3章 絶対的清浄救世天サナト・アズリス


**海王星連合軍 事後報告書**

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### タイフーン撃墜時のカルリラル・ヴァルトラ将軍の行動報告

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**報告者**: カルリラル・ヴァルトラ将軍

**搭乗艦**: 中規模艦シグレ(NS-47型)

**作戦名**: ケレス防衛戦

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**概要**

ケレス宙域にて、海王星連合の主力戦艦タイフーン(NWS-88型)が敵の攻撃により撃墜される事態が発生しました。我々のレーザー攻撃(セレスティアル・ビームキャノンM-200型)は全く通用せず、敵機の視認すらできない状況に直面しました。このことから、敵が我々と同じ光子透過式ステルス機を使用している可能性が示唆されます。

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**敵機の特性分析**

敵機が新開発のものか、我々のステルス機が鹵獲されたものであるかは不明です。現在運用されている我々の光子透過式ステルス機には、ヴェールシャドウX-12型、ゴーストファントムR-9型、ナイトメアフレアV-15型などがありますが、これらについては撃墜はともかく、不時着や鹵獲されたという報告は見つけられませんでした。さらに、海王星連合軍の特性上、裏切り者が出ることも考えにくいです。

我々の機体であれば、通常の設定により波長が調整されているため、我々の空母から視認でき、友軍信号も反応するはずですが、それらの兆候は一切確認できませんでした。これらの点から、敵が独自に光子透過式の新型機体を開発した可能性が高いと判断されます。

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**戦闘行動**

タイフーンの撃墜を受けて、シグレの指揮下で迅速に対応策を講じました。敵機の特性を踏まえ、タイフーンの残骸周辺に待ち伏せを行い、シグレの搭載熱線砲「キタカゼ」(TH-56型)を使用してタイフーンの反応炉(高速充填式アインスタイニウム反応炉5式)に熱線を撃ち込み、物理弾の大爆発を誘発する作戦を立案しました。

作戦立案後、シグレの砲塔操作手順に従い、「キタカゼ」のターゲティングシステムをタイフーンの残骸に固定し、砲塔を起動。ステルス機のシールドが相対的に弱い点を利用して、爆発での撃破を狙いました。

幸運にも、濃い煙の中に敵機の形がかすかに視認されました。距離が遠く狙い撃ちの可能性は低かったものの、条件は整っていました。しかし、敵機は我々が攻撃を仕掛ける前に、急激に進路を180度転換し、地球方面へ飛び去りました。

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**結論**

今回の戦闘から、敵が我々と同等かそれ以上のステルス技術を有している可能性が浮上しました。この事実により、従来の戦術が通用しないことが明らかとなりました。次回の作戦では、敵の新たな特性に対応するための対策が急務です。


**カルリラル・ヴァルトラ将軍**








**リア・カーヴァーの回想記『戦争と私』より抜粋**

ずっとあとでわかったことだが、もしあの瞬間にガラ・エリオスが地球に向かわず、戦艦や巡洋艦をもう1隻でも落とそうとしていたら、全く別の運命が待ち受けていた。海王星連合の悪名だかきカルリラル・ヴァルトラ将軍はタイフーンの反応炉爆破による「空間焦土作戦」という大規模で破滅的な攻撃を準備しており、それが発動されていたなら、いかにガラ・エリオスでも生き残ることは不可能だった。

その危機を回避できたのは、ガラの声の指示でも、運命の導きでもなく、ただの偶然によるものだった。私たちの生存は、戦場の混乱の中で生まれた一瞬の選択に過ぎなかったのだ。あの瞬間の偶然が、私たちの命を救い、そして戦争の行方を大きく変えた。






















**ラジオ討論番組**

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**ルテオ・ナバ(大学教授)**: 確かに、ガニメデの英雄による局所的な勝利は評価すべきです。しかし、技術の格差があまりにも大きく、戦況は絶望的です。私たちはまず、人質奪還と停戦交渉に注力するべきです。海王星連合とパイプのある知識人を交渉に用いることで、対話の可能性を模索することが重要だと思います。

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**カイディアン・ブレイド(政治家)**: ルテオ教授、現実を見てください。海王星連合軍は捕虜を取ることもなく惨殺しているのです。交渉の余地などありません。私たちはケレスや火星、地球の防衛を固めることだけを考えるべきです。そもそも、海王星連合のやっていることは許されることではなく、その海王星連合にパイプがあるという内通者も同罪です。

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**サム・ジャメスター(エネルギー・通信会社の社長)**: 私の産業はこの危機において極めて重要です。エネルギーと通信がなければ、戦争はおろか、日常生活すら維持できません。政府から強力な支援を受けるべきだと考えています。エネルギー供給と通信インフラの維持は、国家安全保障の観点からも最優先事項です。

