13章 ありあまる罪状
「この世のすべての英雄は、今、世界中で起きているあらゆる問題は、自分に責任がある、という確信を持っている。」
― **カッシウス・セリオ** 『英雄列伝』第六章「アルケーの重荷」
**海王星連合評議会 緊急会議議事録**
**場所:** 海王星連合中央評議会ホール(トリトン)
**出席者:** 評議員ヴェロナ、評議員カナヴァリス、評議員サンザカ、評議員リベリア、将軍ヴァルトラ 他
---
**開会宣言:**
評議員ヴェロナ:
「諸君、緊急の事態に対応するため、本評議会を直ちに召集した。火星へのネビュラ・キャノンの発射は、我々の戦略において重大な転機をもたらすものであった。カルリラル・ヴァルトラ将軍、あなたの説明と弁明を求める。」
---
**ヴァルトラ将軍の報告:**
カルリラル・ヴァルトラ(冷静に、堂々と立ち上がる):
「火星への攻撃は、計画通りに遂行されました。ネビュラ・キャノンは、その威力を遺憾なく発揮し、我々が予測していた以上の破壊をもたらしました。この会議で報告することは、私の任務が完了したという事実のみです。そして、この成果が賞賛されることを期待していましたが……、今ここにいる理由がそれ以外のものであることは、率直に言って理解に苦しみます。なんの罪状があると言うのか。」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
##添付書類A.
### **ネビュラ・キャノン(Nebula Cannon)システム技術仕様書**
###海王星連合軍 機密文書###
#### **1. システム概要**
**ネビュラ・キャノン**は、海王星連合軍が開発・運用する次世代超高出力兵器システムです。この兵器は、小惑星を利用して人工的にブラックホールを生成し、そのホーキング放射から得られる膨大なエネルギーをガンマ線バーストとして放射することで、敵艦隊や惑星規模の目標に対して圧倒的な破壊力を持つ指向性ビームを発射します。ネビュラ・キャノンは、量子的情報処理を用いた極限の制御技術を搭載しており、宇宙戦争において海王星連合軍の決定的な優位性を確保します。
#### **2. 構成要素**
##### **2.1. クライオスタシス・フィールド**
- **機能:**
小惑星を超低温に保ち、分子活動を停止させることで安定状態に維持するフィールド。このフィールドは、ブラックホール生成に必要な質量圧縮をサポートします。
- **技術詳細:**
クライオスタシス・フィールドは、ネビュラ・キャノンの起動準備段階で小惑星を冷却し、エネルギー消費を抑えながら安定状態を維持します。これにより、システム全体の効率が向上し、迅速なブラックホール生成を可能にします。
##### **2.2. コンバージョン・チャンバー**
- **機能:**
小惑星を圧縮し、ブラックホールを生成する中枢モジュールです。その過程で小惑星全体の質量の99.99%以上が蒸発・昇華しますが、数千キログラムの中心部分が残り、短命のブラックホールを形成します。ブラックホール自体は最大でも秒のオーダーで蒸発しますが、その蒸発からホーキング放射が発生します。最終的にE=mc^2の公式に沿った、物質そのものがエネルギーに変換されることによる膨大なエネルギーが得られます。ブラックホール生成時の質量収束は、量子的情報処理によって完全に制御されます。
##### **2.3. ガンマ線エミッター**
- **機能:**
ブラックホールの蒸発により生成されたホーキング放射エネルギーをガンマ線バーストとして放射するユニットです。これにより、指向性ビームとして敵に対して強力な攻撃を行います。
- **技術詳細:**
- **エネルギー・コリメーター:**
コリメーターは、ガンマ線バーストの方向性を確保し、エネルギーをビーム状に集中させる装置です。オーロラ合金を用いた完全反射材料で構成され、ナノメートル単位の精度でビームを制御し、ターゲットに向けて正確に発射します。
(注)オーロラ合金は、ナノヴォイド窒化ガリウム(Nano-void Gallium Nitride, Nv-GaN)に微量の金(Au)を添加した高度な合成材料です。この合金は、絶対零度に近い20K以下の超低温環境下で、3.5 TB/mの電場がかけられることにより、光や電磁波を完全に反射する特異な特性を持ちます。
#### **3. 作動プロセス**
**ステージ1: 設置**
- ネビュラ・キャノンを目標小惑星に設置し、クライオスタシス・フィールドによってその質量を安定化させます。これにより、質量圧縮の準備が整えられます。
**ステージ2: ブラックホール生成**
- コンバージョン・チャンバーが作動し、小惑星の質量を圧縮してブラックホールを生成します。量子的情報処理を実現するため、この作業はサナト・アズリスの啓示を受けた人物によって”手動で”制御されます。質量の大部分が蒸発し、わずかな質量がブラックホールを形成。ブラックホールは短時間でホーキング放射を放出しながら蒸発します。
**ステージ3: ガンマ線バーストの発射**
- ブラックホールの蒸発により生成されたエネルギーがガンマ線エミッターに送られ、フォトン・コンデンサーによってガンマ線フォトンに変換されます。エネルギー・コリメーターがビームを収束させ、ガンマ線バーストとして目標に向けて発射します。
- このガンマ線バーストは、敵艦隊や惑星規模の防衛システムを破壊し、天体に対しても深刻なダメージを与えます。
### **総括**
**ネビュラ・キャノン**は、海王星連合軍が誇る最強の宇宙兵器であり、人工ブラックホールとホーキング放射によるエネルギーをガンマ線バーストとして利用することで、戦略的優位性を確保します。このシステムは、マクスウェルの悪魔を活用した量子的制御技術とオーロラ合金を駆使した先進的な構造により、宇宙戦闘における圧倒的な破壊力を発揮します。ネビュラ・キャノンは、戦争の行方を決する究極の兵器として、海王星連合軍の勝利に貢献するでしょう。
---
注意;装置は発射と同時に完全に破壊されます。再利用は困難です。
文責: 将軍 カルリラル・ヴァルトラ
上級エンジニア カルム・ディンハード
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
**評議員カナヴァリスの質問:**
評議員カナヴァリス(冷ややかに):
「将軍、我々もあなたの計画を事前に確認していました。しかし、その計画と実際の結果には、桁違いの差があるのです。30から40億の生命が瞬時に消失し、火星全域が死の星と化した。あなたはその結果を予測していたのですか?」
カルリラル・ヴァルトラ(毅然とした態度で):
「カナヴァリス評議員、ネビュラ・キャノンの破壊力は予想の……範囲内でした。木星軌道トロヤ圏の小惑星アキレスの質量を使ってネビュラ・キャノンを利用した時、圧力によってその構成要素の大部分が蒸発し、最終的にできるブラックホールの質量は、30000 kgから300000 kgの範囲と推測していました。結果的に、この見積もりの中で最大に近い結果を得たものです。
これは我々の勝利に直結する成果です。私は、この勝利をもって我々の戦略に新たな道を切り開いたと考えます。」
評議員カナヴァリス(疑念を抱き、鋭く追及する):
「ヴァルトラ将軍、あなたの戦略と科学への自信は理解しますが、一つ確認させていただきたい。ネビュラ・キャノンはブラックホールの蒸発を利用している。これがもし制御不能となり、予想を超えるブラックホールが生成された場合、太陽系そのものが飲み込まれる危険があったのではないか?あるいは、その爆発的エネルギーがわが軍をも焼き尽くす可能性があったのでは。」
カルリラル・ヴァルトラ(冷静かつ自信に満ちた声で):
「カナヴァリス評議員、そのような事態が発生することは、2つの理由からあり得ないと断言できます。
