(3)全集中、耳に呼吸!

(SE:ガチャリと自室の扉を開ける音)

【ヒロインが部屋の主なので先導する形。位置は前】


「いやぁ、さっきはびっくりしたよね!」


「トラックのクラクションってあんなに大きいんだねぇ……まだ耳がきーんってしてるや」


「でも、何事もなくてよかったね。目の前で事故を目撃とかしたらトラウマになりそう……」


【部屋の中で向き合う形に】

「私たちも気をつけなきゃね」


「最近ちょっと疎遠になっていたのが、またこうして話せるようになったんだし」


(小声)「……君がいなくなっちゃうとか、耐えられないからさ」


「う、ううん、何でもないっ! 事故に遭っちゃうと君があたしのASMR練習を聴けなくなっちゃうよねって言ったの」


「あっはははは、顔真っ赤ぁ! にゅーふーふー、体は正直ですなあ♪」


「うん? さっきの話って?」


「ああ、高校入ってから話さなくなった理由?」


「理由ってほどのもんじゃないんだけどさー……うん、まあ、あたしが臆病だったってだけ」


「ほら、入学してすぐの頃にさ。放課後に隣のクラスの子が、うちの男子を迎えに来たことあったじゃん?」


「あの時の、周囲の冷やかしが怖くってさ」


「もしもあたしが、君に『一緒に帰ろう』って言ったら、迷惑かけちゃうんじゃないかって」


「……うん、わかってる。君はあたしの味方をしてくれるってこと」


「……んん? 待てよ?」


「ねえ、君の方こそ、あたしに話しかけてくれなくなったくない?」


「あたしだけ言うのはずるい! さあさあ、観念して白状したまえ♪」


「……あたしがギャルっぽくなったから? うそ、もしかして怖かったとかぁ?」


「えっ、違う?」


「すごく可愛くなってて、声をかけるのが恥ずかしかった……?」


「~~~~~っ!?」


「う、うっさいバカ! こっち見んなぁ! あっち向いてろぉ!」



【主人公、ぐるりと回転させられる。ヒロインの声が後ろからかかる位置】


「でもそっか。君も勇気が出なかったんだ」


(ここから囁きになる)

「おんなじだね」


「そのままそっち向いてて。いいからいいから」


「ふぅー」


「にししっ、ぴくってなった♪ 君って、コレ好きだよね」


「だーめ、前向いてて!」


「今日は、トラックのクラクションでお耳がびっくりしちゃったから」


「じっくりしっかり、労わらせていただきまぁーす」


「それじゃあ、聴力検査ね♪」


(小声)「聴こえますかぁ~?」


(もっと小声)「これはどうですかぁ~?」


(もっっと小声)「こっちはどうでしょー?」


(無声吐息)「ふぅー♪」


「あははははっ! うん、お耳の調子は大丈夫そうだね」


「あーっ! だから、こっち向いちゃダメだってば!」


「何でって、そりゃあ……さっき、可愛くなったとか言われたから。まだ顔熱いもん。今絶対ぶさいくになってる」


「だぁかぁらぁ! 振り向こうとしーなーいー!」


「むむむむむぅ……油断も隙もありゃしない」

(SE:ごそごそとクローゼットを漁る音)


「そんな悪い子には、こうだっ!」

(SE:何か布で顔を覆われる、衣擦れの音)


「目隠ししちゃえば、振り向かなくてもいいもんね♪」


「何で覆ったのかって? じゃあ、クイズしよっか」


「全集中っ、耳に呼吸クーイズ! ででんっ♪」



(囁きで)

「君の目を覆っているのは、次のうちどれでしょう~?」


「A、あたしのカーディガン。

 B、あたしの体操服♪

 C、あたしのストッキング♪

 D、あたしのブ~ラ♡」


(ここは体を起こして実声で)

「……えっ、『E、ASMRに使っていたタオル』? えー、どうして分かったのぉ!?」


「感触でわかる? でも君、ブラとかパンツとか被る感触なんて知らないでしょ。あたしも知らないし」


「……昨年きょねんの文化祭の罰ゲームで、変態仮面のコスプレをしたぁ?」


「あー、そういえば男子がなんか騒がしかったねえ。『女子は絶対に見るな!』って」


「ふふっ、そかそか。そんな面白そうなことしてたんだ。見たかったなあ」


「……ねえ、ここでやってみて?」


「どうやってって。もち、あたしのパンツで」


「洗ったやつとぉ、今履いてるやつとぉ、どっちがイイ?」


「あははっ、すっごい顔真っ赤! ごめんごめん、冗談だってば」


「でも、そうだなあ……クイズで正解した君には、ご褒美をあげないとね」


(間を空ける。「あれっ?」と声をかけたくなるくらい焦らしてから)

「はむっ」


「にししっ、耳はむ~♪ 囁くだけだと思った?」


「だぁって、君がぴくっ! てなるの可愛いんだもん」


「……はい、ごめんなさい。もうからかいません。協力をやめないでください」


「――と見せかけてぇ、はむっ」


「にっししししし♪」

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