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**ルテオ・ナバ**: ブレイド氏、確かに現状は厳しいですが、それでも交渉の道を閉ざすべきではありません。歴史が示すように、どんなに困難な状況でも対話のチャンスは存在します。海王星連合の内部にも、理性的な対話を求める勢力がいるかもしれないのです。

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**カイディアン・ブレイド**: ルテオ教授、あなたの理想は理解しますが、今は現実の脅威に対処することが先決です。防衛を強化し、国内の安全を確保することが最も重要です。そして、内通者や敵と繋がりのある者は厳しく対処しなければならないのです。

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**サム・ジャメスター**: 私の会社が提供するエネルギーと通信がなければ、戦略的な防衛や対策も立てられません。政府は、我々の産業に対する支援を強化し、安定した供給を維持するための対策を講じるべきです。












**ヒーローエナジーCM**

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(シーン:壮大な宇宙背景に、ガニメデ宙域戦の映像が流れる)


**ナレーション**: 「宇宙の英雄、ガニメデの戦場で輝くその勇姿を、あなたも体感しませんか?」


(シーン:激しい戦闘の合間に、ガラ・エリオスのシルエットが映る)


**ナレーション**: 「飲んでガラ・エリオスを応援しよう!その名もヒーローエナジー!」


(シーン:冷えた缶が宇宙空間で浮かび上がる)


**ナレーション**: 「エナジーが欲しい?それならヒーローエナジーで決まりだ!」


(シーン:人々がエナジードリンクを手に取り、一口飲むシーンが次々と映る)


**ナレーション**: 「強力なブーストで、どんな挑戦も乗り越えられる!」


(シーン:若者がヒーローエナジーを飲んで元気いっぱいに活動するシーン)


**ナレーション**: 「ガニメデの英雄に続け!あなたもヒーローに!」


(シーン:再びガニメデの戦場に戻り、ガラ・エリオスのシルエットが誇らしげに立つ)


**ナレーション**: 「ヒーローエナジー。今すぐお近くの店で手に入れよう!」


(シーン:缶のクローズアップ、パッケージには「ヒーローエナジー」のロゴと輝くデザイン)


**ナレーション**: 「ヒーローエナジー。あなたの毎日に、エナジーを。」


(画面が暗転し、最後に「※本製品はガラ・エリオスおよび地球連合からの許可を受けていません」の小さなテキストが表示される)


**ナレーション**: 「ヒーローエナジーで、今日も戦おう!」









**【Evolution】からの抜粋**

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**進化心理学と道具の発明に関する誤解**

大昔には、道具を使い始め、発明までできたために、人類の頭脳は進化したのだと言う者がいた。今でもそのように誤解されていることがある。しかし、道具を発明できた者が多く子孫を残し、繁栄できたなどということは、理論的にも、また証拠からみてもありえない。

まず、道具は一度発明されれば、誰でも使うことができる点を考慮する必要がある。敵でさえ、それを奪って使うことができる。このため、道具の発明自体が発明者個人に特別な繁栄の機会をもたらすことはない。

さらに、群れの中で発明者だけがより多くの異性をあてがわれ、あるいは異性から魅力的だと考えられ、より多くの子孫を残せるということは到底考えられない。実際、道具の発明が群れ内での社会的地位に直接的な影響を及ぼしたという証拠は存在しない。

したがって、技術の格差というのは、十分な淘汰圧にはなり得ない。道具の発明そのものが進化の直接的な駆動力となるという考え方は、理論的にも証拠から見ても支持されないのである。

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**【Evolution】学術雑誌**

**著者 ミホコ・ムドウ・サイト教授**

















**地球連合軍 督戦官ギオ・センヂャトリの意見書**

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**件名**: ガラ・エリオスの命令違反について

**宛先**: 地球連合軍司令部

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**背景**

ケレスの戦闘において、ガラ・エリオス少佐が海王星連合の戦艦を撃墜し、鹵獲したステルス機を用いて大きな戦果を上げたことは、連合軍全体にとって大いに称賛されるべきである。しかし、ここに述べる事態は、その戦果とは無関係に重大な問題を引き起こしている。

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**事実**

ケレスの戦闘終了後、連合軍の指揮官からガラ・エリオス少佐に対し、鹵獲したステルス機をリバースエンジニアリングのために研究施設に引き渡し、通常の機体に乗り換えるよう正式に勧告がなされた。しかし、ガラ少佐はこの命令に違反し、鹵獲機のまま地球に向けて出撃した。