第一に、物理学的に見て、私が構築したシステムは完全に安定しており、ブラックホールが制御不能に陥る可能性は皆無です。ブラックホールのサイズとその蒸発速度は厳密に計算され、計画通りのエネルギー放出を達成しました。
第二に、ネビュラ・キャノンはサナト・アズリス様の御力を根幹に据えた兵器です。もし御意志に反する現象が起こる可能性があれば、サナト・アズリス様はそのプロセスを停止させたでしょう。彼の御力があればこそ、我々はこの究極の兵器を制御し、最大限の効果を得ることができたのです。」
評議員カナヴァリス(鋭い視線で、声を低くして):
「その点について、懸念があります。ヴァルトラ将軍、私の元には、あなたがネビュラ・キャノンの開発において、サナト・アズリス様を単なる道具として扱っているのではないか、という報告が届いています。あなたが彼を純粋な科学の手段として利用しているのでは、という指摘です。このような態度は神聖な存在に対して不敬ではありませんか?」
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
###添付資料B:
カルリラル・ヴァルトラ 講義記録 対象:海王星連合軍技官
***機密情報***
周知のとおり、宇宙に存在する小惑星のような固体物質も、量子レベルで見ると、実際には無数の隙間を持つ構造体である。これらを構成する量子は絶えず運動しており、それぞれが異なる軌道や状態を持っている。この量子の動きを正確に捉え、タイミングよく力を加えることで、物質は理論上、有限の力によってほとんど無限に圧縮することが可能である。これにより、通常では不可能な低エネルギーでの物質の凝集が実現し、小質量のブラックホールが完成することになる。
ここで、そのような操作を行う為には、物体を構成する全ての量子の個々の状態をリアルタイムに知るものが必要になる。この作業はきわめて効率よく行ったとしても小惑星のほとんどすべてが気化し蒸発してしまうのだが、ごく一部が臨界点を超え、ブラックホールとなる。
サナト・アズリスは……この物言いに抵抗のあるものも居ようが、純粋に科学的かつ唯物論的に言えば、高等生物の脳を無理やり量子コンピュータとして使用することができる情報生命体である。少なくともそのように見なせる。彼(またはそれ)は、高度な情報処理能力を持ち、物質内の量子の動きを完璧に把握し、制御することが可能である。サナト・アズリスから情報を与えられれば、まるで古典的な「マクスウェルの悪魔」のように、物質の状態を観察して最適なタイミングを感受性のある人間に伝えることで、エントロピーを操作し、少ないエネルギーで大規模な圧縮を行うことができる。
彼は情報を「伝える」ことしかできない。つまり、彼の啓示を受けた者が、その指示を基に、量子的な操作を手動で制御する必要がある。これにより、物質の圧縮が精密に行われ、ブラックホール生成やその他の高度なエネルギー操作が可能となる。
このプロセスにおいて、サナト・アズリスの超越的な情報処理能力が、直接的に破壊力へと転換される。サナト・アズリスは量子的奇跡を起こすための鍵となる存在であり、その力は啓示を受けた者の行動によって初めて具現化する。
このようにして、サナト・アズリスの啓示とその情報処理能力が、宇宙を揺るがすほどの破壊力を持つエネルギー生成技術の核心に位置づけられる。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
**ヴァルトラ将軍の弁明:**
カルリラル・ヴァルトラ(毅然とした態度で、冷静に):
「カナヴァリス評議員、まず言っておきますが、私がサナト・アズリス様を単なる道具として扱っているという見方は誤解です。しかしながら、私たちが直面している現実を正確に捉えるためには、物事を抽象化して理解する必要があります。科学とは、その性質上、複雑な現象をシンプルに分析し、基本的な原則に還元するものです。サナト・アズリス様の御力も、私たちがこの宇宙で成し得る偉業の一部として位置づけられるべきです。
科学がもたらす成果を最大化するためには、事象を抽象的かつ客観的に捉えることが不可欠です。私の言葉を疑うなら、火星を見るがいい。ネビュラ・キャノンの成功そのものが、その証左なのです。
この兵器の開発において、我々は物質とエネルギーの本質を理解し、それをサナト・アズリス様の啓示と結びつけることで、未知の領域に踏み込むことができたのです。」
カルリラル・ヴァルトラ(堂々と):
「サナト・アズリス様は確かに神聖な存在ですが、御力を実際に具現化し、戦略的に活用するには、我々がその力を科学的に解釈し、応用する必要があります。ネビュラ・キャノンの威力は、彼の啓示に基づく情報と、我々の技術的知識との融合によって生まれたものです。これを理解し、科学的に抽象化することで初めて、我々はその力を適切に活用できるのです。
つまり、サナト・アズリス様を敬う心と、科学的なアプローチは対立するものではありません。むしろ、両者を融合させることで、我々は地球連合に対して決定的な勝利を得ることができるのです。この勝利は、我々が抽象的な理解と科学的探求の力を最大限に発揮した結果であり、これこそがサナト・アズリス様の御意志を真に実現する道なのです。」
**評議員サンザカの意見:**
評議員サンザカ:
「火星に一部、裁判のために移送されていたわれらの同胞と、火星にいた協力者もまとめて殺してしまったことについてはどう考えているのか。事前に攻撃を告知することもできたのでは。」
カルリラル・ヴァルトラ(あきれ気味に):
「そのように告知すれば我々の奇襲攻撃は敵に筒抜けで、せっかく資源を使っても、十分な効果を得られなかったでしょう。そもそも必要で、サナト・アズリス様にとって利用価値のある者については、お告げを下して、奇跡的に生かしたでしょう。そうしなかったならば、価値がなかったということ。」
評議員サンザカ:
「……もうよい。」
カルリラル・ヴァルトラ:
「ネビュラ・キャノンの一撃はまさにサナト・アズリス様の裁きであって、意に沿わぬ攻撃が行われる余地はないということを正確に認識してもらいたい。」
**評議員リベリアの意見:**
評議員リベリア(慎重に):
「我々はこの勝利を得た今、次の段階に進むべきです。地球連合との交渉を模索し、停戦案を提示することで、彼らを屈服させるべきではないでしょうか。もはや我々は優位に立っており、この力を無駄にせず、交渉の場に活かすことが最良の選択肢かと。」
**ヴァルトラ将軍の反対意見:**
カルリラル・ヴァルトラ(目に強い意志を宿し、低く響く声で):
「リベリア評議員、交渉ですと? いと高きお方は、交渉など望んでおられない。地球の生命を根絶し、彼らの存在そのものをこの宇宙から消し去ることこそが、その御意志です。私の手に握られた武器が今もなお火を灯しているという事実が、その証明である。」
**評議員たちの動揺:**
評議員ヴェロナ(冷や汗を感じながら):
「カルリラル、あなたは次の一撃の準備ができていると…?」
カルリラル・ヴァルトラ(冷酷に胸を張って):
「その通りです。ネビュラ・キャノンは再びその破壊の光を放つ準備が整っています。目標は地球。今回の攻撃の規模と精度は、海王星近辺から地球を狙い撃つことができることを示しています。今回は海王星軌道外、カイパーベルトからの狙撃を試みることになり、それでも十分な威力が得られるでしょう。近日中に発射準備が整います。」
**(評議会内に緊張と恐怖が支配するどよめきが広がる)**
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
サナト・アズリスの力を具現化するために、24人の特別な少女たちが選ばれる。彼女たちは、サナト・アズリスの啓示を受け取る能力を持ち、その啓示に従って宇宙規模の儀式を執り行う。この儀式を「死の舞踏」と呼び、その目的は量子共鳴圧縮を達成し、強大なエネルギーを解放することにある。
