(6)多分、裸になるより恥ずかしい

【ヒロインの部屋にて。ベッドの上で並んで腰かけている位置関係。ひとつのスマホをふたりで覗き込んでいるため、距離はかなり近め】


「マイクがおしゃかになった時はどうしようかと思ったけれど……ちょっとずつ再生数が伸びてきてるね?」


「これも君が練習に付き合ってくれたからだよね。あんがと♪」


「そういえば、あたしの配信で一番好きなのって、何? お礼にやってあげよっか」


「心音ASMR? あー……ソッ、スカ。すぅー……」


「じゃ、今の話はなかったことに。今度マクドかミスドか奢るからさ――」


「だってえ! いやわかるじゃん? 言わなくっても想像付くじゃん!?」


「心音が聞こえるってことは、マイクをこう、ぎゅって押し当てるってことじゃん!?」


「ちょ、今ちらっとあたしの胸見たでしょっ!? 想像したんでしょう!?」


「こぉらぁ、ニヤニヤするなぁ!!」


「……ぐ、うぐぐぐぐ」


「ああムリ! 絶対ムリ! さすがに恥ずかしすぎるって!!」


(頭を抱えるため、一度声が遠くなる)

「も~~、どうして心音ASMRとかやっちゃったかなあ……」


「ええ。自業自得です、はい」


「だってだってぇ、睡眠導入って言ったら、寝息か心音じゃない?」


「でも寝息配信だとガチで寝落ちしちゃいそうだからさ」


「心音なら、体起こしててもなんとかなるかなぁ……って」



「うう……」


「そのう、胸はさすがにエグいから、お腹にしない?」


「えっ、お腹は恥ずかしくないのかって?」


「そりゃ恥ずかしいは恥ずかしいけれど……最近あたしも鍛えてるし」


「そそ。こないだ君の筋肉を見たじゃん? あたしも頑張らなきゃなーって」


「体重は1キロ、ウェストはマイナス2センチ達成したぜい、どやぁ♪」


「うぐっ、やっぱ話逸らそうとしてたのバレました……?」



「わかった。やります、やりますったら!」


「き、キレてねーしぃ?」



【ヒロインがベッドへ大の字になる】

「よし、どんと来やがればかやろー!!」


「……ん。そっとね? そっとだからね? ――ひゃんっ、髪の毛くすぐったい!」


「ど、どう……かな……?」


「えっ、あったかい……? いやそういうことじゃなくって!」


「『あ、叫ぶと腹筋が盛り上がった♪』じゃなーい!!」


「うぅ……囁きや吐息だと全然平気なのに。直接体の中の音聞かれるのって、クソ恥ずかしいんですけどぉ……」


「いやマジで。多分、裸になるより恥ずかしい……」


「――はっ!? ち、違うから! 裸の方がマシだからって脱いだりしないから!?」


「~~~~っ、墓穴ぅ……」



「ええと、それじゃあ……ちょっとごめん、そこのカバンからスポドリのボトル取ってもらえる?」


「あんがと。……何をするのかって?」


「ほら、こういうのって、お水を飲んだ時の音とかも楽しんだりするんでしょ?」


「んくっ、んくっ。どう? 何か聴こえる?」


「へえー、けっこうちゃんと聴こえるんだ」


「確かに、お医者さんとか聴診器当てて判断するんだもんね」


「……ふふっ」


「いや、なんかこうやってお腹に頭が乗ってるとさ……君が赤ちゃんみたいだなって、面白くて」


「あっ違う、今のナシっ! 失言だった! ちょ、こら! 胎内回帰ASMRとか言うなぁ!」


「あそこまではしませんっ! しーまーせーんー!」



【ヒロインが暴れるので、起き上がる】

「うぅ、マジでだるいってぇ……どっと疲れた」


(SE:お腹が鳴る音)

「……お腹減った」


「じ、直に聴きたかったとか言うなぁ!」


「~~~~~っ!!」


「…………うっさいバカ。喋んな」


「じゃあ、三回回ってワンって鳴いて土下座したら許したげる」


「……うわあ、行動はっや。プライドとかないの?」


「ご褒美ですって……ぷっ、あはははははっ!! いや秒でその切り返しはえぐいって!」


「くくっ、ふふはははっ!」


「ひいっ、ひいっ……あー、久々にこんな笑ったわー」




「……その、さ」


「今日、お父さんもお母さんも仕事で遅くなるから、晩ご飯は何か作って食べようと思ってたんだけど」


「一緒に、食べてく?」


「いや、咀嚼音ASMRはしないからね!?」

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