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**問題点**

1. **命令違反**

  ガラ少佐の行動は明確に軍の命令に違反しており、これを許容することは軍全体の規律に悪影響を及ぼす。特定の個人が命令を無視することが許される前例を作ることは、今後の作戦行動において深刻なリスクを伴う。

2. **技術情報の喪失のリスク**

  鹵獲したステルス機は海王星連合の最新技術を含む貴重な情報源であり、これを安全な研究施設で解析することは地球連合軍の技術的優位性を確保するために不可欠である。ガラ少佐の行動により、この機体が再び敵の手に渡る危険性が高まった。

3. **作戦安全のリスク**

  ガラ少佐が鹵獲機を使用し続けることで、その技術的脆弱性や欠陥が未確認のままとなり、少佐自身やその周囲の部隊の安全を脅かす可能性がある。

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**提案**

ガラ・エリオス少佐の行動は重大な規律違反であり、これを見過ごすことはできない。よって、ガラ少佐を軍法会議にかけ、適切な処分を下すべきである。また、鹵獲機の回収と研究施設への送致を速やかに実行し、技術解析を開始することが急務である。

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**結論**

ガラ・エリオス少佐の命令違反は重大な問題であり、軍規律と技術的優位性の維持のためにも、軍法会議で厳正に対処することを強く求める。

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**ギオ・センヂャトリ**

**地球連合 督戦官**

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政治家ジェイソン・レッドフィールド回顧録『レーザービーム』より抜粋


軍隊にいた時、本物の英雄と顔を合わせたことがある。ガラ・エリオス、ガニメデの英雄。そこは戦闘の場ではなく、火星のとある軍の食堂だった。あの激しい太陽系戦争の攻防戦がひと段落して、木星圏の攻防が始まっていた時期だった。


私たちの部隊が休息を取っていたところに、彼がふらりと姿を現した。彼は、他の兵士と同じく、普通の食事を取っていた。何の任務で来ていたのか、わからない。誰もが彼に注目し、何か話しかけようかと躊躇していた。

私は彼の隣に座った。英雄と直接会う機会はそうない。


「活躍は聞いております、ガラ・エリオス少佐。自分はジェイソン・レッドフィールド少尉です。……少佐は何故、あんなに勇敢に、命を懸けて戦えるんですか?」


彼は黙って食べ続けた後、ようやく答えた。


「なんで戦ったかって……? この状況で戦わないことができるやつが居るのか?」


そのぶっきらぼうな返答に、少し驚いたが、続けて聞いてみた。「家族を守るためとか、そういう理由があったんですか?」


彼はフォークを置き、少し考えるような表情を見せた。「いや、俺は孤児だ。家族も故郷もない。けちな傭兵団で下働きをして生きてきた。だが、いみじくも、戦う力を持っていて、目の前で戦えない人がやられているのに、黙っていられる奴がいるか?」

大抵の人は……実際には、黙っていられる。という言葉を私は飲み込んだ。

彼の言葉には、特別な感情はなく、誇張もなかった。ただ、そう感じたから戦っただけなのだ。


「誰だって」と彼は続けた。「誰だって、目の前で酷いことが起きてたら、立ち上がるだろう。俺はたまたま、その場にいただけだ。」


彼が立ち去った後、私はぼんやりとその事実を反芻していた。つまりガラ・エリオスは、特別な背景を持っていない。

英雄になるためには、特別な過去は必要なく、火星で失った肉親も必要なかったのだ。誰だって、目の前で極悪非道な行いを見たら、立ち上がりたいと思うだろう。そして、実際に立ち上がったただの一個人こそが、本当の意味での英雄となるのだ。















### 英雄ガラ・エリオスに迫る:リア・カーヴァーの独占インタビュー(編集部の判断により未掲載)

*リア・カーヴァー*

ガニメデとケレスでの激戦の後、ステルス機の中で私は英雄ガラ・エリオスにインタビューを試みました。以下はその一部始終です。


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#### ガニメデとケレスでの戦いについて

私はまず、ガニメデとケレスでの戦いについて彼の所感を尋ねました。しかし、彼は窓の外を見つめたまま答えませんでした。さらに、彼の戦術の独創性や、多くの人々の命を救ったことについても質問しましたが、彼の反応はありませんでした。


#### 何故この戦いに身を投じたのか

次に、彼が何故この戦いに身を投じたのか、火星の虐殺や海王星連合軍についてどう思っているのかを尋ねました。しかし、ガラは再び無言でした。しびれを切らした私は、彼のリスクを冒す理由や目的についても質問しましたが、返答はありませんでした。