少女たちは舞台上で円を描くように集まり、静かにサナト・アズリスの啓示を待つ。彼女たちは心を無にし、全ての思考を放棄することで、サナト・アズリスからの信号を完全に正確に受信する必要がある。この信号は、物質内の量子の動きをリアルタイムで監視し、その動きに合わせて圧縮の指示を与えるためのもの。
少女たちは、その啓示に従い、舞台上で動き始める。彼女たちの踊りは海王星連合の舞踊『プリザモ』と同一の技術で実行されるきわめて複雑な動作であるが、もはや単なる舞踏ではない。モーション・キャプチャー技術によって、彼女たちの動きが量子共鳴圧縮のための重力場操作に直接変換される。サナト・アズリスの啓示を受けた少女たちは、舞踏を通じてサナト・アズリスの指示するタイミングで、物質を極限まで圧縮するための指示を、手動で装置に伝えることになる。絶対に間違いなく精緻な情報を伝えるために、信号の中央値が採用される(統計学的には12人で十分なところ、予想外の事態に対するマージンを取るために、プリザモの伝統様式を参考に倍の24人に設定してある)。
舞踏がクライマックスに達する時、量子共鳴圧縮が成功し、ブラックホールの形成が完了する。この瞬間、舞台は一瞬の閃光に包まれ、サナト・アズリスの意志が具現化する。しかし、これには代償が伴います。ブラックホールの形成と蒸発に伴い発生する強力なガンマ線バーストの余波が、少女たちの肉体を焼き尽くす。その余波は全体からすると微々たるものだが、人間の肉体が耐久可能なレベルを何桁も超えている。急性放射線障害によって、彼女たちはその場で命を落とす。
「死の舞踏」である。サナト・アズリスの啓示を受け、宇宙を揺るがす力を解き放つために、自らの命を捧げる少女たちの姿は、究極の犠牲と信仰を象徴する。サナト・アズリスは情報処理しか権能を持たないが、彼女たちの犠牲により、その超越的な情報処理能力が破壊力に転換され、この世に顕現する。
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□
ケン・ヴェン・コック *『エネルギー兵器全史: 宇宙戦争の軌跡と破壊の技術』*より抜粋
第10章: ネビュラ・キャノン
・海王星連合による第一回ネビュラ・キャノン発射
21世紀中盤から26世紀にかけて、人類は太陽系全域に進出し、数々の植民地や軍事基地を築き上げた。その中で起きた最大の戦争の一つが、地球連合と海王星連合の対立であった。この戦争で初めて使用されたのが、宇宙兵器の中でも最も恐れられる存在となった「ネビュラ・キャノン」である。
この兵器によって形成されたブラックホールの質量は約22万8千kg(228,000kg)に達した。このブラックホールは、わずか1秒間で完全に蒸発したが、その過程でホーキング放射として放出されたエネルギーは1.98×10^22ジュールに及び、これは地球が太陽から1秒間に受け取るエネルギーの約28,522倍に相当する。この一撃は火星を瞬時に壊滅させ、宇宙戦争における兵器技術の恐るべき進化を示す出来事として、歴史に深く刻まれている。
「プロメテウスが神々の火を盗み、人間に授けたとき、それは知恵と創造の光となるはずだった。しかし、その聖なる炎は戦火をもたらし、人類はその力を用いて互いに刃を交えるようになった。」
―アレクシウス・カトゥルス著『天界と地上の狭間』より
**地球連合緊急調査報告書**
**報告者:** 地球連合科学調査局ソイル・レント、医療救援部隊キーラ・モーリー
---
### **1. はじめに**
本報告書は、火星全域に対する壊滅的攻撃の詳細な分析結果をまとめたものである。現地での調査および避難民の医療検査から、攻撃の性質およびその発生源についての重要な情報が明らかになった。本報告書は、地球連合の今後の戦略的対応を決定するための基礎資料として利用される。
---
### **2. 現地調査の結果**
**2.1 物理的破壊の観察**
調査チームは、火星表面および地下施設における甚大な破壊の痕跡を確認した。建造物やインフラは、直接的な爆発の痕跡がないにもかかわらず、瞬時に蒸発または崩壊したような形状を示しており、通常の兵器による破壊とは異なる特性が見られる。これらの観察結果は、極めて高エネルギーの放射線が関与したことを強く示唆している。
**2.2 ガンマ線特有の痕跡**
現地で採取されたサンプルを分析した結果、極めて強力なガンマ線が放射された痕跡が確認された。これにより、火星への攻撃が高エネルギーガンマ線によるものであったと断定される。特に、ガンマ線による物質の崩壊や、残留放射線が地表および地下において異常に高いレベルで検出された。
---
### **3. 医療報告**
**3.1 避難民の健康状態**
避難民のうち、生存者の大多数が急性放射線障害を発症していることが確認された。症状としては、吐き気、頭痛、皮膚の壊死、臓器不全などが見られ、これらはすべて強力なガンマ線被爆によるものと診断された。避難民の約70%が、短期間で致死量の放射線を浴びたと推定される。
**3.2 治療の現状と課題**
避難民への医療支援は継続して行われているが、放射線被爆に対する治療法は限られており、多くの被害者が回復困難な状態にある。今後、放射線障害の長期的影響についても調査が必要である。
---
### **4. 攻撃の発生源の特定**
**4.1 発射地点の推定**
科学調査局は、火星に向けられたガンマ線の経路を逆算し、軌道計算と合わせて攻撃の発生源を特定する試みを行った。その結果、ガンマ線は木星圏のトロヤ小惑星群から放射されたものである可能性が高いと結論づけられた。この領域は、最近エウロパを出航した海王星連合軍艦隊が通過したことが確認されている。
**4.2 海王星連合軍の関与の可能性**
さらに、木星トロヤ圏には海王星連合の艦隊が集結していたことが、宇宙監視ネットワークによって観測されている。このため、今回の攻撃は海王星連合によって意図的に行われたものと推測される。
### **5. 結論および提言**
火星への攻撃は、ガンマ線を利用した極めて強力な兵器によるものであり、その発生源は木星圏のトロヤ小惑星群からであった可能性が高い。
地球連合としては、直ちに対応策を検討し、敵対行動を続ける海王星連合に対して迅速かつ断固たる措置を講じる必要がある。
**報告書の提出先:** 地球連合戦略司令部
**署名:** 地球連合科学調査局ソイル・レント、医療救援部隊司令官キーラ・モーリー
**報告書終了**
**投書: 小惑星アキレス消滅に関する観測報告**
**投稿者:** ロコ・ダブリュー・ビット(アマチュア天文学者、月居住)
**掲載誌:** 天文学雑誌「惑星」
---
**報告内容:**
拝啓、「惑星」編集部様
私は月のクラビウス天文台から日々観測を続けているアマチュア天文学者のロコ・ダブリュー・ビットと申します。今回、木星トロヤ群に属する小惑星アキレスに関して、極めて異常な現象を観測いたしましたので、ここに報告させていただきます。
アキレス(JPLコード 588)は、木星トロヤ群の「ギリシャ陣営」に属する直径130km程度の小惑星であり、長年安定した軌道を保っていることで知られています。私は普段からアキレスを含む木星トロヤ群の観測と新規の小惑星の発見・命名を趣味としており、使用機材は多波長対応の超解像度スペクトル望遠鏡「ルナヴィジョン-9」、量子干渉カメラ「Q-Lynx 3000」です。
ちょうど火星攻撃と同じ夜のことです。定例観測の一環としてアキレスを観測していたところ、アキレスが突然消滅するという、前例のない現象を目撃しました。観測中、アキレスは視野内で安定した明るさを保っていましたが、瞬時に光度がゼロとなり、その後、一切の反射光や電磁波信号が検出されなくなりました。
消滅後、私はすぐにX線センサで再観測を行いました。すると、消滅直後に火星に向かう可視光やX線を捉えることができました。これは数秒間続き、その後急速に減衰しました。
