穏やかな口調で語られてゆく恐怖と悲哀の物語

オカルティックな「遍路X」の噂の真相を解き明かそうと、四国に出かけた主人公モリ―とその友人キヨくん。その旅がもたらしたものはキヨくんの無残な死でした。モリ―は彼の死に打ちのめされ、しばらく廃人のようにアパートに閉じこもります。そこにやって来たのは、遍路の旅で知り合いになった作家の庭さんでした。庭さんはモリ―にもう一度四国へ行こうと誘い、キヨくんの死の謎を解明するためにモリ―はその提案に応じます。

って、これはほとんど作品概要に書かれている内容なのですが、これを見ただけで、ミステリ好き、ホラー好きの人なら飛びつきませんか? おいしいにおいがプンプンです。ちなみに、コメント欄を拝見する限り、作者さまは実際に四国の歩き遍路をご体験されているようです。四国を自らの足で一歩一歩踏みしめていく場面の臨場感も納得がいきます。

丁寧で丹念な描写には安心感があり、次へ次へといざなわれていくこと間違いなしです。モリ―とキヨくんの性格の対比、ひとりで暗い四国を歩くモリ―の孤独と恐怖、無邪気さが前面に出たキヨくんの行動、庭さんの穏やかな雰囲気、どれもが心地よく読み手を本作品へと没頭させてくれます。

ホラー要素満載の前半は、ところどころ叫びだしたくなるほど怖いです。そこから謎解きへとつながってゆき、モリ―は真相へと徐々に近づいていきます。

ミステリという性格上、詳細を語れないのがもどかしいです。そうですね、第三話、第三話まで読んでみてください。そこまでに、この作品の魅力の多くが詰まっていますから。

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