第12話 毒の入手。そして今後

「え、あ、はい!一人で掃除してろって……言われました」


 デイジーは俯いて顔を隠しつつ答える。

 気の弱そうな様子を演出したが、声が震えるのは半ば本当に恐れているからだ。

 正体が目の前にいるペネロペにバレたらどうするべきか。

 メイドのディアナとしては顔を合わせたばかりだ。


「んん?あんた何処かで見たような顔してるような……」


 ペネロペが顔を覗き込んでくる。


「……あんた可愛い顔してんね」


 褒められた。


「これ、ベアトリーチェ姫の食事担当のメイドに渡しておいてよ。

 えーっと……ディアナって名前の子ね。

 なんか鈍臭い感じの。

 顔は……なんか覚えてないけど髪の色はあんたみたいな色だったし、名前言えばわかるでしょ。

 掃除なんて適当で良いんだから。必ず渡しなさいよ。

 わかった?」


「はい。わかりました」


「絶対だからね!」


 デイジー少年に釘を刺しつつペネロペは立ち去った。

 念のためにその背中が見えなくなるまで暫く待ってからデイジーもその場を後にする。

 少年の方の偽名は名乗るタイミング無かったな。


「さて……これが猛毒か。

 さっさと手放すに限るかな」


 移動前にメイド姿に変装し直す。

 使用人の少年はあまり王宮内を歩き回るのには目立って適していない。


 三つ編みを解いたが、髪に癖がついてフワフワと広がるが仕方がないから手櫛で簡単に整えてから毒をしっかりと落とさないように持って宰相閣下の元へ行く。


 途中でノエル・ジョンソンが声をかけてきた。

 ちゃんと側で見張っていてくれたらしい。

 騎士って尾行もできるのね。

 それともノエルだけの特技かしら。


「宰相閣下のところに行くんですよね。

 お供しますよ」


「ありがとうございます」


(これで私の仕事は終わりではないかしら?

 ……でも姫様が毒を飲んだ芝居をするって言ってたわね。

 止めても聞かないでしょうし宰相様も頭が痛いでしょうね)


 ベアトリーチェ王女付きの侍女であるデイジーも、もちろん他人事では無い。

 

 そして、デイジーとノエルは宰相の執務室に。


「デイジー・スミシーです」


 ノックの後に名乗ると、入るように中から促された。


「ん……ジョンソンも一緒か」


「はい。ここまで念のために令嬢の護衛をと思いまして」


 人使いの荒い宰相とは違って、ノエルはやはり紳士的だ。

 騎士道という奴だろうか。

 宰相閣下も事務仕事ばかりしてないで、たまには剣でも握ってノエルのような騎士道精神を持って欲しい……などなど、失礼なことをデイジーはつい考えてしまった。

 もちろん顔には出さない。

 デイジー鉄壁のアルカイックスマイルで愛想を振り撒く。


「それで……姫様をどうやって止めますか?」


 デイジーは一番の懸念を早速質問した。

 それに対して、宰相は口元をニヤリと意地悪く歪めた。


「何を言っている?姫様がせっかく芝居を打ってくれると仰せだ。

 舞台を整えて盛大にやるぞ。

 ……もちろん君の活躍も期待しているよ。デイジー嬢」


 デイジーのアルカイックスマイルにヒビが入りかける。

 何を言ってるのだこのスカポンタン!

 大事な姪っ子に危険な真似をさせるのか?


「ノエル……君も同様だ。

 君にはデイジー嬢を守ってもらう。命懸けでな」


 ノエルは目をまん丸くした。

 仕方がない。

 こうなったらデイジーとノエルは一蓮托生だ。


(はぁ……憂鬱だけど、ノエルの仕事っぷりを確認するチャンスかしら。

 私のアピールは……って命が掛かってるからそんなことしてる場合じゃないのか。

 早く田舎に帰りたいわぁ……)


 命懸けの世紀の大芝居。

 デイジーはもちろん端役なのだろう。そうでなくては困る。

 

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