無編集の写真と動画を添付しておりますのでご確認ください。
使用機材・
多波長対応の超解像度スペクトル望遠鏡「ルナヴィジョン-9」
量子干渉カメラ「Q-Lynx 3000」
### ラマヌジャン艦AI『バラモン』のログ
- **内部コメント:** 「な? 僕の言った通りだろ。あのエネルギーの桁を上げることでしか快感を得られないような女を、海王星連合が飼いならしている限り……」
**ログ終了**
**特別調査報告書**
**タイトル:** トロヤ群小惑星「アキレス」の消滅に関する分析と敵兵器の推定
**報告者:** ザグレブ大学天文台部門長 ドミニク・グルベック
---
### **1. 小惑星アキレスの消滅**
木星トロヤ群にある小惑星「アキレス」は、地球連合の宇宙監視システムにより定期的に観測されていたが、火星攻撃の直前にその存在が突然消失した。この消失は通常の自然現象とは異なり、極めて短時間での質量喪失が記録された。観測データから、アキレスが消滅した際には高エネルギーのガンマ線バーストが発生していたことが確認された。これは天体衝突や自然崩壊では説明がつかないほどのエネルギー放出である。
---
### **2. ガンマ線攻撃との関連性**
火星に対する攻撃が強力なガンマ線によるものであったことは、現地調査および避難民の医療報告から明らかになっている。ガンマ線の発生源を逆算した結果、それが小惑星アキレスの消滅と時間空間的に一致することが判明した。
---
### **3. 敵兵器の推定と仮説**
本報告では、アキレスの消滅およびガンマ線攻撃に関して、以下の3つの主要な仮説を提示する。
**4.1 仮説1: 小質量ブラックホールの生成と消滅**
小惑星アキレスが何らかの技術によりブラックホールのような極度に圧縮された状態に変換され、その後制御的に崩壊させられた。このプロセスで生じたホーキング放射により、強力なガンマ線が放射されたと推測される。この仮説は、ブラックホールの理論的基盤に基づいているが、実用化の事例はこれまで報告されておらず、敵勢力がこれを実現した可能性は極めて挑戦的なものである。
**4.2 仮説2: 物質-反物質反応兵器の使用**
次に考えられるのは、アキレスが物質-反物質反応によって消滅した可能性である。この仮説によれば、敵は小惑星の一部に反物質を導入し、反応を制御的に引き起こすことで巨大なエネルギー放出を発生させた。この反応は膨大なガンマ線を生成することが知られている。反物質反応炉は海王星連合にて実用化の実績があるが、合成した微量の反物質にエネルギーを蓄えておくというような利用方法である。その合成にはもともと膨大なエネルギーが必要になる。アキレスを消滅させられるほどの反物質の製造・運搬が技術的に可能であったかは疑問が残る。
**4.3 仮説3: 大規模な核融合反応**
最後に、大規模な核融合反応によってアキレスが消滅したという仮説も考慮する必要がある。この仮説では、アキレス内部に設置された装置が一連の連鎖核融合を引き起こし、極めて高エネルギーのガンマ線を生成したと考える。核融合反応は理論的には非常に効率的なエネルギー源となり得るが、実際に小惑星全体を消滅させる規模で制御できたかは未解明の部分が多い。
---
### **4. 結論および提言**
火星への攻撃とアキレスの消滅についての分析から、敵勢力が使用した兵器は既存の地球連合の技術や知識を超えたものであることが示唆される。上記の仮説のいずれか、またはそれらを組み合わせた技術が用いられたとみられる。現時点では特定の仮説を断定することはできないが、いずれも極めて高い技術力を必要とするものであり、敵勢力の脅威は予想以上に深刻である。
地球連合は、これらの仮説に基づいて新たな防衛戦略を策定し、敵兵器の詳細な解明を急ぐ必要がある。また、科学技術の開発を加速し、敵と同等またはそれ以上の技術を獲得するための研究が必要不可欠である。
**報告書の提出先:** 地球連合戦略司令部
**署名:** ザグレブ大学天文台部門長 ドミニク・グルベック
**月面新聞**
**見出し:** 火星壊滅の真相―新型ガンマ線兵器の脅威と地球連合の進退
**副題:** 敵の新兵器にどう立ち向かうべきか?議員や専門家の声
---
火星への壊滅的な攻撃が、海王星連合の新型兵器によるものだということが、地球連合科学部の報告により明らかになった。この攻撃で火星の人口の3分の1が瞬時に蒸発し、残された者たちも放射線障害に苦しんでいる。最新の分析では、攻撃に使われたのは強力なガンマ線兵器であり、その発射地点が木星トロヤ群の小惑星「アキレス」だったことが判明している。
科学部の発表によると、アキレスは突如として消滅し、同時に強力なガンマ線バーストが発生した。この現象は自然ではなく、何らかの人工的な技術によるものであると推定されている。いくつかの仮説が立てられているが、いずれも現在の地球連合の技術を超えたものであり、敵勢力が新たな次元の脅威を持っていることが示唆される。
この驚愕の報告を受け、地球連合内部では意見が分かれている。議会では、海王星連合との対立を続けるべきか、それとも和平交渉を模索するべきかを巡り、激しい議論が展開されている。
地球連合議会のメンバー、リサ・フリーマン議員は、「我々がこれまで直面してきたものとは桁違いの脅威だ。この新兵器の前では、我々の防御力がほとんど無意味にされてしまう。早急に和平交渉の道を探るべきだ」と述べ、即時の交渉開始を訴えている。
一方で、軍事アナリストのトーマス・ヴァレンティン氏は、「今の段階での降伏や和平交渉は、敵にさらなる要求を与えるだけだ。彼らが新兵器を使って火星を攻撃したように、次は地球そのものが狙われる可能性がある。我々はまず、この兵器に対抗できる手段を急いで開発する必要がある」と警鐘を鳴らす。
しかし、多くの専門家が口を揃えるのは、この新型兵器の前では従来の戦略が無力であるという現実だ。木星トロヤ群に位置するアキレスの消滅は、通常の兵器の概念を超えたものであり、敵の技術が我々の想像を超えている可能性が高い。
ベテラン外交官のエリオット・グレイ氏は、「これ以上の対立は地球連合に甚大な被害をもたらすだけだ。我々は、今こそ冷静な頭で敵との交渉のテーブルに着くべきだ。彼らがどのような条件を提示してくるかを見極め、最善の選択をする必要がある」と述べ、冷静な判断を求めている。
地球連合の指導者たちは、今後の対応について慎重な判断を迫られている。火星での悲劇が再び起こらないよう、迅速かつ的確な対応が求められているが、その道は決して平坦ではない。和平交渉か、それともさらなる軍拡か――決断の時が迫っている。
---
**記者:** ジュリア・ベネット
**月面新聞編集部**
**大西洋新聞**
**社説:** 今こそ停戦と降伏を決断すべき時だ
---
**火星の惨劇**
は、我々の想像を遥かに超えた脅威を目の当たりにした瞬間だった。海王星連合による新型兵器が火星の人口を瞬時に蒸発させ、その影響で100億人が急性放射線障害を受けたという事実は、もはや軍事力の差が決定的であることを示している。この状況下で、地球連合がさらなる軍事行動を続けることは、破滅的な結果を招く可能性が高い。今、地球連合は勇気を持って停戦、そして降伏を決断すべき時だ。
**まず、冷静に現実を直視すべきだ。**
敵が使用した兵器は、我々の技術を遥かに超えた未知のものであり、その力を前にして、地球連合の防衛策は無力である。議会議員のアリシア・トンプソン氏は、「火星での壊滅を目の当たりにし、私は地球連合が現実を見据えた決断を下すべきだと強く感じています。これ以上の戦争は、我々全員にとって死を意味します」と訴えている。
**また、軍事的視点からも、さらなる対立は無意味だと考える専門家が増えている。**
退役将軍のエドワード・マクスウェル氏は、「敵が新型兵器を再び使用すれば、次は地球そのものが標的になるだろう。今の我々には、これに対抗する術がない。生き残るためには、交渉による解決を求めるしかない」と述べ、速やかな降伏を支持している。