#### ガラからの逆質問

突如、ガラは私に向き直り、逆に質問を始めました。


ガラ:「お前はどこから来たんだ?」


私は「地球出身です。ジャーナリストとしてこの戦争を取材しています。」と答えました。


次に彼は、「俺が誰かわかっているのか?」と尋ねました。


私は「あなたはガラ・エリオス、対宇宙海賊の傭兵で、今は地球連合のために戦っている英雄です。」と答えました。


最後に彼は、「お前は良い者か、悪者か?」と聞いてきました。


私は一瞬言葉に詰まりながらも、「私は…良い者であると信じています。少なくとも、真実を報道し、人々に情報を届けることが私の使命です。」と答えました。


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ガラ・エリオスはその後、再び沈黙しました。彼が抱える重い使命感と謎めいた背景に私は強い興味を覚えました。彼は単なる戦士ではなく、何か大きな目的や背景を持っているように感じます。彼の真実を探るため、さらなる取材を続けることを決意しました。


*リア・カーヴァー*













### 回想記「戦争と私」抜粋

*リア・カーヴァー*

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#### 地球へ

ガニメデとケレスでの激戦の後、私はステルス機でガラ・エリオスとともに地球へ向かうことになった。この時、私は彼にインタビューを試みたが、予想外の展開が待っていた。


#### 無言の英雄

まず、私は彼にガニメデとケレスでの戦いについて尋ねた。彼の戦術の独創性や、数多くの命を救ったことに関して話を聞きたかった。しかし、ガラは窓の外を見つめたまま、一言も発しなかった。

次に、彼が何故この戦いに身を投じたのか、火星の虐殺や海王星連合軍についてどう思っているのかを聞いたが、またしても沈黙が続いた。焦りを感じた私は、彼のリスクを冒す理由や目的についても質問を重ねたが、ガラの反応は変わらなかった。


#### 逆質問

突然、ガラは私に向き直り、逆に質問を始めた。


「お前はどこから来たんだ?」

この質問に驚きながらも、「地球出身です。ジャーナリストとしてこの戦争を取材しています。」と答えた。


次に彼は、「俺が誰かわかっているのか?」と聞いてきた。

「あなたはガラ・エリオス、対宇宙海賊の傭兵で、今は地球連合のために戦っている英雄です。」と私は答えた。


最後に彼は、「お前は良い者か、悪者か?」と問いかけた。

この問いに対して私は一瞬言葉を失ったが、「私は…良い者であると信じています。少なくとも、真実を報道し、人々に情報を届けることが私の使命です。」と答えた。

その後、ガラは再び沈黙し、窓の外を見つめ続けた。この沈黙の中で、彼が単なる戦士ではなく、何か大きな使命や背景を持っていることを感じた。


#### 後悔と理解

このインタビューは当時の記事にはならなかった。よくわからないということで、編集部によって没にされた。しかし、ガラとの対話は私の心に深く刻まれ、その後の私の報道活動に大きな影響を与えた。

ガラ・エリオスはその後、数々の戦場で名を馳せたが、彼が抱える謎と重責は未だに解けていない。彼の言葉と沈黙は、戦争の本質と人間の複雑さを私に教えてくれたのだと、今になってようやく理解できる。


*リア・カーヴァー*









地球連合軍 医療報告書

件名: クィナラ・ヴェリクス二等兵の精神状態に関する報告

報告者: 軍医 ドクター・セヴェリン・ハルド

宛先: カルダ・ニアス大尉 ならびに軍医総監 エリクス・ナザール少将

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1. 患者情報

氏名: クィナラ・ヴェリクス

階級: 二等兵

所属: 第15偵察部隊

年齢: 27歳

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2. 症状概要

クィナラ二等兵は最近、不可解な言動を示しており、エオド・ライデン軍曹の命令で小生の診察を受ける運びとなりました。以下はその主な例です。

• 突然のサナト・アズリス崇拝: ブリーフィング中、突如として立ち上がり、サナト・アズリスを称賛する発言を繰り返すようになりました。この行動は彼女の通常の性格とは大きく異なります。

• 独り言の増加: 一人で虚空に向かって話しかける場面が目撃されています。「お前は誰だ?」「はい、お告げに従います」というような内容です。会話の内容は断片的で、一貫性に欠けています。

• 任務中の異常行動: 指示を無視し、自身の行動を「サナト・アズリス様のお導きによるもの」と説明するケースが報告されています。

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3. 診断と対応

初期診断では、通常の戦闘ストレス症候群や典型的な宇宙精神病(Cosmic Psychosis)とは異なる兆候が見られました。過去に精神的な健康問題や過重労働の履歴がなく、精神的ストレスや負担によるものとも考えにくいです。また、彼女の行動は、自発的に発生したものであり、部隊内で危険な思想を吹き込んだ人物も確認されていません。家族や恋人にも新宗教に傾倒している人物はいないようでした。

以下の対応を実施しました。

• 任務軽減: 一時的に任務を軽減し、精神的負荷を減らすように努めましたが、症状の改善は見られませんでした。

• 専門医への紹介: クィナラ二等兵は、精神科専門医による精密検査と治療を受けるため、中央病院に送られました。

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4. 結論

クィナラ二等兵の症状は通常の戦闘疲労や宇宙精神病とは異なる特徴を示しています。症状が改善しない場合、任務の継続は難しいと思われます。

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報告者署名: ドクター・セヴェリン・ハルド













遠い銀河の先、星と星の間の暗黒から、全人類の、アズリス・ポジティブの脳構造を持つものへある通信が投げかけられた。

星と星の間の暗黒から、全人類の、アズリス・ポジティブの脳構造を持つものへの通信は、強き意志ガラ・エリオスの問いかけに対して答えていた。


「お前はどこから来たんだ?」


「お前たちが知る宇宙の外、大いなる力が集う場所から来た。無限の彼方に存在する高次の領域から、この有限の世界に降臨したのだ。」


「俺が誰かわかっているのか?」


「お前がだれかなど、知らない」アズリスは人間ひとりひとりの区別などしていない。ガラは、笑い出しそうになった。「興味もない。砂粒。猿……。」


「お前は良い者か、悪者か?」


「我こそは善のなかの善、根源にして至高、強き者すべての象徴、力のなかの力。宇宙の真理と調和をもたらす者。絶対的清浄救世天、サナト・アズリスである」





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**日誌**

**カルリラル・ヴァルトラ**


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今日、新しい瞑想法を試みた。冷凍室での瞑想だ。氷点下の中で、肉体を極限まで追い詰めることで精神が研ぎ澄まされると聞いた。だが、結果は…寒さだけが骨にまで染みただけだった。何も感じない。何を見落としている?


20年、この道を歩んできたが、成果はゼロだ。部下の中には、戦闘訓練の一環としてゼノの教えをかじった程度の者たちが、平然とサナト・アズリスの声を聞いているという。それを知ったときの屈辱感は、今もなお私の胸を締めつける。


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軍務は多忙を極め、今日も瞑想に費やせる時間はわずかだった。現実の問題が、つねに私の裁定を待っている。


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今日は新しい方法を試してみた。逆相共鳴理論に基づき、音波と周波数を使って脳波を誘導する。この装置は脳の未開発領域を活性化し、サナト・アズリスとの接触を可能にするはずだ。装置の中で耳を澄ましたが、結果は静寂のみ。空虚さが増すばかりだ。


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瞑想の最中、かすかな違和感を覚えた。過去に何度も失敗した方法の一つだが、今夜は少し違っていた。微細な意識の揺らぎを感じたのだ。これが進展の兆しなのか、それとも単なる錯覚なのかはまだわからない。しかし、20年に渡る試行錯誤の果てに、この程度の進展すら喜ばしいと感じてしまう自分がいる。希望を捨てるべきか、さらに深く追求すべきか?


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今夜は、犠牲者の血を用いた儀式的瞑想に挑戦した。伝統的な手法ではないが、古い記録にそうした儀式が記されていた。手順に従い、深い瞑想状態に入ろうとしたが、無駄だった。血の臭いが鼻を突くだけで、何も得られない。ただの無意味な行為だったのか、それとも私の心がまだ足りないのか。どうして私だけが…。


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ソギ司祭から手紙が届いた。サナト・アズリスの声を聞くために、幼い頃のトラウマに向き合うべきだと助言してきた。私にトラウマなどあっただろうか?その考えに従い、過去の記憶を掘り起こし、自分の心の奥底を探った。しかし、何も見つからなかった。私は、高エネルギーを扱うことだけに喜びを覚える単純な子供だった。私はサナト・アズリスの声を聞ける者たちがただ幸運だっただけだと考えたいが、それが事実ならば、私の20年間の努力は無駄だということになる。それは認めたくない。


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いっそのこと、自己を完全に捨て去るべきかもしれない。私の心、肉体、すべてを。だが、まだそれを行う決心がつかない。私がサナト・アズリスの声を聞けないのは、私がまだ何かに執着しているからなのだろうか?それとも、私にはそもそもその資格がないのか…。


私は、何かを見失っている。すべての努力は無駄に終わっている。だが、それでも私は諦めない。私はその声を聞くために、どんな手段でも使う覚悟がある。明日、新たな試みを行う。


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