(7)君の音を聴かせて

(SE:窓の開く音)

【ヒロインが主人公の部屋に入って来るので、距離は遠くから徐々に近く。夜ということもあり、全体的に声量を憚る】

(小声)「おはようございまぁーす……」


「……夜なのに何でおはようなのかって? えっ、寝起きドッキリとか知らない?」


「……ジェネギャ? いや同い年やないかーい!」


「ごめん、つい……そうだよね、君のご両親を起こしちゃうよね」


「というわけで、今日は趣向を変えて、あたしの方から君の部屋に来ちゃいました~♪」


「んでんで、何してたの?」


「勉強ぉ~? ぜぇーったい嘘。どうせ保健体育とかっていうオチでしょ」


「え、マジ? マジで勉強してたの? すごっ、偉っ……」



「……えっ、あたし? どうしてそこであたしが出てくるのよ」


「この間、あたしのカバンからペットボトルを取った時、進路希望調査のプリントが見えた……?」


「それで、あたしと同じ学校に進学したいって思ったわけ?」


「ふふっ、何それ。そういうのって、女子の方から言うことじゃない?」


「それに、そういう進路の決め方はしない方がいいと思うけどな」



「……えっ、元々ここが第一志望だった?」


「そっか、諦めてランクを落とそうとしていたけれど、踏ん張り直したんだ」


「ふうん、カッコいいじゃん。ちょっと見直した」


「仕方ない。お姉さんが一肌脱いでしんぜよう♪」


「なーによその目は。あたしの方が誕生日二ヶ月早いんだから、お姉さんでいーじゃん」


「えっ、そっちじゃない?」


「『一肌脱ぐ』がえっちなワードに聞こえたぁ?」


「そういうヘンタイ変換をするのはこの頭かっ! このっ、このっ!」


「うっさい、君の大好きなヘッドスパよ、大人しく食らいなさいっ!」




(SE:ペンが紙の上を走る音)

【主人公の隣に立ってヒロインが勉強を教えている立ち位置】

「ここもマル。こっちもマル。最後の文章問題も……マルっ!」


「お疲れー! かなりいい正解率じゃない? ヤればデキるじゃーん♪」


「君の弱点は、問題文からの要点の抜き出しかなぁ。丁寧に読み込み過ぎて、ミスリードの情報も拾っちゃってるんだよ」


「共テだったらそれでもいいんだけど、大学入試となると、落とすための問題が増えるから」


「ほら、自車校ジシャコーの問題とか、超ひっかけって言うじゃん?」


「作問者がどう落とし穴にハメようとしているのか、見破ってやるの」


「これからも定期的に勉強会とかしよっか。一緒に頑張ろうね♪」



「んーっ! 背中ぱっきぱきだぁ!」


「君はお風呂は入ったの? ん、あたしも済ませてるよ」


「んー……じゃあ、さ」


「勉強を頑張ったご褒美に、添い寝ASMRとか、しちゃう?」


「そ、ダイレクト寝落ちもちもち~♪」



(SE:ベッドのシーツを持ち上げる音)

【ベッドの中で向かい合う形になるため、正面、距離近め。セリフはすべて囁き】

「……なんだか、小さい頃を思い出すよね」


「あーんなに小っちゃくてさ。将来がどうとか、男子と女子の違いとか、なーんにも考えてなくて」


「ただ幼馴染ってだけで、手を繋いで眠ってさ」


「今は……さ」


「色々と意識しちゃって、一度はあの窓と窓の間に超えられない壁ができちゃって」


「それが、ちょっとしたことからまた近付いて」


「あの頃とは多分、いろんなことが変わっちゃっているんだろうけど……」


「でもこうして、あの頃と同じように手を繋いで向かい合ってる」


「なんか、不思議だね?」


(SE:ヒロインがもぞもぞと動く衣擦れの音)

【ヒロインの胸に主人公の耳が当たっている状態。少し声がくぐもって聴こえる】

「ねえ、聞こえる? あたしの心臓の音」


「平気なフリしてるけどさ……こんなにドキドキしてるんだよ?」


「うん、そう。今なら、心音ASMRだってできるんだ」


「だって、君にはあたしの音をぜんぶ伝えたいから」


「ねえ、君はどう思ってるの? あたしに、君の音を聴かせて?」



(SE:体勢変更する衣擦れ)

【ヒロインが主人公の胸に耳を当てている状態。声は下方向から】

「にししっ♪ 同じ音がする」


「あたしのトクン、トクンと、君のトクン、トクンが、重なってるね」


「収録の時はイヤモニを付けているけどさ。ほら、自分の声だから、どこか違和感があって……」


「そっか。ASMRって、こんなに心地がいいものだったんだね」


「君の音が聴こえるって、こんなに安心することなんだね」


「うん、これは沼っちゃうわけだなあ」



「……ねえ」


「好きだよ。大好き」


「……君は?」


「そか。……うん、すごく嬉しい」


「もっと聞かせて。耳たぶが溶けちゃうくらいに」


「まずはあたしからね。好き、好き、好き、大好き――」

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