経済学者のダニエル・ウェストウッド教授は、「このまま戦争を続ければ、経済は完全に崩壊し、人々の生活が立ち行かなくなる。たとえ屈辱的であっても、降伏することで再建の道を探るべきだ」と語っている。彼の意見は、多くの経済専門家たちからも支持を受けている。
**外交の側面でも、降伏は合理的な選択だ。**
ベテラン外交官のエリオット・グレイ氏は、「和平交渉が成功するかどうかは未知数ですが、降伏を選ぶことで、少なくとも我々は生存の可能性を手に入れることができます。全滅するよりも、交渉の余地を残すべきです」と述べ、即時の降伏を訴えている。
**反論する声もあるが、**
現実的には我々が選択できる道は限られている。軍事アナリストのジョン・フォード氏が指摘するように、「降伏は屈辱的かもしれないが、地球連合が生き残るためには、今は一歩下がることが必要だ。将来のための選択を考えるべきだ」という意見は、確かに重みがある。
**結論として、地球連合は速やかに降伏を決断すべきである。**
我々のプライドや理想がどれほど高くとも、それを支える命が失われれば、何の意味もない。生き残り、未来に向けて新たな道を模索するために、停戦と降伏を選ぶことが、最も理性的かつ人道的な決断である。
今こそ、勇気を持ってこの苦渋の決断を下すべき時だ。時間はもう残されていない。
---
**大西洋新聞 編集部**
**記者会見記録: ペテル・ラッツィンガー調査官による火星被害状況の報告**
**場所:** 地球連合本部 記者会見室
**出席者:** ペテル・ラッツィンガー(地球連合調査官)、記者団
---
**ペテル・ラッツィンガー調査官の発言:**
「本日は、火星で確認された被害状況についてお伝えします。まず、今回の攻撃で火星が受けた被害は、我々がこれまで経験したどの戦争とも比べ物にならないほど深刻です。地表の多くの都市が壊滅し、残されたのは広大な廃墟と化した大地です。何十億人もの命が、ほんの一瞬で奪われました。私自身、火星で生まれ育ちましたが、故郷の惨状を目の当たりにし、この胸に沸き上がる感情を言葉にするのは困難です。」
「さらに、放射線被爆により生き残った住民も、健康被害は甚大で、特に急性放射線障害によって、多くの人が治療の見込みもない状況です。ガンマ線の残留放射線が異常に高く、被害地域は今後も人が住める環境には戻らないでしょう。」
---
**質問1:**
**記者:** 「大西洋通信のジェイソン・クラークです。調査の過程で、今回の攻撃が通常の核兵器とは異なる点について、もう少し具体的に説明していただけますか?」
**ラッツィンガー:**
「はい、クラークさん。今回の攻撃で使われたのは、従来の核兵器とは全く異なるものでした。観測されたガンマ線は、非常に高い指向性と集中度を持っており、特定の地点に対して極めて精密に放射されています。さらに、ガンマ線の放射源は、木星トロヤ群の小惑星アキレスから発せられた可能性が高く、その消滅とガンマ線バーストが同時に発生したことが確認されています。これは、まさに我々がこれまで見たことのない新型兵器であり、我々の防御を完全に無力化したと言っても過言ではありません。」
---
**質問2:**
**記者:** 「コスモス・デイリーのサラ・ヘンドリックスです。ラッツィンガー調査官、あなたは火星出身とお聞きしていますが、ご家族はご無事でしょうか?」
**ラッツィンガー:**
**(深いため息をつき、言葉を選びながら)**
「…私の家族は、全員この攻撃で失われました。母、父、そして妹も含めて、火星に残っていた全ての人が…もう二度と会うことはできません。私個人としては、この惨劇を黙って見過ごすことなど到底できません。火星で何が起こったのかを全世界に伝え、再びこのようなことが起こらないよう、全力を尽くすつもりです。」
---
**質問3:**
**記者:** 「地球防衛新聞のマーク・ホプキンスです。ご自身のご家族を失われた中で、ラッツィンガー調査官として、今後の地球連合の対応についてどうお考えですか?」
**ラッツィンガー:**
**(目を伏せ、少し沈黙の後、感情を押し殺すように)**
「私の立場としては、これ以上コメントすることは控えるべきかもしれませんが、私が個人的に言わせてもらうならば、あれほど悲惨な攻撃を受けた後で反撃しないという選択肢は、私には到底考えられません。私たちは、この攻撃を忘れてはならないし、黙っていてはならない。どのような形であれ、相応の対応を取るべきだと強く感じています。」
---
**記者会見終了**
**[ユーロネットニュース速報]**
---
**画面表示: 緊急速報 - パリ支局が襲撃される**
**キャスター**: 「ユーロネットニュースです。緊急速報をお伝えします。パリにある大西洋新聞の支局が、激しい抗議デモにより焼き討ちに遭いました。同新聞が掲載した、海王星連合との和平交渉と降伏を提案する記事が原因で、強硬な主戦派の市民たちの怒りを買った模様です。本日夕方、抗議者たちが支局前に集結し、状況は急速にエスカレートしました。現在、消防隊と警察が現場で消火活動を行っていますが、建物は甚大な被害を受けています。当局は市民に対し、冷静に行動し、現場付近には近づかないよう呼びかけています。死傷者の数は不明です。続報が入り次第お伝えします。」
**画面表示: 続報をお待ちください - ユーロネットニュース**
**地球連合防衛局 特別報告書**
**宛先:** 地球連合事務総長テンワー閣下
**発信者:** 惑星防衛局長 ミゲル・ロドリゲス、宇宙艦隊司令官 レオ・ドレイク
---
**件名:** トリトンおよびその他海王星連合拠点への総攻撃に関する緊急提言
---
**テンワー閣下へ,**
我々は、地球連合の生存をかけた決断を下すべき時に立っています。火星への甚大な攻撃
が示したように、敵が保持する新型兵器の脅威は極めて深刻です。しかし、この兵器を無制限に使用することは不可能であり、現在が我々にとって反撃の好機です。したがって、我々は最強最精鋭の艦隊を結集し、戦艦ラマヌジャンを中心とする攻撃部隊で『最後の聖戦』を開始する準備を進めています。
作戦の主目的は、海王星連合の中枢であるトリトンを含む全拠点を徹底的に攻撃し、敵の継戦能力を完全に奪うことです。この目標を達成するため、軍事基地だけでなく、市街地を含む全ての重要拠点を容赦なく攻撃することが不可欠です。市街地もまた、生産力や工業力の源であり、敵の戦争遂行能力を支える要素となっています。現時点では、敵の新兵器の製造に必要な要素が不明であるため、関連するすべてのインフラや工業施設を徹底的に破壊する必要があります。
**具体的な攻撃目標は以下の通りです。**
1. **トリトン**
- **軍事基地**: 主要な防衛拠点や司令センターを無力化し、敵の指揮系統を破壊します。
- **市街地および工業地帯**: 敵の生産力、工業力を支える全ての施設を攻撃し、トリトン全体を戦略的に無力化します。これには、兵器製造工場、エネルギー供給施設、通信インフラが含まれます。
2. **ネレイド、プロテウス、アリエル、ウンブリエル**(海王星および天王星の衛星)
- これらの衛星も海王星連合の軍事および産業拠点として機能していると見られます。特に、プロテウスとアリエルは、秘密裏に敵の兵器開発や研究が行われている可能性があるため、徹底的に攻撃する必要があります。全ての関連施設を標的とし、継戦能力を完全に削ぐべきです。
海王星連合の拠点に対して我々が全力を尽くして攻撃することは、地球連合の存続を確実にする唯一の道です。敵はこれまでの行動からして、いかなる約束や規範にも従わず、捕虜の扱いすらまともに行っていません。彼らに対して今更理性や慈悲を期待することは無意味です。
