」


「……え、教育に悪い? ごめんごめん」


「でも、本能で思い出したんだけどさ」


「赤ちゃんって、お母さんの心臓の音で安心するんだって。だからお母さんに抱っこされると落ち着くの」


「お腹の中で十月十日、ずっと私の心音を聴いて育ってくれたんだもんね」


「……なーんかすっごい羨ましそうな顔してる。なあに、もしかして嫉妬したの?


「でも今はダメだよ。そういうえっちな話じゃないんだから」


「ほんと変わらないね、あなたのそういうとこ」


(くすりと微笑んで、間を空ける)



「音って、不思議だよね」


「心音だけじゃなくてさ。胎教でクラシックや英会話を聴かせたりとかもあるじゃん?」


「産まれる前から、そうやって影響を与えてるんだもん」



「ちょっと前までは、けらけら笑いながら過ごすことこそが楽しさだったけれど」


「今はこうして、声のボリュームを押さえて話していることが幸せに感じる」


「でもやっぱり、この子が起きていて、オンの声でお喋りするのも楽しいし」


「この子が大きくなって、一緒になってはしゃいで回るのも楽しみ」



「きっとこれからも、あたしたちは音と一緒に歳を重ねていくんだよね」


「あれから十年。早かったけれど、長かったよね」


「なにより、楽しかった」


「人生がまだ何十年と残っているんだって思うと、すごく幸せ」


「あたしと結婚してくれて、ほんとうにありがとう」


「……改めて言うと、やっぱ照れんね」



「結婚式のこと、憶えてる?」


「あたしね、あの鐘の音がすごく印象に残ってるんだ」


「親戚のお姉さんの式とか、同級生の式とか……そういうのに参列したときは、ぶっちゃけどこか他人事だったんだけど」


「あなたと並んで浴びた鐘の音は、なんかこう、今まで感じたことのないくらいあったかくて」


「ああ、これが幸せの音なんだなーって」


(SE:主人公がヒロインの肩を抱き寄せる衣擦れの音)


「ふふっ、キミも同じだった?」


「む、そういうこと言うんだあ。別に『あなた』と『キミ』を混ぜたっていいじゃん」


「地味にちゃんと呼び分けのルールを決めてるんだからね?」


「基準? にっしし、教えてあげなーい」



【ヒロインが頭をもたれさせてくるので、より距離が近くなる】


「いつか、この子が大切な人と結婚をする日が来たら」


「その時に聴く鐘の音は、また違って感じるのかな?」


「同じ音でも、その時の状況や立場で聴こえ方が変わって来るんだよね」


「同じタイミングで聴いても、あなたとあたしとこの子では、きっと感じ方が違ってさ」


「でも、ずっと愛情は変わらなくてさ」


「ああいや、ごめん。変わるね。どんどん大きく、深くなってく」


「や、ほんとだってば。あの日の『好き』と、今の『好き』、違うじゃん? じゃない?」


「でしょー? ふふっ、わかればよろしい」


「そんな風に、さ」


「これからも色んな音や気持ちを共有し合いながら――」


(ほっぺにキスをする音)


「幸せになろうね♪」




『リアルヘッドマイク~推しのASMR配信者が幼馴染だった件~』

BONUS-TRACK(完)

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リアルヘッドマイク~推しのASMR配信者が幼馴染だった件~ 雨愁軒経 @h_hihumi

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