第4話 ワガママ姫
人を試す様なベアトリーチェ姫の好奇心を隠しもしない瞳に内心驚いていたが、デイジーは対外的なアルカイックスマイルを浮かべる。
そして、貴族令嬢として可もなく不可も無い挨拶をする。
「ご機嫌麗しく……ベアトリーチェ殿下……」
「堅苦しいわね!とりあえずお茶を淹れてくれるかしら?」
ベアトリーチェはせせら笑うように、手をヒラヒラとして、サッと椅子に座った。
これは手厳しい。
ワガママ姫と聞いていたが、とにかく自分のペースでガンガン話を進めるタイプの様だった。
デイジーはお茶を淹れる。
お茶への拘りがあった方が特徴になる!との母の主張から、それなりに知識と技術を仕込まれている。
結局それで覚えてもらえる日は来なかったが、こうして役立つ日が来ようとは。
王女の前にカップを置く。
「あら?貴女の分は?貴女も座りなさいよ!
…………何コレ、美味しいわね」
王女が意外そうに目をまん丸くする。
そしてもう一口啜る。
「デイジー、貴女の分は私が淹れるから座りなさい」
メアリー侍女長にも促されて、王女の向かい側に座る。
王女がキラキラと好奇心に輝く大きな瞳でデイジーを感心した様に見つめる。
「貴女って本当に地味ね!もう少しオシャレしないの?」
王女にオブラートに包むという概念は無いようだ。
王女はズバズバと言いたいことを言うタイプ。そして中々のお喋り。
「いえ、私には派手なのは似合わな……」
「違うでしょ、派手にしろ……じゃなくて、ワタクシはもっとオシャレしろって言ったのよ。
髪だって良く手入れしているんだし、肌だって綺麗なんだから装飾品も化粧もあと少し頑張れば良いのに」
容姿について褒められる事はほぼ無かったので、驚いて少しだけ反応が遅れる。
そのデイジーの様子を観察してベアトリーチェ王女は確信したように口を開く。
「――もしかして、近い人……姉妹とか?で派手な美人がいるんでしょ。
その人と比べて自分には似合わないって思ってるの?
別に比べられるのを気にするなとは言わないけど、こうして実家離れたんだし一旦全部そんな事は忘れれば良いのではないの?」
「そうですね……妹が二人、美人で有名です。
姫様ほど美しい訳では無いですが」
この姫様が避けられる訳がわかってきた。
恐らく年齢の割にはかなり聡い人だ。
しかし、相手の都合を慮って優しい言葉を投げかけるような配慮をしない。
言いたいことを思った時にすぐに言うことを信条としているようだ。
その点では非常に幼い。
高い身分もその言動に拍車をかけているのだろう。
相手が国王の最も可愛がっている姫君とあっては、不愉快に思う人がいても言い返しはできない。
本音を言い当てられ、懸命に隠しているコンプレックスを暴かれることを望む人はそう多く無い。
結果として、様々な理由をつけて侍女達は側を離れていくのだ。
「ついでにだけど、ワタクシにそんなおべっかは使わなくって結構よ。
ワタクシが美しい事はワタクシ自身が十分にわかっているもの」
メアリー侍女長が、王女から見えない位置でそっとため息を吐いたのが、視界の端に映った。
デイジーはと言えば、双子の妹達もここ迄では無いものの、ズバズバと言うタイプだったので割と耐性がある。
それに、姫様は幸いにして双子では無いので、左右両方から同時に喋り出す恐れがないのは大変助かる。
その後もお姫様は好き勝手に喋り続けていたが、お茶を三杯もお代わりした頃にようやく解放された。
「貴女面白いわ。田舎に帰ってもきっと良い事なんてないのだから、ここに長く勤めなさい」
どうやら気に入られたらしかった。
でも、婚活のために来ているから長く居着くわけにもいかない。
婚期を逃して妹達に迷惑は掛けられない。
デイジーは曖昧な笑みを浮かべた。
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