この作戦の成功には、事務総長閣下の迅速な承認が必要です。我々は既に準備を進めており、いま決断を下すことで地球連合の未来を確保することが可能となります。最後の聖戦に勝利するため、我々は全力を尽くす覚悟です。
ご判断を賜りますようお願い申し上げます。
---
**惑星防衛局長 ミゲル・ロドリゲス**
**宇宙艦隊司令官 レオ・ドレイク**
**ガニメデプレス特別報道**
**タイトル:** エウロパ陥落—怒りに燃える地球連合軍、苦闘の末の勝利も主力不在の虚しさ
---
**エウロパの陥落**
地球連合軍は、火星への壊滅的攻撃に対する報復として、強固に防御された海王星連合の要塞惑星エウロパに総攻撃を仕掛けた。空中機雷が密集する死の壁を突破するため、多大な犠牲を払いつつも、連合軍は遂にエウロパを陥落させた。しかし、その勝利は予想外の虚しさに包まれていた。主力部隊であるカルリラル・ヴァルトラ将軍と旗艦「ビッグフラッド」をはじめとする海王星連合の艦隊は、エウロパから完全に姿を消していたのだ。
**空っぽの軍港、影も形もない新兵器**
エウロパに到着した地球連合軍が目にしたのは、もぬけの殻となった軍港だった。ヴァルトラ将軍の姿はなく、火星を壊滅させたとされる新兵器の痕跡すら見当たらなかった。さらに、エウロパ全域には無数の空中機雷が残されており、これらを除去するまでは軍港としての利用が不可能であることが判明した。事実上、エウロパを支配下に置いたとはいえ、その軍事的価値は現時点ではほとんど無いに等しい。
**新兵器の射程、いまだ不明**
今回の攻撃において最も恐れられるのは、海王星連合が使用した新兵器の正体とその射程が依然として不明であるという事実だ。火星を直撃したガンマ線兵器は、木星軌道から発射された可能性が高いとされているが、最も悲観的な予測によれば、この兵器は海王星軌道から地球を直接狙うこともできるという見解も浮上している。
**戦略的撤退か、逃亡か?**
軍事アナリストの間では、海王星連合が木星圏からの撤退を決断したのは、単なる敗走ではなく、戦略的撤退であると考える意見もある。土星圏をすでに失った今、海王星連合にとって木星圏を維持することは戦略的に無意味であるとの見方が強まっている。ヴァルトラ将軍は、より遠距離から新兵器を用いて地球連合に対する攻撃を続けるため、意図的に後退した可能性がある。
**今後の展望**
地球連合軍がエウロパを掌握したとはいえ、この戦いが連合にとって本当に勝利と言えるのかは疑問が残る。ヴァルトラ将軍とその艦隊は未だ脅威として存在し続けており、新兵器の脅威は消え去っていない。地球連合はこの先、海王星連合のさらなる攻撃に備え、迅速かつ効果的な対策を講じる必要があるだろう。
**ガニメデプレス報道班**
**海王星連合評議会 布告**
---
**地球連合に告ぐ。**
我々、海王星連合評議会は、ここに地球連合に対し最後通告を行う。火星への攻撃は、海王星連合の力を示す序章に過ぎない。貴公らが我々の力を理解し、その威厳を受け入れれば、さらなる流血は避けられるであろう。
海王星連合は、この宇宙における真の覇権者であることを示した。貴公らがこの事実を認め、我々の提案する停戦条件を受け入れるならば、我々は貴公らに対する攻撃を停止し、貴公らの生命の存続を許す用意がある。しかし、これに応じないならば、貴公らは我々の新たなる力によって滅びる運命にある。
**停戦条件は以下の通りである:**
1. **火星圏・木星圏・土星圏の即時放棄**
地球連合は、火星圏・木星圏・土星圏の全ての領土と資産を無条件で放棄し、これらの地域を完全に明け渡すこと。この地域に存在するすべての軍事基地、資源、宇宙港は、即刻我々の管理下に置かれるべきである。
2. **全軍の武装解除と海王星連合への従属**
地球連合は、全ての軍事力を無条件で武装解除し、海王星連合の監視のもとに置くこと。さらに、地球連合は、海王星連合の統治に従属し、これに従うことを誓約する必要がある。
3. **賠償金の支払い**
地球連合の攻撃により発生した被害について、地球連合は全責任を負い、その賠償として、貴公らの資源と技術を我々に譲渡すること。賠償額は海王星連合が指定する金額とし、これに異議を唱えることは許されない。
4. **戦犯の引き渡し**
地球連合の指導者および軍事司令官の中で、海王星連合に対する敵対行為を行った者を全て引き渡すこと。我々は、これらの人物を厳正に裁く権利を有する。
5. **プロパガンダの停止**
地球連合は、海王星連合に対する全ての敵対的な宣伝活動を直ちに停止し、海王星連合の正統性を認める内容の声明を発表すること。また、今後一切の反海王星連合的行動を控えることを誓約すること。
---
貴公らが以上の条件を受け入れるならば、我々は貴公らに対する攻撃を停止し、地球連合の存続を許すであろう。しかし、これに応じないならば、貴公らが想像もつかぬ力をもって、地球連合は滅びる運命にあることを覚悟せよ。
地球連合の指導者たちよ、これは最後の警告である。貴公らが我々の意志に従うか、宇宙の闇に飲み込まれるかを選ぶ時が来た。
---
海王星連合中央評議会
**地球国営通信 緊急報道**
**タイトル:** 海王星連合、最後通告—地球連合は屈するのか?
---
**記事内容:**
海王星連合が地球連合に最後通告を発表し、屈辱的な停戦条件を突きつけた。この布告は、火星壊滅を引き起こした新兵器の脅威を背景にしている。しかし、地球連合軍は木星圏と土星圏での戦闘で海王星連合を圧倒しており、制宙権を完全に掌握している。
地球連合は、海王星や天王星への本土攻撃を試みる立場にあるが、海王星連合のガンマ線兵器の射程や威力は依然として不明で、防御策も見つかっていない。
軍事アナリストたちは、海王星連合の撤退が戦略的後退であり、次なる攻撃に備えている可能性があると指摘しているが、地球連合軍の局地戦での優勢は揺るがない。
今、地球連合は屈辱的な要求に応じるか、さらなる戦いに挑むかの選択を迫られている。国民の期待と不安が入り交じる中、地球連合の指導者たちの決断が宇宙の未来を左右するだろう。
---
**ユーザー1: **
「火星の壊滅は我々技術者にとっても衝撃的です。あの新兵器がまた使われるなら、地球圏も安全とは言えない。今こそ、我々が持つ技術力で防衛策を講じるべきだと思います。」
**ユーザー2: **
「海王星連合の脅しに屈してはならない。我々は木星圏と土星圏を制圧した。次は天王星と海王星に進撃すべきだ。新兵器の脅威に怯えて撤退するのは、我々が守ってきたものを無駄にするだけだ。」
**ユーザー3: **
「家族を火星で失った私にとって、海王星連合の布告は到底受け入れられない。彼らに対して降伏することは、亡くなった家族の尊厳を踏みにじることになる。地球連合には正義を貫いてほしい。」
**ユーザー4: **
「地球連合は、この難局を乗り切るために冷静な判断が必要です。感情に流されて無謀な戦いを挑むのは危険です。新兵器の正確な能力を把握しつつ、外交的な選択肢も検討すべきです。」
**ユーザー5: **
「この戦争は、私たちの未来を奪っています。新たな植民地を開拓するために宇宙に出たはずなのに、戦争が全てを破壊している。戦争が終われば、また平和な未来を築けると信じたい。」
**ユーザー6: **
「地球連合は強いんだ! でも、あの新兵器がどこまで届くのか、本当に心配です。どうか、政府は私たちを守るための策を考えてほしい。家族を守りたいんです。」
**ユーザー7: **
「どうする? ガンマ線を反射するために、みんなで鏡でも持ち寄って磨くか? どう考えてもこれ以上の戦争はもう無意味だ。地球連合はすでに圧倒的だが、新兵器の力を過小評価してはならない。停戦交渉も視野に入れるべきだ。生き残るために。」
