リアルヘッドマイク~推しのASMR配信者が幼馴染だった件~

雨愁軒経

(1)幼馴染=推し!?

 のどかな週末の昼下がり。

(SE:小鳥のさえずり)

(SE:通りを車が通る音)

(SE:ヘッドホンから漏れるような、微かなASMR音(これは「紗々夜キイナ」のもの))


【この時点でのヒロインの立ち位置は『主人公<窓<窓<防音カーテン<ヒロイン』。距離感はかなり遠め】

「きゃああああああっ!?」


(SE:ただ事ではないと主人公が立ち上がる、ガタっと椅子を引く音)

(SE:窓を開ける音)

(SE:屋根伝いに歩く足音)

(SE:窓をノックする音。安否確認なのでやや激しめに)


「えっ? ごめん、今開けるねっ!」


(SE:カーテンが開く音)

(SE:鍵を解除し、窓を開く音)



【ここからヒロインの声が直に聞こえる。距離は立って話す程度】


「ごめんね。もしかして、聞こえちゃってた?」


「うん……ちょっと、大事故を起こしちゃって。びっくりさせてごめんね」


「あっ、覗いちゃだめっ! 大丈夫。大丈夫だからっ!」


(SE:主人公が部屋の中へ踏み入る足音)


「うぅ……見られた。もうお嫁に行けないぃぃ」


「ずいぶん余裕があるなって? ないよぅ。ちょけてないとメンタル病みそうなだけ」


「……えっ?」


「えへへ。なんだか懐かしいね、君の手」


「小さい頃。迷子になった時とか、転んでひざを擦りむいた時とか、お母さんに叱られて公園のブランコで拗ねている時とか、あたしが泣いてるとき、いつも君がこうやって手を握ってくれてたよね」


「いつもすごく頼もしくて、嬉しかったんだよ、これ」


「手、おっきくなったよねえ……すっかり男の子の手だ」


「にしし。あんがと。だいぶチルれた」


「それで、何があったかといいますと……ねえ、やっぱり説明しなきゃだめぇ?」


「だよねえ……というか、部屋にビニールシート敷いて、こんなマイクと洗面器をほっぽり出して説明ナシとか、ヤバいやつだよねあたし。アハハ……」


「ええと……ご覧の通りですっ! ハイ!」


「だめ? デスヨネー……」



「えっと、どれから説明しようかな。これは知ってるよね? 棒状の本体に耳だけついてるみたいなこのマイク」


「そそ、バイノーラルマイク」


「えっ、なんで君が知っていることを知っているのかって? ふんふんふふーん♪」


「そっ、そういうのはいいから! 続けるよっ!?」


「ええと、それで……ヒーリング系のASMRをろうとしたのね?」


「そう、フォーリーサウンドってやつ。自然の音とか、環境音で、癒し効果~♪」


「その……その中で使う水の音を、ね? こうして……ごにょごにょ」


「…………だからぁ! 洗面器にローション溜めて、チピチピチャパチャパしてたのっ!」


「ぐっ、『それで?』って……だから、その、手を滑らせちゃって」


「マイクが洗面器にシュビドゥビダバダバして中の機械がブーンブーンブーンブーンしちゃったのっ!」


「~~~~~っ!! 言わせたならせめてツッコめぇ!!」



「はい、けっこう至近距離でやってました……」


「だって、擬似とはいえ自然音なのに、音が大きすぎると変じゃない?」

「だから音作りは小さくやって、マイクを近づけることで変化を持たせようとしてて」


「何でそんなことって……もう察してるでしょ。こんなこと、普通しないワケだし」


「実は配信してたの。はじめはね、Tiktokで物真似とかシチュボとかやってて……ほら、あそこのマイクスタンド。あれで」


「それで、リスナーさんたちが声を褒めてくれるから、良い気になっちゃいまして……」


「投げ銭溜めて、ASMR配信始めてました。ハイ」


「君も知ってるでしょ。『紗々夜ささやキイナ』って名前……知ってる、よね?」


「うん。聞いてるの、知ってた」


「たまに換気がてら君の部屋をこっそり覗くんだけど。昨夜もPCでアーカイブ聴いてくれてたよね」


「ありがと。君が聴いてくれていると思うと、頑張れたや――じゃなかった、違う、今のナシ」


「ああいうのを見ている時は、カーテン閉めなきゃだめだよ? なーんて……あはは」


「でもホントどうしよ~。バイノーラルマイクって高いんだよ。コレだってお二桁にけた万円とか平気でするし、頭の形をしたヤツとか平気で三桁超えるし! 中古で車買えるよ、車!」


「配信、諦めなきゃかなぁ……」


「一応ね、お手頃価格で買えるのもあるっちゃあるんだけどね。ほら、こういうイヤホン型のやつとか」


「……あ、いーこと思いついちゃった。にしし」


「ん~ふ~ふ~♪ どうして逃げるのかなぁ?」


「そうだよ。君にイヤホン付けてもらって、そこに私が色々するの」


「だいじょーぶ! 痛くしないから。ちょっと横になってるだけですぐに終わるから――あいたっ!?」

(SE:ポコンとツッコミのチョップをいれる音)


「むう。普段はもっとエッチなのも聞いてるクセに――いえ何でもありませーん」


「まあ、その、さ。どうせ新しいのを買うなら、いっそちゃんとしたダミーヘッドマイクがいいなって思うし」


「それまでの繋ぎに、協力してくれない?」


「いいのっ? やたっ!」


「いーやいやいや、さすがにイヤホンマイクを買うお金までは出さなくていいって!」


「……えっ? 楽しみにしているから、スパチャ代わりだと思って受け取ってくれ?」


「うーん……よし! そう言ってくれるなら、あたしも腹括ろうじゃないの!」


「とろっとろにお耳を蕩かしてアゲるから、覚悟しててよね。にししっ♪」

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