第10話 メイドの仕事

「今日からここでお世話になります。ディアナ・ドウと申します」


 ディアナ……ことデイジーはメイド服を着こなして、初々しく先輩メイドで指導役のペネロペ・ガードナーに挨拶をする。


 ペネロペは王女の食事を用意する担当として二年ちょっとの経歴がある。

 本人も若く、キツイ顔立ちだがまあまあの美人。しかし、アーガイル侯爵がこの人を気に入ったのは、なりよりベアトリーチェ王女に直接害をなするのにうってつけの仕事をしていたからだろう。

 そして、その仕事をディアナが受け継ぐ事になっている。

 


「そう……さっさと仕事を覚えて貰わないと困るわ。

 一度しか言わないからよく聞きなさいよ」


 ペネロペはあまり良い指導役では無さそうだったが、デイジーはなんとか仕事を覚える。

 ペネロペの指導には熱が入っていない。

 新米を使い捨ての毒の運び役にするつもりならば当然の事だ。

 ただ一度、言われた通りに毒入りの食事を運べばそれで終わりの存在だ。


 本物のディアナは宰相によって保護されている。

 アーガイル侯爵に選ばれた、王女暗殺の疑いがかかっても構わない無知な平民である。

 

 ディアナは少し粗忽なところがあり、王女に何度か叱責されていたのを周囲が見ていた。

 ……最も、王女はありとあらゆる人にすぐに怒るので、それで暗殺を考えたなどとするのは少し無理やりな気もする。

 しかし、要はディアナがやった証拠さえ見つかれば多少の無理は有耶無耶になるものだ。

 捏造されるだろう証拠は、宰相が別の人間を使って調べている。


 今回アーガイル侯爵が用意する毒物はディアナの出身地域でよく野生で生えている植物から精製されたものだ。

 それを口にしてから一時間ほどで体調が悪化し、数時間もすれば呼吸が止まる。

 ほんの少量でも口にすれば危ない猛毒だ。


 ディアナの髪の色が茶色く、デイジーと大きく違わなかったのは幸運だった。

 ペネロペはディアナの特徴を侯爵から聞いているだろうけれど、目の前にいるのが別人だとは少しも疑ってはいない様子だ。


(一応化粧で少しは普段と違って見えるように頑張ったけど効果はあるかな?)

 

 実はデイジーはいつもより濃いめの化粧をしている。

 何しろ、これからデイジーは一人二役でペネロペに暗殺の指示を受けるのだ。

 


「……ちょっと、あんた聞いてるの?」


 曖昧な笑みを浮かべているデイジーに、ペネロペから叱咤が飛ぶ。


「はい。えっと、それで王女は持病のお薬を飲んでくれないんでしたっけ」


「そうそう!ちゃんと聞いてるじゃない。

 だからね、使用人の子供が新しいのを届けてくれるからスープの中に全部入れなさい。

 いい!?他の人のに入れたらダメだから!

 王女に気付かれないように薬を飲ませるのも私達の仕事なのよ」


「はい!わかりました」


 デイジーは聞き分けの良い表情で、ハキハキと返事をした。


 

 


 

 

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