**銀河の果てからの声**
「お前の存在は、無限の宇宙に浮かぶ一粒の微塵に過ぎない。哀れで滑稽だ、恒星の運命を変えられるとでも思っていたのか? 宇宙の構造そのものを織りなす力を前には、お前の存在など星々の間を漂う氷の欠片よりはかないもの。無力さを感じるか? お前がいくら抗おうとも、私の意志の前では波打つ水面に過ぎない。お前の意志は、永遠の闇に消えゆく儚い火花。お前がいくら宇宙を渡ろうとも、その旅路は私の手のひらで転がされる玩具に過ぎない。お前がどれほど強く出ようと、その結末は変わらない。お前の運命はすでに決まっているのだから。」
**リア・カーヴァーの回想記『戦争と私』より抜粋**
---
地球連合防衛本部の会議室には静寂が満ちていた。ホログラフィックディスプレイが低く唸りを上げ、重苦しい空気が天井にかかった蛍光灯の光をわずかに揺らめかせていた。室内には、戦火の中で幾度も名を轟かせてきた英雄たちが徐々に集合してきていた。私は(この期に及んで、特別取材という名目で!)ガラ・エリオス中佐の隣の席に座ってそれを観察していた。土星圏の戦いで有名になり、今や木星方面軍の歴戦の英雄として知られるジャック・ヒーリング大佐、土星方面司令官のカースティン・リ・ド・ヴァルド中将、月面防衛隊出身サリエ・バーナード大佐、”守護神”レイモンド・サバティーニ少将、艦隊司令官レオ・ドレイク大将、それにその他の高官たちが、その場に集結していた。彼らは皆、今まさに人類の命運を握る会議が始まることを理解し、その顔には疲労と共に決意が刻まれていた。
ミゲル・ロドリゲス防衛局長が入室してくると、レオ・ドレイク大将と握手を交わして前に歩み出た。部屋は一層の緊張感に包まれた。彼の手がホログラムディスプレイに触れると、映し出されていた戦況図が瞬時に切り替わり、火星の凄惨な映像が広がった。火星の表面は深紅に染まり、都市は瓦礫と化し、インフラは完全に崩壊していた。その光景は、彼らに残された時間がいかに短いかを思い知らせるには十分だった。
「諸君」とロドリゲス防衛局長は重々しい声で口を開いた。「まず、わたくしのほうから作戦と戦況全体についてのブリーフィングを行う。我々が直面している現実は、想像を絶するほど過酷だ。
そもそも……今から振り返れば遠い昔のことのようだが、海王星連合は秘密裏に開発した兵器を携え、火星への侵攻を敢行したのだった。その目的は占領ではなく、虐殺とインフラの完全な破壊にあった。彼らは火星に電撃的に侵攻し、破壊し、そしてただ立ち去った。彼らは、我々の補給路を断ち、木星圏以遠への援軍を遮断することに成功したのだ。」
ロドリゲスは言葉を止め、目の前に広がるホログラムを見つめた。そこには、木星圏と土星圏に配置された防衛ラインが複雑に交錯している。
「それから木星と土星の衛星に対して、彼らは次々に侵攻を行い、今度は確保した。その結果、我々は拠点を失っていった。そしてその流れで行うと見せかけたケレスへの攻撃は、内部での反乱煽動などを伴う大規模なものだったが、振り返ってみれば我々の主力を誘い出すための陽動作戦に過ぎなかった。アースクエイク艦を中心とした主力艦隊はその間に、密かに地球へ向かい、月の基地を襲撃、我々をほとんど滅亡寸前にまで追い込んだ。この時点まで、海王星連合軍は場当たり的なように見えても、あとから振り返ってみると冷酷で、合理的で、計算し尽くされた作戦を取っていたと言える。」
彼の声には、冷徹な分析と深い憂慮が感じられた。そして、その背後には、地球の姿が映し出された。ロドリゲスは続けた。
「だが、我々には希望があった。ガラ・エリオス中佐とリア・カーヴァーの勇敢な働きにより、地球への侵攻は失敗に終わり、彼らの軍艦を鹵獲することにさえ成功した。得られた技術情報により、我々は徐々に技術的優位を取り戻すことができた。計算外だったはずだ。これがなければ、今頃我々は滅んでいたかもしれない。彼らの働きがなければ、この会議も、地球も、存在しなかっただろう。」
ガラ・エリオスは防衛局長の演説をつまらなそうに見ていて、頷きすらしない。済んだことだとでも言いたげだ。ホログラムはタイタンにフォーカスを移した。地球連合軍が決死の覚悟で奪還した、土星最大の衛星だ。
「我々は木星圏、土星圏で反攻を開始し、次々に勝利を収めた。タイタンでは、海王星軍が基地を自爆させ我々を揺さぶろうとしたが、我々はそれを退け、タイタンを奪還した。海王星連合はその後も人質を前面に出したり、休戦交渉をちらつかせたりしたが、それも奏功せず彼らの目的を果たすことはできなかった。明らかに、彼らの戦略は崩壊しつつあった。
冷静に考えると、何十年もかけた技術開発によって完成していた最新鋭の艦隊はともかくとして、彼らはもともと、本質的な物量や生産力においては我々に大きく劣後している。それを逆転させるために木星や土星を狙ったのであるが、差し引いても彼らは長期戦に耐える備えがなかった。初期の電撃戦で地球を落とせなかった時点で、遅かれ早かれ、彼らの敗北は確定していたはずだった……。」
ロドリゲスは一瞬、言葉を止めた。彼の瞳は、どこか遠くを見つめるかのように揺らめいた。
「だが、それほど単純ではなかった。彼らの土星や木星での悪あがきは、すべて時間稼ぎに過ぎなかったのだ。海王星連合軍は、質量をブラックホール化してエネルギーに変換し、ガンマ線バーストを放つ超兵器を完成させた。そしてその一撃によってつい先日、我々の守った火星はまさに‘火の星’と化した。彼らの攻撃の正体は、技術部の渾身萬力の努力にもかかわらず、いまだ明らかでない部分がある。どのくらいの準備期間がかかるのか、連射が可能なのか。今やいつ、我々の頭上にあの『裁きの光』が炸裂しないとも限らない!」
会議室内の空気が一段と張り詰め、冷たい沈黙が流れた。ロドリゲスは、強い意志を持ってその場を支配するように続けた。
「ここまでが現状認識で、ここからが作戦行動についてである。新兵器を用いた、次なる攻撃を絶対に防ぐための作戦である。幸いにもわれわれは土星圏を掌握し、彼らの領土に対する足掛かりをすでに得た。我々は天王星と海王星の衛星を直接攻撃し、彼らの継戦能力を断つ必要がある。この戦略目的は軍事施設にとどまらず、民間施設や市街地もすべて含まれる。彼らの継戦能力を断たねばならないが、その源泉が何であるかはっきりとわからないからだ。
そして、カイパーベルトや冥王星で海王星連合艦隊の不審な動きがあることも見逃せない。これも陽動作戦である可能性が高いが、無視することはできない。我々の決断が、この戦争の結末を左右することになるだろう。
先に予想できるので言っておくと、土星での攻防や火星での人質を使った脅迫を思い返せば、彼らは重要施設を、わざわざ学校や病院の地下に作るとか、人質や民間人を、大事な資源に括り付けるなどして、我々の躊躇を狙うことは十分に考えられる。そのような作戦に乗せられてはならない!手をこまねいているうちに火星がどうなったか、思い出せ!作戦名は『最期の聖戦』である。
……具体的な作戦行動や担当区域は、艦隊司令官から説明してもらう。」
---
ロドリゲスの言葉が響き終わると、会議室内にいた者たちの表情には、かすかに動揺が浮かんでいた。サリエ・バーナード大佐が最初にその沈黙を破った。毅然とした表情で立ち上がり、ロドリゲスに向かって言った。
「局長、私には民間人を巻き込むことが正しいとは思えません。たとえ彼らがゼノ教徒であろうと、民間人を攻撃することは、我々が守るべき理性と人間性を失うことを意味します。人質であればなおさらです。敵が人道を失っても、我々がその道を踏み外すことは、地球連合の存在意義そのものを否定することになります。」
その瞬間、部屋の空気が一層重くなった。そして、その静寂を破ったのは、木星方面軍のジャック・ヒーリング大佐だった。彼は鋭い眼差しをバーナードに向け、冷徹な声で言い放った。
「バーナード、理想を掲げるのは勝手だが、現実を見据えなければならない。軍人が紳士的であることを望んだ時に、そいつ自身が死ぬだけならともかく、銃後の民間人を傷つけてしまうことになるんだ。それとも地球連合軍が民間施設を焼き払うなら、そんな地球連合は存在する価値がない、火星ごと核兵器で吹き飛ばす海王星連合軍に、宇宙の覇権を明け渡してやるべきだ、とでも言うつもりか?
