(5)こーいうのでいいんだよ……と思ったか!

【ヒロインの部屋で、向かい合う体勢】

「先日は、大変申し訳ございませんでした……」


「むう。確かにさ、ちょこぉーっとヤりすぎちゃったなっては思うんだけどさ」


「だからって、三日間も口を利いてくれないって酷くない!?」


「うへえん、寂しかったよぉー!」


「せっかくまた君と喋れるようになったのに、もう終わっちゃうかと思ったよぉー!」


「ひんひん、ぐすっ……」


「……はい、反省してます。オトナになるまで我慢します」




「――と、いうわけで!」


「君からのお許しももらえたし、今日も張り切っていこー!」


「いやほんと、反省はしてるってば」


「その証拠に、今日は初心に帰りたいと思いまぁーす」




【お風呂場にて。椅子に座らせた主人公に、ヒロインが後ろから寄り添う立ち位置。SE:全体的に声が反響】


「てれれれんっ♪ へっどすぱー!」


「えっ、物真似が下手くそ? いやあたしがやったののぶ代ドラの方だから」



「ふんふんふふーん♪」

(SE:シャワーを出し始める音。ここからしばらくのセリフの中に、何度か、手で温度を確認する遮りの音が入る)


「やっぱり癒しのASMRといったら、あわあわシュワシュワだよねえ」


「ほら、濡れちゃうから上脱いで」


「おおー……これは中々、良いカラダをお持ちで」


「でも君、部活とかやってたっけ?」


「……えっ? ギャル化したあたしに話しかけらずにいた時期に、筋肉を付ければ自信が持てると思ったから?」


「あっはははは! じゃあ大成功じゃーん!」


「ぺしぺし、ぺしぺし。えいっ、えいっ」


「んー? 馬鹿になんてしてないって。あたし、このくらいが好きだよ?」


「っていうか……想像してたのよりずっとカッコよくてビビってる」


「どんな想像って……あっ」


「だめ、絶対言わないっ! この秘密は墓場まで持っていくから!?」


「……はい、近所迷惑になりますね。ごめんなさい」



(SE:シャワーの音が近くなる)

「それじゃあまずは、髪を洗っていきますねー♪」


「お湯加減どう? 熱くない? うん、なら良かった」


「んー? 女子の七不思議? 何それ」


「同じシャンプーを使っても、女子だといい匂いがする……あーね」


「それはね、洗い方が違うんだよ」


「そそ。そもそもで髪が長いってのもあるんだけどさ」


「こうやって、まずはお湯で髪をしっかり洗い流して、汚れだとか、整髪料だとかを落とすの」


「こうするだけで、シャンプーの泡立ちがぜんぜん違ってくるんだよ」


「頭洗う時、じゃっとお湯出してシャンプー手に取って、すぐにわしゃわしゃってやってない?」


「でしょー?」


「じゃあ、実際にシャンプーを付けて行きますねー」


(SE:泡の音)

「痒いところはありませんかー?」


「ほら、もこもこになってるのわかる?」


「CMとかでもさ、手のひらの上で生クリームみたいになってる泡のイメージとか出るでしょ」


「あのくらい、しっかり泡立てるんだよ」


「ほら、みてみて。あわあわー♪」


「意外と知らない人多いんだ。どうしても、ちょぴっとずつ使っちゃうんだよね」


「保湿クリームなんかでもさ、アーモンド大とか、さくらんぼ大とか、ちゃんと説明書きがあるんだけどね」


「もったいない精神もわかるんだけど、ケチって効果がイマイチの方がもったいなくない?」


「君の髪、今とろっとろになってるの、わかる? マジでケーキ作れそうなくらい」


「じゃあそろそろ、頭皮のマッサージをしていきますねー」


「お客さん、だいぶ凝ってますねえ。夜遅くまでASMR配信とか見てませんかぁ? にししっ」


「この固くなった頭皮を、頭蓋骨から剥がす様に……よい、しょっ」


「あ、一応ネイルチップは外してきてるけど、痛かったりしたら言ってね?」


「ぞりぞりー♪ ごりごりー♪」


「ふふっ、目がとろーんとしてきたね」


「いいよ、寝ちゃっても」


「……ん? 最後まで堪能していたい? そっかそっか」


「じゃあ、絶対寝かせるギャルvs絶対寝たくない君vsダークライの開演だね」


「そりゃそーよ。もしかして、『こういうのでいいんだよ』とか思ってた?」


「そうは問屋が卸しませーん♪」


「ふっふっふ。いつまで耐えられるかなぁ~?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る