第8話
俺は1人でただひたすら、この直径12キロもある草原を歩いていた。
「はぁ、はぁ……」
初めこそは、モモたちを追いかけて走っていたのだが、ものの5分もしないうちに体力が切れてしまい、歩き始めた。
その結果、モモたちの背中が見えないほどまで差がついてしまった。
「動物早すぎ……無理死ぬ……ゴホッゴホッ」
俺は時々むせながら歩いていた。
やはり、運動音痴には12キロ全歩きはキツかった。帰りたい。
しかし、昔話の桃太郎に出てくる、3匹の家来(鶴はきじの代わりだと思う)が揃ってしまった今、俺はもう、さっさと鬼退治を終わらせて、老夫婦の下へ帰る方が良いと思い始めていた。
「おーーい!ももたろーさーん!!早く来て下さーい!」
遠くで、モモの声がした。
しかし俺は、返事をするほどの体力が残っておらず、反応を諦めた。
「はぁ、はぁ、休みたい……暑いし死にそう……喉乾いたし……」
実は、
唯一口に入れられるものは、余計に喉が渇きそうなきびだんごだけだ。
「ももたろーさーん!こっち、川、ありますよーーっ!」
今度はショージの声がした。
「か、川!?やった、水だ!」
俺は、ここまでの疲れが吹っ飛び、ルンルンで走っていった。
俺は死にかけながらも、見事12キロの草原を走り(5/6以上歩き)抜いた。
すぐそばに小川が流れており、3匹はそこで涼んでいた。
「あっ、桃太郎さん!お疲れ様です!」
モモがいち早く俺に気づき、駆け寄ってきた。
「お疲れ様です!」「桃っちおっつ〜」
ショージとみこっちも、労いの言葉をかけてくれた。
「桃太郎さん、ここの小川の水、凄く美味しいですよ!お疲れでしょうし、飲んでみて下さい!」
モモが水分補給を勧めてくれた。
「はぁ、はぁ、ありがと、モモ……」
俺は小川に近づき、両手で水をすくって飲んだ。
今までで一番美味しいと感じた水だった。
「桃っち〜、あっちに『この先、鬼ヶ島』って看板あったよん」
俺が小川へ感謝しているうちに、みこっちがこの先の道を確認してくれていた。
「ナイスみこっち!」「わざわざありがとー」
モモとショージが感謝を述べた。
「桃太郎さん!荷物、重いですよね。私持ちますよ!」
そう言ってモモが、俺の新品の小袖と、きびだんごと、刀を持ってくれた。
流石はモモ。気が利く。
「モモ、ありがとー。それじゃ、行こっか」
俺の体力もそこそこ回復したため、俺達はその『この先、鬼ヶ島』という看板まで行くことにした。
小川に沿って歩いていくと、対岸側に看板が見えた。
「あ、あれじゃない?みこっちが言ってた看板って」
俺が指を差しながら言うと、みこっちが頷いた。
「あ、本当だ。『この先、鬼ヶ島』って書いてありますね」
モモが小川を軽々と飛び越え、看板をジャンプして見て言った。
「え、僕も見たい」
ショージがそう言って、小川を軽々と越えた。
みこっちもそれに続いて、小川を飛び越えた。
「え、待って俺も行く」
俺も飛び越えようとしたが、小川の幅は2メートルくらいあり、足がすくんでできない。
「うっ……俺無理だ……」
「桃太郎さん!大丈夫です、できますよ!」
弱音を吐く俺を、モモが励ましてくれた。
「で、でも……」
「桃っち、がんばー!」
みこっちも応援してくれるが、俺の足は動こうとしない。
「せーので行きましょう!せーのっ!」
ショージは無理矢理俺を飛ばせようと、掛け声をかけた。
「う、うわぁぁっ!」
俺はショージの掛け声に合わせ、無理矢理飛んだ。
───バシャン!!