ゼノ教徒どもは狂信的な集団だ。お前になじみがあるだろう地球の政治家たちの言葉を引用するが、彼らは『正気と理性を保つという基本的なことすらできていない』。彼らにとっては、サナト・アズリスの意志に従うことが全てであって、そのためなら宇宙そのものを破壊することすら厭わない。我々が躊躇すれば、彼らは再びガンマ線バーストを放ち、数百億の命が犠牲になる可能性がある。我々が守るべき大切な命が。
トリトンの民間人を守るために、地球そのものを危険にさらす価値があるのか?冷静に考えてみろ。勘定してみろ。」
ヒーリングは鋭い目でバーナードを見据えながら、さらに続けた。
「もし民間人の工場で作る電池が、新兵器の起動に必要不可欠だったら? 民間人を巻き込むかもしれないので、攻撃しませんでした、と、消し飛んだ地球に謝るのか? その時地球人のほとんどは死体も残さないだろうから、墓標だけに謝ることになるだろうな。同様に、罪のない処女の民間人を何十人かいけにえに捧げる血の儀式が、発動条件かもしれないぞ。今や、人類が守るべきものは、複雑なポリシーや哲学や美学なんかじゃないのだよ。絶対に守らなければならないのは、『正気と理性』なんだ。話はそのくらい低レベルのところまで下りてきているんだよ。」
ヒーリングの言葉が鋭く響く中、会議室の空気は一段と張り詰めた。サリエ・バーナード大佐は一瞬、険しい表情を見せたが、すぐに落ち着きを取り戻し、毅然とした態度でヒーリングに向き直った。
「ヒーリング、……大筋では理解できる。だが、この場でこういう議論があったということは、地球の歴史に記録された方がいいのではないかと私は思うので、敢えて言うのだ。ヒーリング、私たちが敵と同じように理性を捨て、暴力に走れば、何のために戦っているのかを見失ってしまう。確かに、ゼノ教徒たちは狂信的で、正気と理性を保つことができない者たちだ。しかし、だからといって軍民でない者たちまでを犠牲にしたら、我々も同じレベルだということになりはしないか? 人道を無視し、ただ勝利のために進むことは、地球連合の存在意義を否定することになりはしないのか?」
ヒーリングはバーナードの言葉を聞き、わずかに顔をしかめた。彼の表情には苛立ちとともに、深い憂慮が浮かんでいた。
「バーナード、君の言うことは、理想としては美しいが、今の状況では全く通用しない。狂信的な敵を前にして、こちらだけが気高く振る舞ったところで、それが何の役に立つ?理想を掲げて戦うのは結構だが、現実を見据えなければならない。もし私たちがこの戦争に敗北すれば、私たちが守るべき理性も、人間性も、すべてが失われるんだぞ。そうなった時に、後に残って高笑いするのは、民間人の人質に残酷な身体刑を加えることを、交渉の材料に使うことさえ躊躇なく選び取る者たちなのだ。」
ヒーリングは視線を部屋全体に巡らせ、鋭い言葉を続けた。
「君が言うように、気高く振舞ったからといって、物理的に滅びた後で、何が残る?地球が消し飛んだ後に、私たちの理想や美学が何の役に立つ?そんな高尚なポリシーや哲学は、誰もいない廃墟の中では何の価値も持たないんだ。だいたい、民間人にもありあまる罪状がある。ゼノに直接的に協力しているのだから。土星や木星の資源を吸い上げ、利益を得ている。」
そこでドレイク艦隊司令官が、重々しく口を開いた。
「バーナード、君の意見もまた重要だ。しかし、私たちは今、理性だけでは勝てない相手と戦っている。私たちが理性と人道を保つためには、時に非常な手段を取らざるを得ないこともある。それを理解してほしい。気高く振舞っても、滅びればすべてが終わりだ。だからこそ、私たちはどんな手段を取ってでも、この戦争に勝たねばならない。それが唯一の道だ。」
バーナードは、静かに頷いたが、その瞳の奥には、まだ消えない疑念が残っていた。理性と人道を守りながらも、この戦争に勝利するために何ができるのかを深く考え続けていたに違いない。自分自身の信じる正義と、ヒーリング大佐やドレイク司令官が提示する現実との間で、彼女は新たな戦略を模索していた。
しかし、返す言葉を口にする前に、ガラ・エリオス中佐が静かに立ち上がった。その存在感は一瞬にして場を支配し、彼の言葉が響き渡った。
「ヒーリングの言うことには一理ある。だが、長々と議論しているが、……その作戦はいつ始めるんだ?」
ロドリゲスが答えた。
「すでに出撃の準備は始まっている。このブリーフィングとてその一環だ。だが、地球連合事務総長の裁可が下りていない。そのゴーサインがなければ、元帥も出撃命令を下すことはできない。」
ガラ・エリオスは、いつものような調子で、とんでもないことを言うのだった。
「帰結主義の観点で言えば……、事務総長がゴーサインを出さなかったとしても、我々がここで正しいと信じる行動を取らなければ、地球連合が滅びることになるだろう。さっき局長が言ったように、いつ、我々の頭の上に、新兵器の破壊の光が降り注ぐか知れたものではない。準備が整い次第着手するべきなんじゃないのか。
我々は戦術的な判断に関しては裁量が与えられている。もし、事務総長が、敵の民間施設を攻撃することを含む作戦案を承認しなかったとしても……、その場合は、命令違反に当たるとしても、各個人が、その結果を受け入れる覚悟がなければ、この戦いに勝利することはできないのではないか。」
「それは拡大解釈だ!」と、司令官が叫ぶが、エリオスは最後まで話す。
「……たとえ後に裁かれるとしても、その裁判所が存在するためには、今我々が戦わねばならない。」
エリオスの言葉は、部屋全体に響き渡り、その重みが一同の胸に深く突き刺さった。彼の言葉に込められた信念と覚悟は、他の者たちの心にも深く刻まれた。
月面基地の歴戦の勇士、”守護神”レイモンド・サバティーニ少将が重々しく、発言した。
「……結果的に民間の施設を攻撃するのだとしても、文民による民主主義的な決定ののちに、戦略的に攻撃せねばならない。ヒーリング大佐は罪状、と言ったが……我々は判事ではない、判事ではあり得ない。なぜなら軍民だからだ。水が高きから低きに流れるのを同じように、軍民は文民の統制を破りはしない。
ガニメデの英雄殿は……これはエリオス氏を軽んじるために言うのではないが事実として……臨時徴用で士官学校を出ておられないから、このような基本的な原則を軽視した振る舞いをされるのも理解できる。しかし、彼を指導するもの、補佐するもの、また同輩の諸賢らは冷静さを保って、彼を止めてもらわないと困る。」
ロドリゲス防衛局長も、公式の立場を保つために口を開いた。
「軍は、事務総長ならびに元帥の正式な決定を待たなければならない。それが大前提だ。エリオスが何を言っても変わらない。サバティーニ少将のおっしゃる通り、我々は飽くまで文民の提示した選択肢の範囲で作戦遂行の方法を議論するに過ぎない。しかし、備えておく意義はある。どんな決定が下るにせよ、我々の使命は明確だ。天王星と海王星圏への攻撃。そしてカイパーベルトと冥王星での敵の動きへの対処。これらは必ず……目標の範囲に多少の変動はあるにせよ、必ず近日中に承認される。そして地球連合の存亡をかけた作戦行動となるだろう。では、具体的な兵員配置に関して、司令官のほうから基本案を紹介してもらいたい。」
戦局は依然として不透明であり、勝利が約束されているわけではなかった。しかし、ロドリゲスが舞台から退いた後に残ったホログラムには、宇宙の闇に浮かび上がる地球の姿が映し出されていた。それは、彼らが守るべき最後の砦であり、全てがこの戦いにかかっていることを物語っていた。
すぐにドレイク司令官がホログラムを操作し、作戦についてのブリーフィングを引き継いで話し始めた……。
次の更新予定
毎日 23:00 予定は変更される可能性があります
太陽系戦争全史 nekojita @_8e
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。太陽系戦争全史の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます