第7話 姫様の命令
「おはようございま――」
「ちょっとデイジー!貴女何しでかしたのよ!」
朝一でベアトリーチェ姫がデイジーに詰め寄る。
麗しの姫君は腰に手を当てて、デイジーを大きなエメラルドの瞳で睨め付ける。
「エヴァン叔父様が貴女を貸し出せって言うのよ!
女嫌いで有名なあの叔父様が!」
「……………………はて?」
何とか返事を絞り出したが、我ながら間抜けな返答だ。
「叔父様……ですか?」
聞き返すデイジーを麗しの姫君は一瞬唖然とした後に、深いため息を吐いてから説明してくれる。
「呆れた!貴女そんな事も知らないのね!
エヴァン叔父様はワタクシのお母様の弟よ……腹違いのだけどね」
「あ……そうなんですね」
デイジーは田舎暮らしで世間知らずだった。
その上、急遽決まったお勤めに慌てて荷物を纏めるのに忙しく、話そこら辺の人間関係は知らないままにこちらに来てしまった。
おそらく此方では常識なのだろう。
王女に恥をかかせない様に早く覚えておかねば。特に王族とその姻戚関係は。
「まったく……しっかりしなさいよね!」
王女様は腕を組んでフンッとそっぽを向く。
その子供っぽい顔は、拗ねた時のデイジーの妹達に似ていて微笑ましい。妹達はこれを二人同時にそっくりな仕草でやるから笑いを堪えるのがいつも大変だった。
「ちょっと!何笑ってるのよ!」
どうやら顔に出てしまっているようだった。
デイジーも家を離れて気が緩んでいるのかも知れない。
仕事で来ているのだから、むしろ気を引き締めるべき時なのに。
どうにもデイジーはこの怒りん坊のお姫様のことが好きになりつつある。
「すみません……それで、宰相様が如何なさったのですか?」
「そうそう!聞きなさいよ!それが――!」
姫様の話を纏めると、なんとデイジーを秘書にしたいとの仰せだった。
もちろんベアトリーチェ姫がデイジーを気に入ってるようなら遠慮するが、出来れば週に一日程度でも良いから執務室に顔を出させて欲しいと。
その要請は驚くべきものらしい。
宰相様は独身だ。
そして、あの顔である。
大層女性人気が高く、募集もしていないのに引っ切り無し彼の下で働きたいという女性は年中列をなしているのだ。
それら全てをかなり冷たい対応で断っていることから、本当は男好きなのでは無いかという噂まであるという。
「――そういう訳!で、貴女はどうなの?貴女が嫌じゃなければ偶になら良いって答えちゃったけど。
……叔父様には多少は迷惑かけてるから少しは恩返ししたいし」
どうやら勝手に前向きな返事をしてしまった後のようだ。
「姫様が行けというなら行きますよ」
主人の命令に背くつもりは無い。
「そうじゃないでしょ!ワタクシは貴女の気持ちを聞いてるんだから、貴女の気持ちを答えなさいよ!
別に命令しても良いところを態々聞いてあげるのよ!」
デイジーは言われて少し考える。
正直、嫌な予感はする。
しかし、目の前にいる愛らしい姫君の暗殺のことを相談した関係がある。
関わってしまったからには、その対応の進捗を聞きたい。
それに……絵を褒めてくれた。宰相の無邪気な笑顔を思い返す。
悪い人では無いはず。
「偶に……働いてみたいです。秘書として」
ベアトリーチェ姫はそれを聞いて大輪の華の様に笑う。
「それが良いわ!そうそう、それに貴女結婚相手を探しにここに来たって聞いたわ!
エヴァン叔父様は独身だし……少し歳は離れてるけど若く見えるから、並んでそんなに変ではないわよ!
ちょうど良いじゃない!
ワタクシの姻戚になれるかも知れないのよ!
頑張りなさいよ!」
「いえ……私はもう少し地位の低い跡取りじゃない男性に婿入りして欲しくて……次男か三男辺りが……」
勝手に姫様の中で進みそうな話に堪らずデイジーが口を挟むが、姫様は止まらない。
「叔父様の相手はそこら辺のワタクシの知らない相手じゃ嫌だと思ってたのよ!
それに貴女も叔父様と結婚すれば田舎に帰ったり出来なくなるものね!
名案だわ!何としても叔父様を射止めてきなさい!ちゃんと叔父様との仲がどれくらい良くなったかワタクシに報告するのよ!
これ、命令だから!」
ベアトリーチェ姫は大層ご機嫌なご様子だ。
姫の中では既に決定事項である。
デイジーの婚活は始まったばかりで既に暗雲が立ち込め始めていた。
♢♢♢♢♢
デイジー・スミシー
主人公。目立たない。茶色の髪と瞳。
スミシー伯爵家
父ジョン 金髪碧眼。デイジーと顔は似てる。
母ジェーン 茶色の髪と瞳。美人。
ローズ、リリー 長身スタイル抜群金髪碧眼の双子。姉を慕っている。トラブルメーカー。
エヴァン・アラバスター 銀髪長髪灰眼。女嫌いで有名。デイジーの男装がツボ。
ベアトリーチェ・エルミア・グランディア王女
プラチナブランドにエメラルドの瞳の12歳。ワガママ。
メアリー・アダムス侍女長 侯爵夫人。いつも眉間に皺が寄ってる。
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