(2)ナニ事も慣らすところから

【ヒロインの部屋で膝を突き合わせて話す距離。間にAm○zonの箱が一つ置かれているくらいの近め距離感】


「さて。今日君を呼んだのは、他でもありません」


「じゃじゃーん! マイクが届きましたぁ!」


「約束通り、ASMR禁してくれた?」


「本当かなぁ~? じゃあYoutubeの検索履歴見ちゃお。スマホ貸してっ」


「およ、素直に渡してくれるんだね? それじゃあお言葉に甘えて――」


「へえ、こういう動画が好きなんだぁ。ふむふむ。あっ、この実況者さんあたしも好きー!」


「……じゃなかった、チェックチェック」


「本当だ。一個もないや」


「えっ? 約束したから? 元々『紗々夜キイナ』の配信を聴いていたのも、あたしの声に似ていたから!?」


「っ、~~~~~~っ!?」


「ちょ、バカ! 『それ以外は興味ない』とか、真顔で言うなぁ! キモい、きーしょーいー!!」


「う˝っ……そんな顔しないでよ。何かすごく悪いことしたみたいじゃん」


「だーもう! わかりました! そうです! あたしも君が聴いてくれていたのが嬉しかったですぅ!」


「今回だけだからね! 君があたしの配信見てるの知ってから、恥ずかしさの方が一億万倍勝ってるんだから!」


「……じゃあ何で配信をやめなかったのかって? いいい、言わせんなバカぁ!」


(小声で)「まったく……そういうところほんっと昔から変わらないんだから」


「ほら、ちゃちゃっとセッティング済ませちゃうから、これ付けて、そこに寝て」


「どこにって、私のベッドだけど」


「――ハッ!? 嗅ぐなよ? ゼッタイ嗅いじゃだめだからね! 嗅いだら殺す、殺ぉす!!」




(SE:主人公が大人しくベッドの上に仰向けになる衣擦れの音)

「それじゃあ始めるよー」


(SE:ヒロインがベッドの上にあがって来る音)

「こうして君に跨っていると、なんだか押し倒したみたいで変な気分だね」


「そういうこと言うなったって……こういう軽口叩いてないと、恥ずくて心臓が爆発しそうなんだもん!」


「わ、わかった。真面目にやる。……た、対戦よろしくお願いします」


「ええと、それじゃあ……まずは耳周りのマッサージからね」


「……あ、さては最初から囁きASMRとかやられると思ってた? ざんねんでした~♪」


「や、でもほら真面目な話、何事もちょっとずつほぐしていくのが大事だと思うんですよ」


「……ごめん今のナシ。うぅ、どうしても言葉のチョイスに配信モードが入っちゃうよぉ……」


「……は? 『入っちゃうよぉ』もだいぶセンシティブ? う、うっさいバカぁ!」


「すぅー、はぁー、すぅー、はぁー。よし、それじゃあ仕切り直すよ」


「……右耳から、触るね?」



【ヒロインが主人公の右耳側に。斜め前から。有声囁き】

「オイル付けてるけど、指、冷たくない? 大丈夫?」


「耳ってね、けっこう色んなツボが集まってるんだよ」


「上のところを押すと、ストレス緩和。もうちょっと下のくぼみが、代謝アップや整腸作用で……このぷにぷにした耳たぶさん周りが、疲れ目や快眠にいいんだって」


「たまに自分でマッサージしてみるのもいいかもね」


「……えっ? あたしの指にしてもらう感覚を知ったから、もうセルフマッサージじゃ物足りない? せ、責任とって欲しいぃ!?」


「まったく、すーぐそういう調子のいいことを言うんだから」


「じゃ、次左耳ね」


【ヒロインが主人公の左耳側へ移動】

「さわさわー、こりこりー、もみもみー」


「くすぐったかったりしない? 本当かなぁ?」


「ぶっちゃけ君も、ホントは気持ちぃのを誤魔化すために、わざとセクハラ発言してるんでしょ」


「違う? 本当にぃ? じゃあ、これは?」

(耳のヘリの部分をフェザータッチで撫でる)


「あはっ♪ 今びくってしたね。かーわーいーいー」


(SE:ここで耳かき登場。梵天のぞりぞり音)

「こしょこしょこしょー♪」


「ちょ、こら動くな! これが耳かき中だったら大変だよ?」


「えいっ♪」


「君が動かないように、あたしが乗っかっててあげる♪」


(至近距離無声囁き)「……言っておくけど、重いとか言ったら耳かきを鼓膜に突きさすから」


「はい、よろしい♪」


「こしょこしょこしょー……こっちはどうかな? こしょこしょこしょー」


(少し間が空いて、至近距離耳ふー)

「ふぅー……」


「にししっ、今日イチの『びくっ!』いただきましたー!」


「びっくりさせちゃった? でも耳かきには耳ふーがセットだもん、仕方ないよねえ」


「……えっ、梵天でくすぐられただけで、耳かきじゃなかっただろって?」


「ぐぬぬ、ド正論……わかったよぅ」



【ヒロインが体を起こして、ベッドの空いているところに座る。主人公の右側、距離はやや遠めになる】

(SE:膝をぽんぽんと叩く音)

「こっち来て。本当に耳かきしたげるから」


「もちろん、仕上げには耳ふー、ね?」

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