(4)先っちょだけ、先っちょだけだから!

【考え込むヒロインに、主人公が近づいていく状況から】

「うーん、ううーん……舌はダメだよねぇ……? ううーん……」


「わひゃぁっ!? び、びっくりしたぁ……いつの間に来てたの!?」


「そうだ、ごめん。呼んだのあたしの方だったよね」


「てっきり玄関から来ると思っててさ。……あはは、面目ない」


「そういえば昔からずっと、この窓を通って行き来してたんだよね」


「テストで赤点を取って、お父さんに叱られた時とか」


「ホラー番組見ちゃって、眠れなくなった時とか」


「あたしが風邪を引いた時、君がアイス持ってきてくれたんだよね。懐かしいなあ」


「……なのに。ちょっと使わないだけで、忘れちゃうものなんだね」


「ううん、ごめん。何でもない。ちょっぴりセンチになっただけ」



「……えっ、どうして悩んでたのかって?」


「ああそうだ、忘れるとこだった。君を呼んだのは他でもない、そのことでなんだよ」


「ねえ。君は、ラインについてどう思う?」


「あー違う、SNSの方じゃなくって。線引きの方」


「いやね? あたしって未成年じゃない?」


「だから配信も全年齢向けに、ある程度健全でやらせていただいているわけですよ」


「でさ。耳ふーはアリじゃん? 耳はむも、ギリアリじゃん? 耳舐めは……ライン越えかなって」


「……何よその目ぇ。えっ、『心配した俺がバカだった』?」


「何をおっしゃる。こちとら大真面目ですよ、ええ!」



【ここだけ踵を返した主人公にヒロインがしがみつくので、位置が後方低め】

「うわぁぁん帰らないでぇ! 本当に真剣な悩みなんだってばぁ!」



【元の向かい合う構図に戻る】

「……というわけで、ギリギリを攻めたいわけですよ!」


「あ、いや……別にえっちいことをしたいってわけじゃなくてね?」


「やっぱりさ、お耳のマッサージとかだけだと、マンネリしちゃうんじゃないかって……思う、わけです。はい」


「どうしても、えっちいことしてる人たちの方が再生数多いんだよぉ……霞んじゃうんだよぉ……」


「私の声自体が心地いいから、肩肘張らずに今のままでいい? そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ」



「お願いっ、神様仏様あなた様! 何かアイデアを!!」


「……リッピング? 唇で何かするの?」


「ふむふむ、耳舐めが駄目なら、触れない距離でぷるぷるさせる、かぁ」


「よし、物は試し、善は急げ! やってみよー!」


「それじゃあ、ベッドに腰かけてもらっていい?」




【座った状態の主人公に、ヒロインが正面から覗き込むような立ち位置】


「それじゃあ、いくよ……?」


(リップロール。気持ち距離は遠めに)

「ぷる、ぶるるっ! ああごめっ、唾飛んじゃった!」


(SE:ハンカチで横顔を拭く音)

「これ難しいね。カラオケとか好きだからさ、リップロール自体はしたことがあるんだけど……」


「普通にやると音が強いから静かめにしようと思うと、今度は唇が震えなくって」


「指で? あー、ぷるぷるーって?」


「確かにやりやすいかも。ぷるぷるぷるぷるー……」


「あ、そういえば知ってる?」


「プロの声優さんとかって、自分の指とか手の甲をちゅってやって、キスの音を作るんだって」


「こんな風に……ちゅって」(指を使って作るキス音)


「耳元でキスされたような感じ、なる?」


「そかそか。ドキドキするんだぁ。ドキドキ、してくれるんだぁ♪」


「あ、そうだ♪ イイコト考えちった☆」


「……ちゅっ」(指を使わず、エアでのキス音)


「にっししし、至近距離でのエアキス音~♪」


「これなら触れてないし、耳舐めとかみたいにジュブジュブしないから、ギリイケそうじゃない?」


「えっ、近すぎて事故って触れそうなのが危なかった?」


「えー、いーじゃん。先っちょだけ、先っちょだけだから!」


「どうしてそんな強気なのかって? そりゃあ――」


「君の表情カオは正直だから、だよ」


「どんな顔って……決まってんじゃん」


「もっとして欲しそうなカオしてる♪」


(右耳に)「ちゅっ」


(左耳に)「にししっ、こっちも――ちゅっ」


(右耳に)「もう一回……ちゅっ」


(左耳に)「なんか楽しくなってきた……んちゅっ」


(右耳に)「もう一往復~と、見せかけて――」


(左耳に)「ちゅっ」(ほっぺにチュウ)


「にっしししし♪ ほっぺにチュウしてみました~」


「幼稚園の時以来かな?」


「………………ちょ、ねえ、何か言ってよ。割とマジで恥ずいんだけど」


「『とんだ事故だった』ぁ!? このっ、バカぁ~~~!!」

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