婚活令嬢デイジーは宰相様お断り 〜腹黒宰相様が邪魔するから私は婿を連れて田舎に帰れないのですが!?
ありあんと
第1話 デイジーという少女
田舎育ちの伯爵令嬢デイジー・スミシーは目立たない少女だった。
デイジーときたら、それはもう本当に信じられない程に目立たない。
ちゃんとその場にいたのに、家族にすら記憶されていない事が、子供の頃から何度も何度も何度もあった。
家族で旅行をした時には存在を忘れられて旅先に置き去りにされた事すらあった。
友人達と集まっていて何故かデイジーの目の前で、デイジーが存在しないかの如く振る舞われる事も日常茶飯事。
意地悪で無視されている訳では無い。
なんなら皆んなにそれなりに好意的に思われているのは確かだけど、気がつけばデイジー以外で話に夢中になっている。
友人達二人だけの秘密の話らしいものを、よくわからない三番目の立場ですぐ近くで聞いてしまった事も一度や二度では無い。
そのせいで無駄に誰かの秘密とやらを知る立場になっている。……悪用する気はないけれど。
もしかして、自分は透明人間になってしまったのかしらんと、鏡で確認する事もあった。
実は……あまり知られていない事実だが、デイジーの顔はまあまあ整っている。
左右対称に配置されたパーツ。目は少しだけ平均より大きいか。
とにかく目立つ欠点は一つも無い。
そして、人様に指摘されるような欠点が無い分だけ――特徴が無い分だけ――その顔は周囲に覚えてもらえず埋没した。
髪と瞳の色は明る過ぎず暗過ぎない茶色。
どこの地方に出向いても最大多数でいそうな色味だ。
デイジーが目立たない理由は他にもあった。
彼女には非常に目立つ妹がいたのだ。
しかも双子。
明るい鮮やかな金髪に青いパッチリ大きな瞳。
とにかく二人そっくりで華やかな目立つ容姿をしている。
妹達……ローズとリリーは長身で出るべきところが出ている。
それに比べて姉のデイジーは背が低く、胸元が控えめで口数そんなに多い訳ではない。
双子達とは大違いだ。
その上おしゃべりな妹達は二人揃って、無限に交互に或いは同時に喋り続ける。
しかもちょっぴりワガママでトラブルメイカー。
そんな様子では、両親も姉妹達の近くにいる他の人達も全員が目立つ双子のことばかり視界の中心に入れてしまう。
デイジーは視界の端に入るか入らないかのギリギリの場所に常にいた。
両親も……デイジーもそんな状態に何も思わなかった訳ではない。
容姿で存在感を出せないのならば、他のことで目立たせれば良い。
スミシー伯爵夫妻はありとあらゆる習い事の教師を呼びつけた。
教師が平民だったり家柄がそこまで高くなくても気にしなかったのが功を奏し、スミシー伯爵領には――引退済みで高齢な人が大半だったが――大変高名な一流の指導者達がそこそこの給金でも来てくれた。
デイジーは令嬢なのに、剣術に乗馬に狩りに弓術をやらされた。
芸術はどうかと絵画を描かせたり、楽器も弾かせた。もちろんダンスも一通りやっている。
勉強も女にしてはそこそこしただろうか。
どれも教師達に手放しで褒めてもらえるような意外な程の素晴らしい才能を見せた。しかし、それで目立つのは一瞬。
何故かあっという間に忘れられる不思議な特性の持ち主、それがデイジーという少女だ。
……残念ながら田舎ではその才覚を見せびらかす機会がそもそも少なかったという事もある。
田舎者の両親のプロデュース力不足もデイジーが衆目を集められなかった理由の一つだった。
そんな王国の片隅でひっそり生きて来たデイジーもそろそろ結婚を意識するお年頃。
両親はある日唐突にデイジーに告げた。
「王宮に行って、ベアトリーチェ姫の侍女として花嫁修行して来なさい。
そして……こっちがメインの目的だが、うちに婿養子に来てくれそうな、家柄が釣り合う貴族の家の次男三男あたりを探してゲットしてくるんだ」
こうしてデイジーの婚活がスタートした。
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