3匹が、静かになった。
俺は、小川の真ん中に座り込んでいた。
「……えっ?」
俺は一瞬、理解が追いつかなかった。
「と、飛べてないじゃん……」
ちなみに、小川の深さは、足首までもなかった。
俺は立ち上がり、バシャバシャと飛沫を上げながら、小川から上がった。
「最悪……」
「えと……桃っち、どんまい」
みこっちが、少し遠慮がちにそう言った。
「着替えならありますしね……」
モモが、持ってくれていた俺の新品の小袖を差し出しながら、そう言った。
「うん……ありがと……」
俺はモモから小袖を受け取り、着替えるため木の陰に向かった。
ビチョビチョの古い小袖は、木に引っ掛けておいた。
「よっし、切り替えていくか!」
着替え終えた俺は、俺の頬を手のひらで叩き、3匹に明るく、そう声を掛けた。
「そ、そうですね……!」
「行きましょ行きましょ!」
「れっつらごー」
3匹も反応してくれた。
看板に示された小道を歩いて10分ほど。
地面の質感と色が変わってきた。
草はほぼほぼ生えておらず、地面は茶色っぽい岩だらけで、ゴツゴツしている。
「な、なんか、火山の麓を歩いているようですね……」
モモがビクビクして歩きながら、そう言った。
「確かに、ぽいですね。何でしたっけ、流れ山地形でしたっけ」
ショージが頭をポリポリ掻きながら言った。
「マジ鬼ヶ島って感じ〜。桃っち、ちょっぱら行こ〜」
みこっちがそう言い、俺の手を引いて走り出した。
鶴って走れるんだ……たしか折り紙で走り鶴ってあったよな……。
走っていくと、一軒の家にたどり着いた。
「はぁっ……はぁっ……みこっち早すぎ……」
俺はすでに死にかけていた。
ちなみにモモとショージも走ってついてきていたが、全く息を切らしていなかった。
これが人間と動物の差。
目の前にある家はさほど大きくはなかった。
現代の1LDKの平屋より小さいくらいだ。
入口の戸の横には、『鬼三郎』と書かれた、木製の表札がかかっていた。
「え、文字が書ける人なの!?」
俺はめちゃくちゃ驚いた。
この時代に文字を習得している庶民はほぼゼロなのだ。
「えっ、わっ……ど、どなたさま!?」
俺の驚いた声に気がついたのか、家の中から声が聞こえた。
「えっ、わっ……中に人、いたの!?」
そして俺は家の中から聞こえた声に再び驚いてしまった。
「桃っちビビリすぎ笑、ぼ〜ん、お邪魔しまっす!」
みこっちが平然と戸を開け、家に入っていった。
モモとショージもついて行ったので、俺も仕方なくついて行く。
中は、一人暮らしにしても、ガラッとしていた。
「わーっ!お客さんなんていつぶりだろう!?いらっしゃいませ〜!どーぞどーぞ、こちら上がって下さい!」
中にいたのは、体が青く、黄色い角を頭に2本生やした、鬼だった。
「おおお鬼!?」
俺はつい身構えたが、3匹は身構えることもなく、素直に部屋に上がっていた。
「えっちょっ、みんな!?」
「桃太郎さん!この方、多分良い人ですよ!僕が保証します!」
ショージがグーにした右手を胸に当て、そう言った。
「で、でも……」
「桃太郎さん、一回上がりましょ!どっちみち刀は私が持っていますので!」
モモもそう説得してきては、もう反対はできない。
俺は仕方なく、鬼の家に上がった。
これ桃太郎とその家来っていう
俺達は青い鬼に、家の真ん中にある囲炉裏の周りに座ることを進められた。
囲炉裏の周りには、紫色の座布団が五枚惹かれていた。
俺達は進められるがままに、その座布団に座った。
「ちょっと待ってて下さいね!今お茶を入れますから!」
青い鬼が、台所に早歩きで向かった。
「……ねえ、本当に大丈夫だと思う?」
俺は青い鬼が背中を向けている隙に、3匹に小声で話しかけた。
「うーん、攻撃姿勢は無いですよね」と、モモ。
「お猿の勘は、大丈夫と言ってます」と、ショージ。
「だいじょーぶっしょ」と、みこっち。
うん、みんな楽観的すぎないか?
これ鬼退治をする『桃太郎』っていう昔話の世界だよ?
「すみませーん!お待たせしました!」
青い鬼が、5つの湯呑みをお盆に乗せて、早歩きでこちらに来た。
そして青い鬼は、湯呑みを一つ一つ丁寧に、それぞれの座る前に置いた。
湯呑みには、濃いめの緑茶が入っていた。
しかも、5つ全部のお茶に、茶柱が立っている。
え、これ本当に鬼ですか?
俺は村にいる頃、『鬼は人間に強い憎しみを持ち、誰構わず攻撃してくる』と教えられていた。
だから、その教えと全く逆の行動を取るこの青い鬼に、不信感を抱いてしまっていた。
「あっ、渋かったら言って下さい!お砂糖足すんで!」
いや、緑茶に砂糖入れたら美味しくないでしょ。紅茶じゃあるまいし。
それに砂糖なんて、庶民が手に入れられるものではない。
なぜそれを鬼が持っているのだろうか。
もしかして、村を襲って、盗んで……
「あ、そうそう、挨拶を忘れましたね!自分は鬼三郎って言います!青鬼です!この島の最期の鬼です!」
鬼三郎は、笑顔でそう言った。
「この島の最期の鬼……?」
〜ひと口momo〜
【次回予告】
遂に鬼に遭遇した桃太郎たち。しかし、そこにいたのは、村での教えと矛盾する、心優しい、1体の青鬼だった。『この島の最期の鬼』とはどういう事なのか。そして、この鬼によって初めて明かされる、桃太郎の真の
【お知らせ】
先日、この『新・桃太郎伝説』の文字数がカクヨム甲子園の応募可能文字数をオーバーし、不参加となったことで、私は少しもったいないと感じてしまい、締め切り前日に降ってきたアイデアを、深く考えずに文字にして、短編小説として投稿しました。
実はこの『新・桃太郎伝説』と、ほんの少し関連しています。
良ければそちらの方も、閲覧してみて下さい(^^)
『ぼっちちゃんと無口くん』
https://kakuyomu.jp/works/16818093084641835043/episodes/16818093084642558424
※どこが関連しているかは、後日配信する、『ぼっちちゃんと無口くん』
解説近況ノートをご覧ください。
【お詫び】
またまた、更新日詐欺いたしました。
もう言い訳はしません。
申し訳ございませんでしたm(_ _;)mモウシマセン
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